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第二十一話 行き詰まり

「やっぱり来たか、バーベラ大佐。」

「当然です。納得できません。」


 アクタール基地の司令室を訪れたベッソノワ家親衛隊隊長のソフィアは自身の上官でありアクタール基地の司令官でもあるユリアに対し詰め寄る。


「バザロフが勝手に動き出してるからな。そのためには護る必要がある。それで満足か?」

「それはつまり、こちらで何かしらの罰則を出さなければバザロフ中佐が周りに対してあることやないことを吹聴して回るということですか?」

「そういうことだ。現にあいつは今彼の銃殺刑を求めているからな。」

「そんな、無茶苦茶な……。」


 ソフィアはユリアの言葉を聞いて、そう呆れたような声を出すしかなかった。


「まぁ、だがバザロフの件に関してはもう少し経てば片付くだろう。バラノフ家に苦情を言ったら向こうで対処してくれるそうだ。そんなことでこちらからの信頼を得ることなんて無理だろうによくやる。」


 ユリアはエフゲニー・バラノフの心中を察するとそううんざりした気持ちになっていた。


「つまりバラノフ家は最初から使えない人間を寄越して、その対処を貸しとすることで信頼などを得ようとしていたと?」

「そうだ。典型的なマッチポンプだな。」

「そのために少尉には一旦汚名を着てもらうということですか。」

「なにか不満でもあるのか?」

「逆に無いと思いますか? 確かにこの場ではそれが最善です。ただそれでは今後新しくなにかをする際に萎縮させるだけだと思いますが。」

「そんなことは分かっている。だからといって他に手がない以上こうする他ない。だからバザロフもアルベルトも使いたくなかったのに。」


 それはユリアの本心ではあった。そこまで分かっていたならもう少し対策を考えておけば良かったのにとソフィアは思うがそれを言うことはしなかった。



「やっぱりバザロフは駄目だったか。」


 エフゲニー・バラノフは自室で最近お気に入りのワインを飲みながら、対面に座っているアインに話しかける。


「今回ベッソノワ准将が彼に気を使って優秀な部下をつけたと噂になっていますからね。」

「それじゃああいつは益々増長しただろうな。」


 アインの答えにエフゲニーは深いため息を吐く。


「あいつはパイロットしては優秀だったが、指揮官としては優秀では無かった。」


 そう呟くエフゲニーの瞳は少し寂しそうなものであった。


「恐らく自分の能力を基準にして作戦を立てているのが原因だろうな。」

「私が知っていることは、彼が何回か指揮していた部隊を全滅させたということです。それにも関わらず、現場からの支持は厚いとか。」

「そうだな。バザロフは今から十年ほど前にパイロットとして活躍していた。そのときのあいつの強さは格別だった。」

「現場で優秀でも上に立てば優秀とは限らないですか。」


 アインの言葉にエフゲニーは深々と頷く。


「そうだ。あいつの場合は自分の能力の限界値で作戦が遂行することを前提としている。故に並みの兵士ではその作戦を遂行することができない。そしてあいつは戦果を出すことが出来なくなった。それだけならばまだ良かった。そこで反省し次に進んでくれればまだ挽回してその次もあっただろう。」

「しかし、そうはいかなかったと。」

「そうだ。成果を出せなかったあいつは焦って、自分がかつて隊長をしていた特殊部隊を全滅させてしまった。それからだ。あいつが殊更に戦果を求めて手に負えなくなったのは。」

「参謀部としての任を解くことは出来なかったのですか?」


 それには重々しく首を横に振る。


「私としてもそうしたかった。しかし現場での彼の影響力が消えるまではそれが出来なかった。だが、彼の華々しい戦果を知っているものが全員前線を退き、後方勤務となるとその神話も過去の物となり消えた。」

「それならなぜ今更アクタール基地で作戦参謀などを?」

「どうにも人事部が勝手に動いたらしい。」


 今度はアインがそれに対して驚いた反応を示す。


「それはいいのですか?」

「もちろん良くはない。だが、人事部には今下手に手を出すこともできないのだ。」

「どういう意味ですか?」

「人事部には官僚がいる。そして噂だとその官僚がどうにもきな臭いらしい。」

「きな臭いとは?」

「All equalityの関係者らしい。」

「あのテロ組織ですか?」

「一応環境保護団体を謳っているけどな。」


 エフゲニーは苦笑いしながら答える。


「だがその背面関係も完全に連合国が関わっていると考えていい。」

「ですが、一般市民にもその支持者は多いと聞きます。」

「ああいう綺麗事は実現できるできないに関わらず受け入れる層は一定数いる。ましてや魔術師が目の敵にされている今ではああいった思想は心地よいものなのだろうな。」

「なにか、手を考えているのですか?」

「それがいい手がなにも浮かばない。ここまで悪化しきってしまった魔術師と非魔術師の間の関係はもう直すことも無理だろう。」


 その言葉がどのような重みを持っているのか、アインはすぐに理解する。


「恐らくヴィエントが言っていた魔術師と非魔術師が平等に暮らせる世界はもう無理だろう。このままではいずれなにかの弾みで爆発して取り戻しのつかないことになる。」


 そう告げるエフゲニーの顔は少し寂しそうなものであった。


「結局、ベッソノワを失脚させたところでなにもいいことは無かったか。」


 その言葉には後悔の念が入っていた。



「シュタイナー少尉。」

「バーベラ大佐。」


 ソフィアはアルベルトの部屋を訪れていた。


「今回の件について司令に掛け合ってみたけど、駄目そう。」

「まぁそうでしょうね。凡そバザロフからの危害が加わらないようにしようとかそういう考えですよね?」


 アルベルトの回答にソフィアは驚く。


「別に司令が色々と考えて出す答えは大体いつも理由がありますから。まぁもう少し言い方とか考えた方がいいんじゃないかという気はしますが。」

「それは確かにそうね。」


 ソフィアは自分よりも歳下なのによくここまで達観しているなと驚く。


「きっと侘しい学生時代を過ごしたんだろうなというのはなんとなく分かりますから、そんな人の機微を言うのは酷かとは思いますが。」

「それ司令には絶対言わないようにね? 冗談抜きで殺されるわよ?」

「当たってるんですか……。」


 アルベルトは少し引いたような顔をする。


「あなたの方は……、それなりに遊んでそうね。」

「その代わり幼少期の頃が悲惨でしたから。親父の遺産も全部没収されて貧しい生活を送っていましたから。」

「そうだったわね。」


 ソフィアはそう言うと少し笑う。


「ねぇ、少尉。私がこういうことを言うのも変だけど、これからも司令のこと支えてあげてね。」

「はい。私の目的のためには司令は必要なので。」

「そういうことじゃないんだけど、まぁいっか。」


 自分の意図したことが全く伝わっていないことに腹を立てることは無かった。これ以上のことを今の彼に求めたところで意味はないと、そう思った。

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