第二十六話 憎しみと
「行ったか。」
アルベルトはエミリアたちの部隊が要塞内部に突入したのを確認すると戦域から離れようとする。しかし目立ってしまった直後だと撤退の難易度はかなり高くなっていた。
そして一機の機体が接近しているという警告が鳴り響く。
連合国の一機、帝国軍の三機の新型機脱出計画でリーダー格として振る舞っていたアドハムが搭乗するイフリートが急接近していた。その速度は音速を優に超えており、衝撃波によって海面に荒波を立てながらウルに向かう。
「この機動力、データにあった新型よりも!」
アルベルトは目の前から一直線に突っ込んでくる機体に対応するためプラズマサーベルを引き抜く。しかしその攻撃を直接受け止めることはしなかった。そして上から降ってくる斬撃を、胸部に搭載された姿勢制御用スラスターで機体を後方にずらしながらも胴体を捻りぎりぎりのところで躱す。ただその余波によって機体のバランスが少し崩れる。
『貴様だけはこの俺が殺す!』
その声と同時に間髪いれずに斬撃が来る。それをバランスを崩しながらもぎりぎりでふんわりと躱し続ける。
『貴様さえいなければ!』
そうアルベルトに告げる声は憎しみに満ち溢れていた。
*
「アルベルトは予想通り戦っているか。」
ユリアは要塞の戦いをちらりと見る。アルベルトを増援として送ったことが功を奏したのか帝国軍の部隊は持ち直していた。
これならあの要塞も攻略するのは時間の問題だなととりあえずは安心する。
『司令。敵の新型が出てきました。』
「これが噂になっていた新型機か。」
ソフィアからの通信に連合国の新型機であるギデオンが出て来たのを確認する。その機体はどうみても連邦や帝国からの技術の流れが汲まれているもので、性能は両国の高性能量産機の性能を明らかに上回っていた。
それだけの機体をテロ組織同然の国が持っているのはあまりにも不可解だと感じながらもユリアは今の状況では戦力が足りないと判断する。
「大佐。シュタイナー少尉を呼び戻せ。」
『少尉も今敵新型機と交戦中です。ここで下手に呼び戻すと合流されてむしろまずいことになるかもしれません。』
しかしソフィアはあくまで冷静に一番最悪の状況を告げる。彼女の言葉を受けてユリアもまたレーダを見るとアルベルトがイフリートと戦っているのが確認できる。
「しかもあの新型機を奪った部隊の最後のパイロットか。」
奪取したパイロットの名前までは分かってはいないものの、その魔術波長は登録されているため特定自体は難しいものではなかった。
『ここで連携を取られたら勝てるものも勝てなくなりそうです。』
『だからと言ってこの人数ではあの新型機の部隊を相手にするのは難しいです。せめて他の増援を!』
ユリアとソフィアの会話にダースが口を挟む。
「かといって並みのパイロットではあの新型機に太刀打ちができない。それにどの部隊もそんな余力はない。」
それはあくまで理想論だとユリアは切り捨てる。元々余力を作らせてもらえるほど部隊が用意されていなかった。そのためにユリア自身が人員補充という意味も込めて今回の出撃を行ったのだ。
「行かせたのは失敗だったか。」
後悔の念が出るものの、現在統制が取り切れていない敵部隊を相手にする他ないと考える。それだけを把握するとユリアは即座に自分がどのような攻撃を行えば目の前の部隊を撃破できるか考える。
『基本方針はツーマンセルでやります。私と司令、ユリオン中佐はリャーエフ少佐の二組で当たります。』
そんな混乱している部隊の状況をよそにソフィアは的確に対処するための指示を出す。その指示に従ってこの場で一人一言も発さなかったイオクが先陣を切ってギデオンの部隊に切り込んだ。
*
「ノーマルが何機いようが!」
連合国の巨大要塞内部に侵入したアルバートは内部通路に展開しているキャスターよりも二回りも小さい人型兵器を破壊しながら要塞内部に突入していく。
「構造的に脆そうなところは……。」
突き進みながら強固な補強をしてあるところを探す。
そうして探しているうちに司令塔がある部分を確認した。
「アークウィン大佐。構造的に脆そうなところは分かりませんでしたが、司令塔を確認しました。破壊しますか?」
『えぇ。破壊して問題ないわ。こっちも高負荷になってる場所を確認したし。爆弾設置後に外に出なさい。』
「了解です。」
アルバートはプラズマライフルを構える。目の前には司令室内で逃げ惑う兵士たちが見える。その光景に一瞬引き金を引くことをためらうが、心を無にして引く。そのまま何発か発砲するとアルベルトは周囲に破壊できそうな場所は無いか確認をする。
すると先ほど破壊した司令塔自体が構造体なのではという考えが思いつく。そのため大型の爆弾を司令塔に設置する。
「これの破壊によって、連合国が降伏することで、少しでも多くの魔術師が救われればいいが。せめて当分の間は戦争がないようになれば……。」
それはこの戦争でアルバートが感じたことだった。




