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第八話 接敵(1)

 イルキア基地司令官室。そこは基地司令官でありドミニア帝国の辺境伯の一人、オズワルド・アークウィンが使用している部屋だった。

 室内の調度品はどれも高級感があり、実際高価なものだった。そんな部屋の椅子に座っている人物もまた貴族としてのふるまいを持った紳士であった。


「忙しいところ悪いな、エミリア。」


 エミリア・アークウィンは父親であるオズワルドからの呼び出しに応じて彼の部屋を訪れていた。

 しかし二人の間に流れる空気はとても親子の物とは思えないくらいにひりついたものだった。


「それでお話とはなんでしょうか。」


 エミリアは早く話を終わらせたいとそう話の結論を急ぐ。


「お前にはこれから部隊を率いて奪取された三機を追撃してもらう。」

「追撃部隊はどうしたんですか? 確かあそこは違う部隊が追撃を行っていたはずでは?」


 顔見知りであった中隊長のことを思い出しながらもエミリア尋ねた。だが、この話が来る以上一つの可能性については十分把握をしていた。


「オーダシュ少佐が率いていた中隊が殲滅された。」


 オズワルドは端的にそう答える。だからお前たちが代わりに行けと、暗にそう言う。


「戦闘データは?」


 エミリアは即座に自分たちが追撃をしなければならないということは理解した。ならばそのために打てる手は全力で打つ、それが彼女の信念であった。


「それならもうメールで送った。それと機体の方の準備も終わっている。必要そうな装備は全て用意した。」


 その辺は親子で似ているせいか、エミリアが欲しいものは全て揃っていた。過保護のような気もするが、時間が惜しいため出来ることは全てあらかじめ手を打っていた。

 二人ともそういう性格の人間であった。


「分かりました。それでは直ちに取り掛かります。奪取された機体は撃破でよろしいのですね。」

「あぁ。別に技術的に価値もないし破壊して構わない。可能であればパイロットの確保をしてもらいたいが、出どころについても目星をつけているから極論どちらでもいい。」

「やはり、アウスール連合国ですか?」

「そうだ。当然軍部としては連合国への非難を示すべきだと考えている。」


 だがそれは無理だろうとオズワルドは暗に言う。


「外務省が反対しているのですか?」

「そうだ。外務省は連合国である確証が取れないのであれば手を出す訳にはいかないそうだ。」

「呑気なことを。」


 エミリアは忌々し気に言う。基本的に軍と外務省の中はあまりよくないのが必然だ。ただ、ドミニア帝国では過去に類を見ないほど格別のものだった。


「仕方あるまい。今の帝国では、非魔術師が仕切っている省庁のが強いのだからな。」


 魔術師たちだけが社会で活躍しているのは気に入らないから自分たちにも仕事を寄越せ。それが現在強い権力を持って働いている非魔術師たちの言い分だった。


 実態は無駄な会議を行い、魔術師にとって負担になるような無駄な仕事を増やし指図したいだけの組織だった。


「まぁ今はそんなことはどうでもいい。もう一つ伝えなければいけないことがある。敵だがもしかしたらアクタール基地近海に向かっている可能性がある。」

「連邦の領地に、ですか?」


 まさか連邦も一枚噛んでいるのかとエミリアは警戒感を露にする。それに対してオズワルドは首を横に振った。


「それに関しては外務省を通さずにベッソノワ候と話をした。その結果、帝国軍機が領海に入ることは認められない。だが、協力はしてくれるそうだ。」

「協力?」


 エミリアはオズワルドが具体的にどう動くのか把握しているのか確認の意味を込めて尋ねる。


「あぁ。もし領海に入ったら、砲撃なりなんなりして領域外に追い出すとのことだ。」

「もしその約束が守られなかったら?」

「それは無いだろうな。バラノフ家もベッソノワ家の言い分に賛成している。彼女としても下手にバラノフと事を構えたくはないだろう。」


 全て織り込み済みかとエミリアは納得をする。


「分かりました。それではすぐに部隊を編成して向かいます。」


 そう言って敬礼をして部屋から出ていったエミリアを見送るとオズワルドは一度だけため息を吐いた。


「これで後は敵を倒すだけか。それにしても今回の奪取。計画をしたのは一体誰だ? 前回の奪取を偽装した件があるから警戒は厳にしていたのだが。」


 しかしだからと言って機密にするような機体でもないためハンガー自体は普通のものを使用していた。だから特殊部隊であれば突破自体は不可能のものでもないと思う。


「分からんな。」


 オズワルドはそう言うと頭を掻いた。これがこちらの機体の情報を得たから行われたのか、あるいは内通者がいたのか。

 ただ今やるべきことは世間からの追及をかわすために出来ることを考えることしかできなかった。



「アドハム・ナセル。」

「なんでしょうか。」


 イルキア基地から新型機を奪取し合流した潜水艦、その中でアドハム・ナセルは艦長から呼び出されていた。


「敵艦隊に再び補足されたようだ。」


コンゴウが再び潜水艦のある海域に接近しているのを確認し、迎撃するように潜水艦の艦長は指示を出す。


「分かりました。それでは直ちに迎撃任務にあたります。」


そう言って艦橋から出ていくアドハムを確認すると艦長はため息を吐く。


「なぜ、我々が魔術師の支援などしなければならないのだ。悪魔どもめ。」


その一言が連合国の魔術師の有り様を示していた。



「デグレア少佐。私達の出撃が決まったそうです。」


 エミリアが隊長を務める親衛隊の一員であるエマソン・エチュードはアルバートに話しかける。


「あの奪取された三機の破壊ですか?」

「そうです。」

「妥当なところですね。そうなるとエチュード少佐も合わせて三人でという形ですか?」

「そうなります。まぁもし出るのがあれでしたら私とエミリア様だけでも構いませんが。」

「いえ、大丈夫ですよ。流石にそろそろ戦果を出していかないとマズイでしょうし。」

「そんなことはないと思いますよ。これ以上戦果を出しても今度は勲章がありませんから。」


 アルバートの答えにエマソンは不味かったかと思う。エミリアからも彼女に対してアルバートが戦果ばかりを求めないようにケアしろと言われていた。

 それに彼のこれまでの戦績を考えれば問題は無いのにという思いもある。そしてエミリアがいるのだ。だからアルバートが親衛隊から外れることはないとエマソンは断言する。


 以前の彼であればもう少し軽口が言えたのになと思いながらもなんとかエミリアから言われた通りのケアを出撃前まで彼女はしていた。

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