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第十七話 連邦の実情(2)

「ハイスペック機に対して戦術で対応する方法?」


 ユリア・ベッソノワは勝ち誇ったようにしているバラノフ家の参謀、バザロフに対しため息を吐く。今彼女の机の上にあるのは彼が印刷してきた論文であった。その内容はユリア自身も良く知っているものであった。


「確かに、この論文は私も読みましたし不可能ではありません。それは認めましょう。」


 ただと、ユリアは付け加えるように言う。


「これを書いたのはシュタイナー少尉です。だが、彼にはまだ部隊を指揮する権限を与えるわけにはいかないと思いますが。」

「ですので、この作戦は私が指示し、実行します。そしてその部隊の編成をするのも私に権限があるはずです。」

「つまり編成すらも変えると? 流石に私はそこまで権限をあなたに譲った覚えは無いのですが。」


それだけは認めることが出来ないとユリアは反論をする。それに対しバザロフは不機嫌そうな顔を一度だけする。


「しかし、私にはその権利があります。お忘れですか? あなたの家はバラノフ家が監視していることを。」

「だからと言ってそこまでの権利は委譲する気はありません。」


ユリアは一方的に捲し立ててくるバザロフに嫌気がさす。


「これに関してはバラノフ大将がお認めになっています。」

「バラノフ大将が? つまり責任も大将が取られると?」


 ユリアは訝し気に言う。しかしもしここでエフゲニー・バラノフがこの件を全面的に認めているのだとしたら、ユリアの立場としては認めないわけにはいかなかった。こればかりは政治的な問題で汚名を着せられたベッソノワ家の弱みでもあった。


「分かりました。この件に関しては一度バラノフ大将と確認してから決めます。」


 その言葉にバザロフは満足をしたのか、一度だけ鼻で大きく息を吐くとその場から去っていく。その後ろ姿をユリアは忌々し気に見つめる。


「二度と来るな、クソ野郎。」


 扉が閉まってバザロフから声が聞こえないことを確認するとユリアは苛立たし気にそう吐き捨てた。



 ユリア・ベッソノワに呼び出されたアルベルト・シュタイナーはなにか自分が問題でも起こしたのかと内心ビクビクしながら彼女の部屋の前に立つ。すると自動扉が開き、中には不機嫌そうにしているユリア・ベッソノワと少し苛立たしさを感じさせる笑顔のルーシー・メーチェがいた。

 別にここ最近どころか昔からなにも失敗はしていないよなとアルベルトは自分の過去を思い当たる。


「あ、もしかして、部屋のトイレの電気を消し忘れたことですか?」

「は?」


 アルベルトは馬鹿なことを言ったなと緊張感を持ち一気に頭を切り替える。


「いえ、なにか自分が問題でも起こしたのかと思って、その心当たりがそれくらいしかなかったので。」


 彼の答えにユリアは毒牙を抜かれたように険しい表情から疲れた表情に変化する。


「なんでこの激務で多忙な私がそんな程度のことであなたを呼ばないといけないのよ……。それと電気位しっかりと消しなさい。」


 ついでにアルベルトが自白したことをユリアは詰めながらも手元にある書類を彼に渡した。


「今回あなたを読んだのはこの辞令のためよ。」

「辞令?」


 受け取った書面に目を落とす。


「自分が親衛隊の小隊長になるという意味であってますか?」


 そして開口一番ユリアに自分が意味の取り間違えをしていないか確認する。


「そうね。少尉で小隊長にするのは例外的人事ね。だから今回のはこの作戦のみの人事となる。」

「つまりこの作戦をするためだけに小隊を組んで行動をしろと? そんな滅茶苦茶な……。」

「まぁそんなに嫌そうな顔をしないで。それに大丈夫。小隊の中にはソフィアも入れるから。」

「親衛隊隊長を入れられるのはもっと嫌なんですが。」

「けど、仲良いでしょ?」

「分かりました。ですが、何故私が作戦の細部まで作らないといけないのですか?」


 それこそ参謀の仕事ではないのですかとアルベルトは言う。


「それこそ本当に辞めなさい。変なことされてただでさえ低い成功率が余計に下がるわ。」


 少し感情が入った彼女の本気の忠告にアルベルトは頷くほかない。


「分かりました。ただまぁ今回の件自分でまだ良かったですね。」

「そうね。それだけが救いだわ。」


 ユリアは本当にその通りだという感じで言う。


「まぁこの作戦が上手くいったら美味しいレストラン連れて行って上げるから。ワインもボトルでならいいし。」

「ありがとうございます。そのときはお願いします。」


 アルベルトはそう言うが恐らく多分連れて行ってはくれないんだろうなと内心思いながら作戦をどうするか考え始めた。



「聞きましたか、イオク? 今回の作戦のこと。」


 ベッソノワ家の親衛隊の隊員であるイオク・リャーエフ少佐は士官学校の同期の中で仲が良く、またユリアの副官であるルーシー・メーチェと話をしていた。


「うん? 今回の作戦の小隊長がシュタイナー少尉になったこと?」


 いつもと同じように少年か少女か分からない中性的な声で一見女性にしか見えない彼は訪ねる。


「そうです。」

「まぁ少尉も大変だよねぇ。あんな変な作戦任せられちゃって。お陰で大佐もすごく大変そうだし。まぁ僕としては楽になっていいんだけど、ユリオン中佐が大佐にあまり構ってもらえなくて機嫌がとても悪いことも僕には関係ないし。」

「相も変わらずあなたは人間関係を傍観するだけなんですね。」

「人間関係に興味あるだけマシなんじゃない? それにルーシーももう少し人間関係に興味持った方がいいよ? そうじゃないといつまで経っても彼氏なんて……、痛い痛い痛い! ごめん! ごめん! ごめんなさい! 謝るから! 謝るからその頭に食い込んでいる指を離して!」

「馬鹿も休み休み言ってください。」


 ルーシーのアイアンクローから解放されたイオクは自分の頭が変形していないのか両手で触りながら確認する。


「いやぁ、痛かった。全く力を考えてよ。本当に頭蓋骨が割れたかと思ったよ。」


 一通り自分の頭の確認が終わるとイオクは再び軽口を叩く。それを見てルーシーはイオクを睨みつけるので彼は怖い怖いと引き下がる。


「それでシュタイナー少尉が親衛隊の隊長を一時的にだけどやることになった話だっけ?」

「そうです。」

「素質自体は問題は無いと思うよ。士官学校のときのデータを見る限り戦術とかも得意そうだし。実際司令も彼を早めにそう言った指揮官の立場にしたいと今のキャリアを歩ませてるんだろうね。」

「作戦の成功率としてはどうなんですか?」

「多分無理なんじゃない?」


 心配そうなルーシーの質問をイオクはそう返す。それは先程まで肯定的にとらえていたイオクの言葉を否定するものだった。その回答にルーシーは呆気に取られてしまう。


「確かにシュタイナー少尉には指揮官としての才能はあるよ。ただそれ以上にパイロットとしての才能が有りすぎる。そしてもし彼が自分の能力を基準として作戦を立てたら、どうなると思う?」

「あなたでもついていくのは無理なのですか?」

「いくら僕でもノーヘッドでウルを抑え込むのは無理だよ。多分だけど戦闘全体を通して平均的な強さはまだ僕のが上だけど、瞬間的な強さは彼のが強いと思うよ。」


 イオクの答えはルーシーを納得させるには十分なものだった。


「じゃあ悪いけど僕はこれからやることあるから。」


 そう言って去っていく彼に彼女はなにも言わなかった。

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