第九話 接敵(2)
水深が深いため黒い海の上を三機の帝国軍キャスター、アレースが飛行している。エミリア・アークウィンはその中で奪取された三機が既に現れたことに少し驚く。
『思ったより、早く接敵しますね。』
「えぇ。あまりにも敵の展開が早すぎる。」
アルバートからの通信にエミリアは不審に思う。まるで誰かに見つけてくれとでも言っているように潜水艦の深度が深くないことが気になる。
そのためアレースのレーダ出力を強くする。今のところは特に引っかかるものは無かったが、出力は上げたままにする。
同時に交戦距離が迫ってきた奪取された三機への戦いにも意識を向ける。
「小隊各機フォーメーションAで展開。左側の敵機に攻撃を仕掛ける。」
『了解。』
スラスターのペダルを一気に踏み込んでいく。そのとき機体にかかるGはかなりのものとなる。しかしパイロットにかかるGは、機体のシステムによって乗用車程度のものとなっていた。
そのほどほどに強いGは不快感が無いほどでキャスターのパイロットは戦闘のみに集中することができる。
「全機攻撃開始!」
敵が射程距離に入ったのと同時に三機のアレースは右手に持っている、エネルギーライフルを撃つ。銃口から加速された素粒子が発射され、青い空に三本の緑色の筋が奔る。
その三本は奪取された三機の内の一機、フォルセティに向かっていく。
フォルセティは回避行動をとり、残りの二機は追撃が来ないように反撃をする。
「残り二機はフォルセティを援護しようと動くか。このままフォルセティを狙ってもいいけど。」
そのとき黄色の機体、トールの動きが直進的なことに気づく。
「二人はフォルセティを狙って。私はトールを落とす。」
六機のキャスターの距離がぐんぐんと近づいていく。三対三で綺麗に編隊を組んでいる全ての機体が青色に発光しているプラズマサーベルを左手で持つ。そしてすれ違いざまの瞬間アルバートとエマソンは青色のフォルセティを、エミリアは黄色のトールに仕掛けた。対してブラギとトールはエミリアを狙って攻撃をする。
フォルセティと二機のアレース、そしてブラギ・トールとエミリアの駆るアレースの二つのグループに分かれ距離が離れていく。
『大佐!』
アルバートの心配そうな声にエミリアは軽く笑う。
「こっちは大丈夫。二人は早くフォルセティの撃破を!」
だが、彼女はすぐに顔を引き締めると指示を出す。そして赤色と黄色の二機を相手に一歩も引かず相対する。
「どっちも原色だから目がちかちかする。」
そう愚痴を言いながらも、二機からの攻撃を鮮やかにかわしていく。二機とも連携自体は見事であるのだが、機体に慣れていないせいか動きにラグが生じている。
「それにしても二機ともフォルセティにやけにこだわっているわね。」
明らかに他の二機は直進的な攻撃をしていた。エミリアは回避しながらタイミングを見ては攻撃を繰り出すことで足止めを行う。
それにより二機はいら立ちを募らせていく。そしてより単純になっていく動きにエミリアはちらりとフォルセティの方を見る。
フォルセティの方はまだ攻撃などが当たっていないが、アルバートとルーシーが追い込んでいるのは明らかだった。情勢事態はエミリアたちが圧倒的に有利だったが、先程の動きに引っ掛かっているエミリアは早めに決着をつけようとする。
その時だった。
『コンゴウから小隊各機に。敵エイノールの部隊が接近。規模は大隊程度です。』
やはりか。エミリアがそう思ったと同時にレーダにエイノールの部隊が一気に現れる。同時に遠距離から艦砲射撃が飛んできた。
「やっぱりか。」
エミリアたちの部隊に艦砲射撃は無いが、エイノールの部隊に囲まれる前にこの三機を破壊する必要がある。本来ならば安全策を取って3対2で攻撃をしたかったが、フォルセティの撃破にはまだ時間がかかりそうなので、一人で二機撃破することを目指す。
そうと決まれば先程までの緩慢な戦闘を辞め、攻撃を激しくしていく。エミリア自身、基本は戦術を駆使した戦闘が得意ではあったが、戦闘技術も前の大戦で身に着けたものが多く、その強さは帝国内でもトップクラスである。
そのため先程までと打って変わり激しくなる攻撃に赤と黄色の機体はたじろいでいく。
そして誤射を恐れて敵機に近づいていれば撃たれないと考えていたエミリアは先程までと同じようにトールに攻撃を集中しようとした時だった。
コックピットに急にアラーム音が響く。
「どこから!?」
モニタを確認するもののどこにも敵の存在はいなかった。そしてそれが敵の砲弾が来るというアラームだと気づいた時には目の前にいたトールの胴体は消失していた。同時に彼女の機体も左腕を失っていた。
「味方ごと?」
エミリアがそう忌々し気に敵艦を見るのと同時にブラギも少し呆気に取られていたが、再びアレースに攻撃を仕掛ける。
エミリアは左腕を失ったアレースで対応する。二対一ならまだしも一対一であれば充分に対応できると戦闘を続けた。




