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第三十話 戦勝パーティ(1)

 連合国と終戦協定を結んだ帝国・連邦は協定締結から二週間後に戦勝パーティを開いていた。


「さっむ。」


 アルベルト・シュタイナーは一人古い城のバルコニーにいた。帝国であればもう春が終わるというのに連邦ではまだ外の気温は低く身震いする。かといって室内に戻る気にもなれなかった。


「はぁ。ここまで人間関係が拗れたのはいつ以来かな。」


 終戦間際の戦闘で隊長であるソフィアが死んで以降、ユリアとの関係がかなりぎくしゃくしていた。

 というよりも彼がそうなるようにしていた。

 普段からユリアにあまり会わないように彼女がよくとおる道などを把握して避けていた。


 そんなことをしているうちに余計に会いづらくなっていた。


(この状況を打破できるとしたら、隊長がいてくれたらもう少し楽だったのに……。)


 今でもふとした瞬間にソフィア頼ってしまう。

 そうやって徐々に精神が参っている状態になっていた。

 そんな気分を払拭するために夜明かりが一切ない黒い空を見上げる。


 そうして寒さに耐えながら星座を探していたら背後から足音が聞こえた。それを聞かないふりをしてアルベルトはひたすら詳しくない星座を探していた。


「こんなところでどうしたの? シュタイナー准尉。」


 しかしその声にアルベルトは少しだけ驚くと後ろを見る。そこにいたのは緑色のドレスに上着を羽織ったエミリアだった。


「アークウィン大佐?」


 なにも考えずにいたためふとそんな間の抜けた声が出てしまう。しかしその後すぐに姿勢を正すと敬礼をする。


「失礼しました。なにか自分に御用でしょうか。」


 先ほどまでの丸めた背中とは異なり背筋をピンと伸ばす。その彼の様子にエミリアは少し怪訝そうな顔をする。


「いや、特に用事はないのだけれど。私は少し人と話すのに疲れたからここに来ただけだし。それと今は敬礼はしなくていいから。」


 エミリアはそういうとバルコニーの手すりに腕を置く。それを見てアルベルトは敬礼を解くと、エミリアに倣って外の風景を見る。

 そうして二人の間を無言の時間が過ぎる。アルベルトはなにかエミリアに話しかけた方がいいのかと考えるが、とくにこれと言って共通の話題が思いつかなかった。


「それでは自分はこれにて失礼いたします。」


 その場の空気に耐えられなくなったアルベルトは、そういうと立ち去ろうとする。その様子をふと見たエミリアはなんとなく彼が無理をしているように見えた。


「待って、シュタイナー准尉。」


 だから思わず彼を呼び止めてしまう。

 しかし、なにを話せばいいのか、彼女にはわからなかった。


「もう少しだけお話でもしない?」


 そうして数秒考えて彼女の口から出た言葉はそれだった。しかしアルベルトはそんな彼女の言葉に安心したかのような表情を見せた。


「すみません。アークウィン大佐。自分は今少尉です。」


 そして彼女の言葉をそう修正した。



 ユリア・ベッソノワはパーティ会場で人探しをしていた。

「見つからないか。」


 ピンヒールでいつもより十センチ程度高くなった背丈で金髪の青年を探す。恐らく自分のことを避けてどこかにいるのだろうとは思っていたが、中々その人物は見当たらなかった。


「外に出てみるか。」


 ユリアは自分の上着を取るために会場の出入り口に向かった時だった。


「ベッソノワ准将。」


 しかしそんな彼女の思いとは裏腹に邪魔をするかのように話しかける人物がいた。ユリアは吐きたくなるため息を抑えると仕事の顔をする。


「お久し振りです。アガニコフ候。」

「家督を継いだ時以来だったか。どうだ、基地の運営の方は。」

「はい。様々な方のお陰で今のところなんとかやっております。」


 あたりさわりのない言葉で連邦の七家門の一人、アリード・アガニコフに対応する。しかし本当のことを言うとユリアはこのアガニコフが苦手であった。彼からなにか嫌がらせを受けたことは無いが、直感的に相性が良くないという予感があった。


「バーベラ大佐の件は残念だったな。」

「それに関しては、はい。確かにかなり手痛いものでした。」


 死んでしまったソフィアのことを考えると胸が詰まる思いがするが、それをユリアは微塵にも表情に出さない。


「大佐は私から見ても優秀な人物だった。それになにより忠義も厚かったからな。」

「はい。」


 彼女にとってはそんなことは言われずとも分かっていた。


「だから、悲しむなとかは言う気はない。ただそれでも周りの人はしっかり見なさい。別に彼女一人が特段に忠義に厚いというわけでもない。他にも恐らく貴候に尽くしてくれる人間は多いだろうな。だが、それでもまだ若い。一度ゆっくり休んで周りを見るのもいいだろうな。そうすれば色々と見えてくるかもしれんぞ。」


  まぁ嫌なことも見えるだろうがな、とエフゲニー・バラノフは言うと大きな声で笑う。


「それは重々分かってはいるつもりです。」


 バラノフが言った言葉はユリアもまた普段からソフィアに言われていた言葉であった。

 特にアルベルトは大事にしろと、散々言われていた。

 その理屈自体は決して分からないものではなかった。ただ言葉では理解できていても、感情がそれに追い付かなかった。

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