第六話 それぞれの思惑(2)
「歩いて帰る、しかないか……。」
通信設備が死んだデュラハンの前で地べたに座り途方にくれていたアルベルトは立ち上がるとそう呟く。元いた場所まで数十キロとはいえ舗装された道なのでまだマシかと諦めをつける。そのとき遠くからトラックの音が聞こえて来たので立ち止まると、目の前に止まった。そしてドアが開くと中から二十代後半の栗色の長髪を持った女性が降りてきた。
「良かった。やっぱりいた。」
アルベルトは自分が所属している親衛隊の隊長であるソフィア・バーベリを見ると嬉しそうに目を見開く。
「隊長!」
これで歩かなくて済むと言った嬉しさから少し感嘆の声が溢れてくる。
そんな彼の様子に、ソフィアは頭を撫でる。
「よく頑張ったわね。お疲れさま。」
「まぁやられたんですけどね。」
アルベルトはそう能天気に笑う。
「あれは仕方ないわ。普通味方いるのに撃たないもの。私の方から司令に報告しておくわ。」
「お願いします。それにしてもこれどうすればいいですか。」
アルベルトはデュラハンを見上げながら聞く。
「これねぇ……。武器全部壊しちゃったんだっけ?」
ソフィアは撫でるのを辞めると機体の状態を確認する。
「はい。一つ残らず使いきりました。」
「そう。塗装も滅茶苦茶だし廃棄かな。武器とかも式典用だから高いけど仕方無いわね。」
「あはは。すいません。」
アルベルトはソフィアの機嫌を損ねないように様子を伺いながら言葉を選んでいく。
「とりあえず中に入りなさい。疲れたでしょう?」
ソフィアは軍用車の後部ドアを開けると中に入るようにアルベルトを促す。それに合わせてアルベルトが中に入る。
「あ、ユリオン中佐。」
運転席には彼と同じ親衛隊の副隊長であるダース・ユリオンが座っていた。といっても本当に座っているだけで、自動運転が発達した現在では精々ブレーキを踏むことくらいしか無かった。
「全く、厄介なところに落ちやがって。ここ自動運転出来ない箇所だろうが。」
「すみません。」
そう悪態を吐いているダースに、後から乗ってきたソフィアはなにか言おうとするがアルベルトがまぁまぁと宥める。彼女はため息を大きく吐くとシートベルトを閉める。それに合わせてダースは車を急発進させ、時速四十キロあたりで慣性走行に入る。
「そういえば怪我とかは無いわよね?」
「多分大丈夫なはずです。」
アルベルトは一応全身触って血など出ていないか確認するがその様子は特に見られない。
「ところで隊長、水持っていませんか?」
「飲みかけならあるけど大丈夫?」
「全部飲んでもいいですか?」
「それは構わないけど。」
ソフィアから水のペットボトルを開けると水を一息で全て飲み干す。
「それで、敵の部隊は強かった?」
急に真面目なトーンで聞き出すソフィアにアルベルトは考えるように上を向く。
「強かったと思います。ただ練度自体はそこまででは無いはずです。実際自分がもし新型機に乗ってたらデュラハンなんて撃破するのにはそこまで時間がかからないはずです。多分実戦もこれが初めてのような気がします。」
「新入りの癖に。」
そこに同じ親衛隊の上官であるダース・ユリオンが口を挟む。その無愛想な感じの彼がアルベルトは苦手だった。
「確かに。自分も実戦なんてこれが初めてなんですけど。」
彼は愛想笑いしながら答える。それを冷やかすように嘲笑するダースをソフィアは少しきつく睨む。
アルベルトはなんとかソフィアが暴発しないように一抹の不安を覚えながらも話を逸らすことを考える。
「そういえば一応確認なんですが首脳部の方は大丈夫だったんですか?」
「大変だったが問題はない。一時パニックにはなったがなんとか避難はした。怪我人も出ていない。だが、俺がお前の代わりに戦っていたら避難する必要など無かったんだろうが。」
ソフィアの代わりにダースがそれについて答える。
「本当に誰かに代わって貰いたかったです。」
アルベルトはそう受け流すと背もたれにもたれかかる。
「ならばもっと腕を磨くことだな。」
ソフィアはダースの言葉を聞いてつまらなそうな顔をしている。そしてそこから続くダースの自慢話を二人はお互いに苦笑しながら聞く以外無かった。
*
「はぁ、疲れた。まさかあんな強引な強襲するなんて。」
エニシエト連邦アクタール基地及び連邦第七艦隊司令官であり、辺境伯の一人であるユリア・ベッソノワは豪華なホテルの一室で疲れた顔をして座っていた。そのとき部屋にノックの音が響く。
「ソフィアか。入れ。」
ユリアはノックの音からそれが信用している部下だと判断するとそう告げた。
「失礼します。」
部屋にソフィアを見ながらユリアはパーティのために結っていたピンク色の腰まである長い髪を解き、いつものツーサイドアップに結びなおす。
「それでどうだった? アルベルトの様子は。」
「疲れは溜まっていたようでしたが、別段問題はありません。」
「戦闘の方も特には問題は無さそうか。」
「はい。そちらの方も問題はありません。ただ後で労いの言葉でもかけてあげた方がいいかもしれません。かなり頑張っていたみたいですし。」
「そうか。なら後でそうするとしよう。私も疲れたし。」
ユリアのその最後の一言を聞き、これはちょっかいをかけに行くなと思う。
「それと帝国軍の機体なのですが、準尉のデュラハンごと強奪機を撃とうとしていました。」
その言葉にユリアはため息を吐く。
「もしかしてそれが原因でデュラハンが墜落したとか無いよな?」
「墜落しました。」
その言葉にユリアは更に頭を抱える。
「どうするか。帝国への抗議は流石に私からは送れないしな。一応エフゲニー・バラノフに報告をしておくか。」
ユリアがまだ辺境伯になって間もないのに加え、彼女自身まだ二十一歳のためそこは五十をとうに超えている辺境伯であるバラノフに伝える形にした。
「それがいいかと。準尉の機体の方は私の方で回収しておきます。」
「いつも苦労をかけて悪いな。他にも仕事があるにも関わらずあいつの面倒を見てもらって。」
「いえ。弟みたいなものですし、表情も分かりやすいですから面倒見てても可愛いので楽しいですよ?」
「そ、そうか。」
ユリアはソフィアの答えに少し引き気味でそう答える。
「そういえば最近あんまりあいつと話すことも無いな。」
「忙しいですからね。一度ゆっくりと話した方がいいかもしれませんね。準尉も良く話す人ってユリオン中佐以外の親衛隊の面々くらいしかいませんし。」
「あぁ、中佐か。あいつとは誰もあまり話したがらないだろ。疲れるから。」
「まぁうちの部隊では皆煙たがってますね。腕は立つとは思うんですが。」
こういうとこでフォローはしっかりしてるんだよなとユリアは思う。いや、しかし主観で言っているからフォローしているようでしていないかと考えを改めた。
「大体のことは分かった。それじゃ悪いんだけど後で報告書を用意して貰ってもいいかしら。」
「分かりました。すぐに用意します。」
ソフィアはそう言うと部屋を後にする。
「とりあえずこれで後処理はなんとかなるか。少し寝よ。」
ユリアは椅子の上で目を閉じながら、今回破壊された機体の代わりとなる式典用機体の予算の捻出場所を考える。
「駄目だ。アルベルトでも構いに行くか。」
そう決めると軍服に着替え始めた。




