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第十三話 覚悟

 戦艦レーイプツィクの格納庫でアイン・バラノフは乗機のメルジアのコックピットでセッティングを行っていた。


「大分念入りに準備しているのね。」


 アズリト・アースが茶色い長い髪を跳ねさせながらコクピットハッチを開いたままのメルジアに体を入れて覗き込んだ。


「別にいつも通りだと思いますが。」


 アインは彼女に対してそっけなくそう答える。これは機嫌があまりよくないときに話しかけてしまったなと思うがアズリトは仕方無いと判断する。


「今回戦うのは帝国ではなく連合よ。そんなに気負い過ぎても意味は無いと思うけど? それに今回はガブリエルではなくメルジアの実験なんだから。」

「まぁ、そうなんですけどね。あいつがいるなら……。」


 その言葉はなにかあれば帝国とも一線交えるという不穏な空気感すらあった。

 それにアズリトは話を変えなければまずいなと新しい話題を探す。


「それにしても上もけちよね。ガブリエルを出させてくれないなんて。」

「あれ宇宙専用ですよ。以前に一度だけ重力下での運用試験をしましたが無理でした。」


 それ以前に連合国相手にハイスペック機を出す意味はないだろうとアインは思うが口に出すことはしなかった。


「そうなの。」

「それでどうかされたんですか?」

「作戦会議まであとちょっとよ。走れば間に合うけど。」

「そう言うのは早く言ってください……。」


 アインはため息をつくとすぐにコクピットから出た。



「じゃあ気をつけてね、アルバート。いくら敵の機体と性能差があると言っても安心しちゃ駄目よ。」


 エミリアはアルバートに対して注意点を説明していた。今回の作戦で彼女は出撃するが、大隊長としての任務になるため、アルバートと共に戦う予定は無かった。


「分かっています。大丈夫です。」


 そうアルバートが投げやりに答えるのを見て、エミリアは更に心配になる。


「本当に大丈夫? やっぱり私が一緒に行った方が……。」

「大丈夫ですよ。」


 心配するエミリアにアルバートは大丈夫だといった感じで返す。


「では自分はそろそろ行きます。エチュート大尉に怒られるので。」

「そうね。じゃあ、気を付けて。」


 エミリアは背中を向けて振り返るアルバートを見送る。

 彼女としては本当にアルバート一人で行かせてしまって大丈夫だろうかと不安になる。ただいつまでも自分が傍にいてやれるか分からない。だから今回の選択は間違っていないのだと自分に言い聞かせる。

 それでも尚、不安は止まなかった。

 また一人で行かせてしまったら、今度はもう帰って来ないんじゃないかと。

 前の戦争で記憶を失ったときよりも酷いことになるのではないかと、そう思ってしまう。

 それが意味のないことだと分かっていても、その不安は払拭出来なかった。


「大丈夫。今度こそ必ず。」


 エミリアはそう小さな声で自分の決心を口にしたのだった。



「大丈夫か、ラウダ。」


 連合国に戻ったアドハムは同僚であるラウダが作戦失敗の責を問われているのを聞き、彼女の元に向かっていた。幸いにも尋問はすぐ終わったのか、彼女と会うことは容易く彼女の部屋で話をすることが出来た。


「えぇ。大丈夫よ。」


 しかしラウダの言葉とは裏腹に表情は暗いものになっていた。それにアインはすぐにあることに思い至った。


「あの新型機に乗るのか?」


 アドハムは連合国の新型機であるギデオンについて尋ねる。その噂は悪いものばかりであった。

 一度乗ってしまえば生きて帰ることは出来ない、そういう機体であると。


「えぇ。私は大丈夫。今度こそ帝国を倒してみせる。」

「そうか。」


 彼女の決意に水を差すことはできないとアドハムはそれだけ答えた。


「それにしてもこうしてゆっくり話すのも久しぶりね。」

「そうだな。小学校を出てからこうして話をする時間もあまりなかったからな。」

「あのときはよかったわね。貧乏だけど、あなたもバハーもいたから。」


 そう前の作戦で死んでしまった幼馴染を思い出す。


「そういえばあなたたち二人はあまり仲良くなかったわよね。」

「いや、そんなことはないさ。」


 アドハムはそういうと一瞬だけ間を置いた。


「俺もあいつもお前のことが好きだからな。だからいつもどっちがお前と付き合えるかと色々と競い合っていたからな。」

「そう。」


 普通この年代の少年少女であればもっと違う反応をしていたのであろう。しかし今の彼らにはこの状態にしかならなかった。


「ねぇ、アドハム。今回帝国と連邦に対して戦争を仕掛けたことをどう思ってる?」

「馬鹿なことをしたものだと思っている。勝てるはずもない戦いを挑んだのは失敗だったと。」


 それは彼の本心であった。


「だがそれをやり切らないと今度はこの国が、いやそんなことはどうでもいい。このままだとお前も俺も魔術師は全て食いつぶされる。貧しさが原因だというのにそれを全て魔術師の責任にしているこの国はもう終わらすべきなのかもしれない。そういう意味ではある意味正しいことなのかもな、この戦争も。いっそ滅びるなら全て……。」


 そう言葉を漏らすアドハムをラウダは優しく抱きしめた。 


「そんなこと言っちゃだめよ。」

「分かっている。だけど……。」

「アドハム、一つだけ約束して。」


 その言葉にアドハムは伏せていた顔を上げラウダを見る。


「この国をなんとしても変えて。」

「分かった。約束しよう。」


 アドハムの言葉にラウダは少し笑みを浮かべるとそっとキスをした。


「じゃあ私もそろそろ出るから。」


 そうラウダはもう戻ることのない自室にそっと別れを告げると部屋から出た。


「だが俺もこの国を変えられるまで生き残ることは出来るのかな。」


 一人彼女の部屋に取り残されたアドハムは先ほど自分が受けた内示を思い出してそう呟いた。

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