第十八話 成功か失敗か
「バーベラ大佐。今回の作戦内容についてご質問があるのですが、今お時間いいですか?」
アルベルトは自分の隊長であるソフィアに相談をしに向かっていた。
「大丈夫。ただその件ならそれならもう参謀部にも話は通してあって、ある程度の草案が出来上がっているから渡しておくね。」
アルベルトはすぐにソフィアから渡された資料に目を通す。
「基本的なことはあの論文通りにしているわ。」
「確かに。ただ今回の場合、相手の性能が高いですし、この部隊配置をもう少し広く取って遊びを持たいですね。」
「でもそれだと正面がきつくならない?」
「それは接近戦が得意なリャーエフ少佐とユリオン中佐がいるじゃないですか?」
「分かった。そこだけ直してから提出しましょうか。」
彼女はそういいながら、アルベルトも中々ユリアに負けず劣らずの鬼のような考え方をしていると心底思う他無かった。
*
「バグディード攻略のためにはこのヘルミーラ基地の攻略が最優先か。」
「同時にここから数キロ離れているこの補給基地も叩く必要があります。」
エミリアは行軍マップを見ながら今後の戦略を参謀と共に考えていた。
「確か今回の作戦では連邦側がこのヘルミーラ基地を叩くんですよね?」
「はい。連邦軍のベッソノワ家の部隊が叩くと聞いております。」
エミリアの問いかけに対し参謀は素早く答える。
「勝率はどれくらいだと考えていますか?」
「恐らく五分五分だと考えています。バラノフ家以外の練度はあまり高くありませんが、一方でバラノフ家の参謀が作戦を考えていると伺ってはいるので。」
その答えに彼女は顎に手を当てる。以前のバラノフ家の醜態と練度が低いベッソノワ家の部隊では勝てない確率のが高いと頭の中で計算する。
「なるほど。だとしたら保険としてヘルミーラ基地を叩ける部隊も必要ですね。」
「エミリア様がそうおっしゃるのでしたら私どもは止める気はありません。ただ……。」
「今回そちらを叩く部隊は親衛隊の方で行います。そのため親衛隊の攻撃場所は敵左翼を叩きます。」
「分かりました。」
エミリアの言葉に参謀は頷くと更にいい案が無いかと思案に耽るのであった。
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「以上が今回の作戦になります。」
あの後作戦案をまとめたアルベルトは作戦に参加する部隊に説明をしていた。
「シュタイナー少尉。この作戦、本当に完遂できると思っているのか?」
その作戦に対し、三十にも近い大隊長が質問をする。しかしその声はとても威圧的なもので恐らく失敗するだろうというニュアンスが含まれていた。
「それは具体的にどの部分が不可能だと考えているからでしょうか?」
「全てだ! 我々は駒ではないのだ! こんな無謀な作戦出来るものか!」
「不可能ではないと考えていますが? 事実、前の大戦で帝国軍のアークウィン家の親衛隊では出来ていました。それなら私たちにできないはずは無いでしょう。」
アルベルトは想定していたかのようにそう答える。
もしも彼らが疑義を唱えてしまえばすぐさま自分が連邦政府の監視対象になるということを示す。それを分かっていたから他の部隊の隊長は押し黙る。
「他になにか質問が無ければブリーフィングはこれで終了となります。今回の作戦には連邦の威信がかかっています。それをお忘れ無きように。」
アルベルトはそれだけ言うと足早に部屋を出ていく。
その直後部屋の中は荒れる。
将校たちは皆口を揃えて不可能だと口にしていた。ソフィア自身はかなり困難な作戦ではあるが、決して不可能では無いと考えていた。しかし、それに対しユリアはそうでなかった。
第二大隊の将校と成功するかどうかの話をしていた。その光景にソフィアは一瞬文句を言いたくなるがなんとか耐えるとアルベルトの後を追って廊下に出た。
「少尉。」
振り返るアルベルトの顔はあまり元気そうには見えなかった。
「あの作戦で本当に上手くいくと思いますか?」
彼の声は少し震えていた。それを見てソフィアは無理もないかと思う。
「大丈夫よ。自分、いや私達で立てた作戦でしょ? 失敗するわけないじゃない。」
「そうですね。立案者が成功を信じなければ意味ないですね。」
アルベルトはソフィアの言葉に頷く。
そんな彼を見てソフィアは今回のは成功しても失敗してもあまりアルベルトの成長には繋がらなさそうかなと感じた。
ただ失敗だけはさせない、そう覚悟を決める以外他には無かった。
*
「作戦前に一つ聞いてもいいですか?」
第二次侵攻作戦開始前に、親衛隊隊長であるソフィア・バーベラは自身の上官であるユリアに確認をしていた。
「アルベルトのことか?」
「はい。」
「あの子には悪いとは思っているわ。」
「珍しいですね。そんなことを言うなんて。」
「だってそうでしょ? バザロフに手柄をやるために作戦の詳細を詰めさせて。そして自分が立てた作戦にも文句を言われてもやらせるような真似をさせて。ただ、本当によくやってくれたと思っているわ。」
率直な思いをソフィアに伝える。ソフィアとしては高々三歳くらいしか変わらないアルベルトをあの子というのは流石にどうかと思うが、そこは本筋ではないため気にはしない。
「その割にはさっき彼の作戦をヤクーニナ大佐と批判していましたよね?」
「ヤクーニナ大佐と批判? なんのこと?」
「さっき苦言を呈していた彼に対して肯定していませんでしたか?」
「あぁ、そういうこと。ヤクーニナ大佐は最初の言葉を否定すると面倒だから一回肯定しているのよ。」
その言葉にソフィアは毒牙を抜かれたような顔をする。
「珍しいわね。あなたがそんな勘違いをするなんて。まぁそれだけ信頼しているのならいいわ。」
恥ずかしさのあまり下を向いてるソフィアに対して特に責めることはせずにユリアはそう言った。
「けど、バザロフについてはもう駄目ね。結局一番簡単なところをやって後の実行とか責任をとる動作については全くしないし。バラノフ家にもそれは伝えたわ。」
「つまり今どうするべきか向こうと話し合っているということですか?」
「えぇ。といっても向こうがこっちに対して人事権を持っていないのと同じようにこっちも人事権は無いけど。ただ、向こうの反応を見るに、もうバザロフは駄目でしょうね。」
「元々は優秀なパイロットとは聞いていたのですが。」
「まぁパイロットとして優秀だとしても作戦指揮を執るのが有能だとは限らないからな。」
「だから、シュタイナー少尉にその悪い手本を見せたかったということですか……。ですがそれでもそれは得策ではありません。あのままでは下手すれば彼は死ぬかもしれないのですよ?」
ソフィアはユリアの考えを理解することは出来た。しかし、それでも納得することは出来ないと反論する。
「その程度で死ぬくらいなら今後生き残ることはできないだろうし必要ないわ。」
しかしその次のユリアの言葉は彼女が想定していたものとは違う物であった。
「それは本気で言っているのですか?」
そしてそれは彼女の怒りに火をつけてしまうような地雷であった。
「あくまで私は彼をかくまう。そしてその代わりに彼は私に力を貸す。それだけのこと。」
「司令、今自身が置かれている状況を理解していますか?」
「今ここであなたに言われなくても分かってはいるわよ。」
「だったら今この場で敵を作るべきではないはずです。少なくとも彼は絶対にあなたを裏切ったりはしません。」
ソフィアはそうユリアの心の傷を正面から容赦なくえぐっていく。
「なんでそれが確実だと言い切れるの? あの子の行動原理は。」
「そうです。だからこそ彼は絶対にあなたを見放したりしない。自分の目的を達成するためにはあなたの力が必要だと知っているから。」
「随分と肩入れをしているようね。」
「当然です。彼は必ずあなたに協力をしてくれますから。」
そう言い切るソフィアにユリアは一度だけため息を吐いた。
「今回の件は向こうとの確認が取れ次第早急に進めておく。」
「お願いします。」
ソフィアはそれだけ言うとユリアの執務室を後にした。




