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第二十九話 終戦(2)

「停戦協定か。」


 連合国の首都バグディード攻略作戦から旗艦であるコンゴウに戻ったアルバートは自室に戻るとベッドに座った。


「勝ったというのになんか胸糞悪いな。」


 バグディードの惨状を目にした彼は戦争がどういうものかと理解をした。

 恐らく攻撃に巻き込まれた民間人もたくさんいたため、たくさんの遺体がそこにはあった。


「これで連合国も戦うのを諦めてくれるといいが。これ以上戦争はなぁ。」


 彼はそう呟くとベッドに寝転んだ。



 アルベルト・シュタイナーはユリアが率いる第七艦隊旗艦ジェルジンスキーの司令室に呼び出されていた。


「なぜあの時持ち場を離れた。」

「それは……、いえ、申し訳ありませんでした。」


 剣呑とした表情のユリアにアルベルトは答えを言うことを憚られた。持ち場を離れたのはソフィアの指示に従ってのことだった。だからそれ自体に問題は無かった。しかし、それをこの場で言うのは違う意味でまずいと理解していた。


「お前があのとき離れていなければ、ソフィアが死ぬことは無かったのに……。」

「申し訳ありません。」


 そう自分に怒りをぶつけてくるユリアにアルベルトはなにもいうことができない。

 本当ならばこの場から逃げ出したくもあった。しかしそれでもこの場を離れることをしなかったのはソフィアから色々と託されたものがあったからだった。


「もういい、下がれ。」


 冷たく放たれるその一言にアルベルトは動くことができなかった。


「下がれと言っている!」


 微動だにしないアルベルトにユリアは手元にあったティーカップを投げつける。それはアルベルトの体に当たると床に落ちる。その痛みは物理的には特に大したものではなかったが、精神的には彼に来るものがあった。


「早く出ていけ!」


 怒鳴るユリアにアルベルトは今の状態ではどうすることもできないと考えて彼女の部屋を後にするしかなかった。



 いつもソフィアの機体が格納されていたハンガーの前で、ベッソノワ家の親衛隊の一員であるイオク・リャーエフは同期であり、ユリアの副官でもあるルーシー・メーチェから司令室であったことを聞いていた。


「そっか、そうなっちゃたか。」


 イオクは普段の明るい飄々とした声ではなくくらい感じの声で言う。


「はい。なので彼のメンタルケアとかしてあげてください。」

「と言っても彼は親衛隊から異動になっちゃったからね。出来ることはあまりないかな。」


 そう寂しそうにイオクは呟く。彼としては極力助けてあげたいところではあった。


「左遷人事で、よりにもよってダーロウィ大尉のとこに行くみたいだし。」

「そうですね。あの人の部隊、中々凄いみたいですね。」

「やっぱり士官学校時代から変わらずに女王様でもしてるの?」

「らしいです。そして彼女の部下のアーバン中尉も結構彼女の言葉に心酔しているようで。そして最後の一人がいつも辛い目にあっていると聞きます。」

「うわぁ……。」


 彼女の情報にイオクは思わずもう一度ドン引きをしてしまう。


「これでいいんでしょうか。」

「良くはないんだろうけど。ただこればっかりは本人同士の問題だから。下手に首を突っ込みたくはないかな。」


 それはただ単に面倒だから首を突っ込みたくないだけだろうと、醒めた目でルーシーはイオクを見る。


「ただ、こんな報復人事のようなことは……。」

「今回の件では司令だけでなく、ユリオン中佐、あぁ今は大佐か、もかなり彼に対してヘイトを向けているからね。」

「今回なにか彼に問題とかありました?」

「いや、あの状態ならなに一つ間違ってないよ。だけど運が悪かった、それだけかな。まぁ元々ユリオン大佐とは折り合いが悪かったし。」

「そういえばそうでしたね。」

「少尉はバーベラ大佐のお気に入りだったからね。それでユリオン大佐嫉妬して拗れてたんだけど、それが今回の件でもう完全に溝が出来たね。」


 イオクの答えにルーシーは納得したような感じの顔をする。


「それで少尉は今回の人事について何て言ってるの?」

「これに関しては時間が解決するしかないって言っていました。」

「嫌になるくらい大人の回答だね。」


 イオクは少し苦笑いをしながら言う。


「あそこまで来るとあまりにも達観しすぎていてなにか怖いんですけど。」

「まぁ、苦労ばっかりしてると現実に諦めがついてそんな風になる人もいるみたいだけどね。まぁ彼まだ若いんだからそんな風にならなくてもいいと思うんだけど。」

「そうですね。その点イオクはあまり苦労していませんものね。」

「いや、結構頑張ったんだけど……。」

「努力と苦労は別物ですよ?誰かの尻拭いとか。私関係ないのに。」


 その言葉にイオクは黙る他無かった。


*


「ジャミル・ルルーシュに逃げられた!?」


 エミリアはイルキア基地の自室でエマソンからの報告を聞くと大きな声を出してしまう。


「はい。制圧部隊が王宮に突入した際には既にもぬけの殻だったみたいで……。」

「そうなると連合国との終戦の話もこじれ……はしないか。いくら首長であるルルーシュが逃げたところで政府の要人は抑え込んでいるし。それなら終戦協定も強引に出来るか。」


 エミリアはため息をつくとソファに座る。


「だけど逃走経路とかは抑え込んだはずよね?」

「それが結構複雑に張り巡らされているみたいで抑え込めなかったみたいです。」

「見積りが甘かったのね。」

「みたいですね。もしルルーシュが立ち上がることがあったらまた駆り出されることになると思いますが。」

「そうなったら面倒くさいけど仕方ないか。」


 エミリアはまた戦闘にならなければいいかと思う。しかし彼女の心配は杞憂に終わった。

 バグディード攻略作戦から十日後、ジャミル・ルルーシュの遺体が見つかってから数日後、帝国・連邦と連合国の間には終戦協定が結ばれた。

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