第二十二話 出撃するのは……
「シュタイナー少尉。少し話がある。」
ユリアは自室で待機となっているアルベルトの部屋の前にいた。
『どうぞ。』
ドアが開くとユリアは初めて彼の部屋に入る。部屋の中は殺風景で私物が全くないことに彼女は少し驚くが、そんなことはいいかとすぐに部屋の椅子に座る。
「それでお話とはなんですか?」
アルベルトは割と理不尽な扱いをされているのにも関わらず、平静な声でユリアに対しそう尋ねた。
「あまり怒っていないんだな。」
「まぁ、普通だったら怒るのかもしれませんが、今回は相手が相手ですからね。下手なことをするよりはこの処罰の方がまだマシなのかもしれません。まぁ銃殺刑とかだったら逃げますが。」
「そう。」
アルバートの冷静な対応に彼女は彼の本心が本当に分からなかった。だからどんな言葉を次に繋げたらいいのか分からなかった。
「それで今回の処罰に関してだが、バザロフの責任は無かったことにする。それで申し訳無いのだが、お前には責任をとって降格とする。だから今度の作戦で戦果を上げなさい。」
「やっぱりそうなりますか。分かりました。それで今度の作戦はどうするのですか? 第三次侵攻作戦、これは成功させなきゃマズイですよね。」
「あぁ。だからバザロフはもう使わない手はずをアスタル大将と立てた。そして今度こそ連合は落とす。お前にはウルも用意した。なんとしてでも成果を上げろ。責任をとって連邦から処罰をされる前に。」
「分かりました。」
アルベルトの返事に一度だけ頷くと椅子から立ち上がった。
「あんな作戦任せて悪かったわね。」
ユリアはそれだけ言うと彼の部屋を後にした。
*
自室に戻った彼女は第三次侵攻作戦の立案書を読むと大きくため息をついた。決して不可能ではないが優秀なパイロットが必要な作戦であった。
「私が出るしかないか。」
そうして考えた結論を口にする。
「再びキャスターに乗るのですか!?」
それを聞いて副官であるルーシー・メーチェは驚いた顔をしていた。
「それは乗りもするだろう。まだパイロットも辞めていないわけだしな。それに今後のためにも、せめてもう少し成果を上げておきたい。」
「確かにそれはそうですが……。」
「だったら、いいんじゃない?」
その言葉にルーシーは返答に窮してしまう。
「それにいざとなればソフィアがいる。彼女がなんとかしてくれる。」
少し無責任にも聞こえるその発言は彼女に対する信頼性の表れだった。
「確かに大佐は優秀ではありますが、そうなんでもかんでもお任せになるのはあまりよろしくないかと。」
「だけど他に任せることができる人いる?」
「それは……。」
他に信頼に足る人物がいるかと言われればその答えもまたないのであった。
「まぁ最近ソフィアからはシュタイナー少尉を頼れとか言われているけど、まぁ当分の間は放っておいても問題はないでしょう。」
過重労働の実態にルーシーはなにも言葉を出すことは出来なかった。ただソフィアに報告だけはしておこうと思うだけであった。
*
「今度の作戦には司令が出られるというのは本当のことなのですか?」
親衛隊の一員であるダース・ユリオンの問いかけにソフィアは頷く。
「だとしてなにか問題でも?」
「確かに司令は優秀なパイロットであったとは伺っています。ただ、それは過去の話であって今優秀とは限りません。」
結構な言い分だと思うが完全に否定することは出来なかった。まぁ心配の現れということにしておこうと彼女は思っておく。
「確かにそれに関しては否定はする気は無いけれど。ただそれでも決まったことよ。今後のために必要なことというのは否定する気は毛頭ないし。」
「ですが、それでも認めるわけにはいきません。」
強硬に反対するダースに対し、ソフィアはため息を吐く。
「第一納得できません! 私たちは事前にこのことを知らされていないじゃないですか!?」
「いや、親衛隊の任務のうちの一つなんだけど……。」
ソフィアは困った顔をして言う。親衛隊という名の通り、主人が出撃するなら護衛する。規約でそうなっている以上上からの命令があればそれに従うのが軍人だというものだと彼女は思う。
しかし、前の大戦で影響力が下がってしまったベッソノワ家の現状では兵士の質と士気がかなり下がっていた。この状況についてソフィアはよくないと考えていた。そのためにいくつか手を打ってはいたものの、今のところはまだ日の目を見ていない。だからこそ、まだ色々な手を打つ必要があるかと頭を悩ませる。
「しかし、それでも私は反対です。」
「そこまで反対する理由はなに?」
突き放したような冷たい声を出し、ソフィアはダースを値踏みするように睨む。それにダースは一瞬ひるみ、答えは中々でなかった。この辺はアルベルトとは全く違うところだと思う。
まぁ彼の場合はかなり荒削りなところが多いので、もう少し考えてから物事を言っても良いような気がする。ただ本人もそこは分かっているようでソフィアによく助言を求めていた。そこもまたダースと対照的であった。
「それは……。」
そこから先ダースが言いたいことはソフィアもまた分かっていた。だから彼女は話を切り上げるべく、表情をやさしいものに変える。
「どんな作戦であろうとも私たちには逃げることは許されない。それが軍人だ。分かったら明日の作戦の準備をしなさい。」
「了解しました。」
彼はそう言うと彼女の部屋を後にする。それを見届けると自分の椅子に座る。
「一体なにがそんなに不満なのか。」
ソフィアは手元にある資料を見ながらそうつぶやく。
「遺伝子を改造したデザイナーベイビーとはいえ、なぜ二人でこうも違うのか。」
そういって彼女はアルベルトとダース二人の情報を見比べていた。




