第二十三話 徹底抗戦
「わかりました。では私たちの部隊は連合国の首都の地上を制圧すればよいのですね?」
『あぁ。地上を抑えればあとは歩兵部隊が連合国政府を抑えてくれる。細部の作戦はエミリア、お前に任せる。参謀もお前の好きにするといい。』
「了解です。それでは直ちに準備にかかります。」
自室にて父親からの作戦指示を受けたエミリアはため息を吐くと苛立たし気に立ち上がる。
「24時間後までに作戦の詳細を決めて出撃しろなんて、一体何考えているのよ!」
そして大声を出す。それにアルバートが驚いたように肩をびくりと震わせる。
「デグレア少佐。ジョンソン大佐とフェーク中佐、それとマセン中佐をブリーフィングルームに呼んで。これから首都攻略に向けた作戦案の立案を行うということと一緒に。」
「了解しました。今から作戦を立てるのですか?」
「そうよ。いくら奇襲は意外性が大事だと言ってもこんなすぐに動けと言われてはいそうですかとはならないわよ。」
苛立ちを隠さないエミリアにアルバートはこれ以上話しかけない方がいいなと判断をする。それと同時にエミリアから先ほど言われた参謀将校を呼びに行くべく入館許可証などの位置を確認すると彼女の部屋から少し足早に出る。
戦時中とはいえ、本土攻撃などは受けていないため基地内部は普段とそこまで大きく様相が変わっていなかった。
だからこそ、彼はこの廊下をあまり歩きたくなかった。しかし胸に着けているたくさんの勲章が自然と視線を集める。そして彼の顔を見た兵士の一部が厳しいまなざしを向けてくる。
彼にとってそれはたまらなく辛いものだった。それは自分の知らない過去の自分が獲得した勲章であり今の彼にとっては関係ないものだ。にも拘わらず今の自分は過去の自分と常に対比され続ける。
それが凡人であれば良かったのに、過去の自分はこれまで類を見たこともないような戦果を挙げた人間であった。だからこそその劣等感は更に重い呪いとなっていた。
「失礼します。」
しかしそんな悪い考えは参謀室に入る前に一掃する。
「デグレア少佐。どうした?」
中に入ると四十を優に超えた参謀将校達から厳しい視線が来る。
「アークウィン大佐からの命令です。ジョンソン大佐とフェーク中佐そしてマセン中佐に親衛隊隊長室に来るようにと。」
「アークウィン大佐が?」
それに反応したのは初老に差し掛かった将校だった。
「そうですジョンソン大佐。明日行う首都攻略の作戦を立てたいとのことです。」
「それはまた随分急な。どうせアークウィン大将の命令だろ。」
「よくご存じで。」
長い間同じところに勤めていると色々なことがわかるものなのだなとアルバートは感心をする。
「まぁあの坊やの言うことはいつも突発的なものではあるが、間違ったことはそこまでない。」
「それで先ほどの件なのですが。」
「あぁ。分かっている。フェーク中佐、マセン少佐。」
ジョンソンの言葉を聞くとすぐに二人の若い参謀将校(といっても四十は超えているが)が走ってくる。
「親衛隊隊長からのお呼出だ。行くぞ。」
そういうと立ち上がる彼の後ろを二人がピタッと付いていく。その様は長年の部下といったような出で立ちでアルバートは少しばかりのあこがれを持った。
*
「なぜだ! なぜこうも勝てない!」
連合国の大統領、ジャミル・ルルーシュはあちこちで崩れていく前線の報告を聞くと目の前にあるテーブルを苛立たし気に叩く。
二回とも防衛することには成功していたものの、その後の追撃はうまくいっていなかった。
「ハキムの部隊とサームの部隊、それにオルハンの部隊を首都に呼び戻せ!」
「閣下。申し上げにくいのですが、サーム少将の部隊は壊滅、ハキム中将の部隊は敵に包囲、そしてオルハン中将の部隊は敵の捕虜となっています。」
「捕虜だと!? わが軍に降伏など認められない! 徹底抗戦だ!」
ジャミルはそんなことは認めないとばかりに大声を出す。
「しかしこのままではバクディードへの侵攻も時間の問題です! 市民への被害も甚大なものになります!」
「閣下のお言葉が最優先だ! そんなことを認めるわけにはいかない!」
そして首脳部内でもとうとう意見の分裂が始まる。
「軍本部としてはそれでも降伏を進言します! このままでは例え勝ったとしても被害が大きすぎます!」
「ではなんのためにあの兵器を作ったと思うんだ! あんな高い金をかけて! 使うためだろ!」
軍の人間と政府の人間の言い争いがどんどんと激しくなっていく。もう既に会議としての様相を保っておらず、怒号があちこちを行交いしている。そしてその応酬は一瞬の大きな乾いた音と共に沈黙する。
そこには先ほど降伏を進言していた士官の死体があった。
「我々には降伏は認められない。徹底抗戦だ。」
ジャミルはそれだけ言うと会議室を後にした。
*
「あいつらだけは許さない。」
アドハム・ナセルは今まで死んでいった仲間たちを思い出す。
「アルバート・デグレア、エミリア・アークウィン。」
そしてすべての元凶であるパイロットを思い出す。
「アルベルト・シュタイナー。あいつが邪魔をしなければ。」
アドハムは目の前の機体を血走った目で睨む。そこにあったのは連合国の新型機、イフリートであった。




