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第五話 それぞれの思惑(1)

「デュラハンのパイロット、聞こえますか?」


 エミリアは墜落した式典用のデュラハンに呼びかけをする。しかし、パイロットからの返事は無かった。


 エミリアとしては連邦の兵士と関わりを持つのは嫌であった。しかしパイロットが負傷していて治療したら助かるものを助けなかったせいで外交問題になるのは面倒だと判断し様子を見ることにした。


「デグレア少佐は一度ハンガーに戻って補給を受けなさい。次いつまた敵襲が来てもおかしくはないのだから。」

『分かりました。』


 アルバートはエミリアの言葉に素直に従うと機体を翻らせてハンガーに向かう。

 エミリアはそれを一瞬だけ見送るとアレースをデュラハンのすぐそばに着陸させコックピットから降りる。

 彼女はコックピットから降りると連邦の機体の状態を確認する。幸いにも燃料などの漏れはなく、また全ての電源回路を落としているため爆発の危険はなさそうだった。この辺に関してはかなり手慣れているなと思う。だが一応デュラハンのパイロットの安否の確認だけはしておこうと周囲に目をやると、そのパイロットは機体の傍で疲れたように座っていた。

 見た目はまだ二十歳になるかならないかくらいの少年で金髪を短めにしていているが、まだあどけなさが残っていた。

 彼は座ったまま上から水を被り首を振っていた。そして今度は水を飲もうとしていたのかキャップを付けて水を飲もうとしていたが、当然先程水を全部出し切っていたので水はでることは無かった。


「水、要りますか?」


 彼女はエニシエト連邦の言語を使ってそう尋ねた。アルベルトは近づいてくるエミリアに気づかなかったため、彼女の声に両肩をビクッと震わせる。そして一度だけ鬱陶しそうに目を細めて彼女を見た後に今度は目を見開いて慌てて立ち上がった。

 その動きがコミカルが面白く、そして身長は彼女が思っていたよりも小さく、かつてのアルバートと同じくらいの身長であった。その距離間にエミリアは自然と笑ってしまった。


「いえ、大丈夫です。少し飲もうとしていただけですし。」


 そしてその金髪のパイロットは流ちょうな帝国語でそう答えた。


「ドミニア語うまいんですね。」


 エミリアは表層的には驚いた顔をするが、内心警戒感を強めた。帝国と連邦は長い間戦争をしていたため、お互いに違う国の言語を極めようとするものがそこまで多くない。そのために、スパイとして育てられた可能性があるために警戒をした。


「はい。昔帝国にいたので。」


 その会話だけで一度途切れてしまうが、アルベルトは先にやるべきことをしなければならないと考える。


「アルベルト・シュタイナー准尉です。本日はエミリア・アークウィン大佐にお会いすることができ光栄に思います。」


 エミリアが自己紹介することもなく、すらすらと話す。


「私のこと知っているんですね。」

「知らない人のが珍しくありません?」


 少し不満そうなエミリアの声に対しアルベルトは特に気にすることなく飄々とした様子で答える。


「小隊での戦術に興味がある人ならば、誰でも知っていると思いますよ? 自分の場合他にも興味がある分野があるのでそこまで戦術論には明るくないのですが。」

「他にも興味がある分野?」

「はい。元々物理とかが得意だったので、その辺ですね。パイロットになったのも巨大二足歩行ロボットが好きだったからですし。」

「好きだった?」

「これだけ毎日乗っていたら飽きてきましたね。」


 アルベルトはエミリアが乗っている帝国軍の機体、アレースを見上げながらそういう。


「せめて機体の色合いがもう少し派手で乗ってみたいと思うような機体だったらよかったんですが……。」

「そんなことしたら敵に見つかりやすくなって攻撃されやすくなりますよ?」

「でしょうね。純白に金色の機体のせいで攻撃されてましたし。」


 そこまで言ってから思い出したようにアルベルトは自分の機体を見上げた。その表情は誰がどう見ても困り果てたものだった。ただどうしようも出来ないかとため息をつくとエミリアの方を振り向く。


「そういえば、基地での情報収集とかは大丈夫なんですか?」


 いつまでもエミリアを引き止めたら悪いと思ったのかアルベルトはそう尋ねる。


「それに関しては私は特に権限がないので。」

「そうなんですね。」


 アルベルトはあちこちに上がっている煙を見ると少しだけ悲しそうな顔をした。


「これからまた戦争が始まるかもしれませんね。」

「そうならなければいいんですが、多分それでもなにかしらの対応は取らなければいけないかもしれません。」


 彼女の碧い瞳が揺れているのを見てアルベルトは少し言葉に詰まってしまう。だが、そのときエミリアの無線が鳴る。

 呼び出しは基地からのものだった。


「はい。」

『アークウィン大佐、これからすぐに追撃部隊を編成することになった。』

「分かりました。すぐにそちらに向かいます。」


 内容は事態の収拾にあたって会議をしたいという内容だった。


「会議があるみたいなので私はここで失礼します。」


 エミリアはそう言うと帰ろうとする。


「いえ、こちらこそお忙しい中にお時間を頂いてありがとうございます。」

「また会いましょう。」


 エミリアが右手を差し出すのでアルベルトも右手を出すと彼女は彼の手を握った。

 それに満足したのかエミリアはアレースに戻った。

 その瞬間になってアルベルトは今自分がどうしてここにいるか思い出した。


「待って! 待ってください! 通信を! 通信機器をぉぉぉぉぉぉ!」


 しかしコクピットが閉まったエミリアのアレースはそのまま歩を進めてしまう。

 アルベルトは一人ぽつんと立って途方に暮れる以外方法が無かった。



「それで今後どうするつもりなんだ?」


 帝国軍で最も権力をもつ七人の辺境伯、その中でも別格の力を持つジョン・アニクウェスの言葉に、エミリアの父であるオズワルド・アークウィンは一度だけため息をついた。


「あの新型機三機は破壊します。」

「だが貴候から渡されたデータを見る限り、そこまで驚異的なものとも思えないのだが。」

「確かに性能自体はクロノスに少し手を加えた程度のものですし、搭載している機構も試験的なものが多くどれも実戦に出すのは躊躇われるようなものです。」

「なんでそんな機体を作ったんだ……。」


 アニクウェスがあきれたような声で言う。


「技術部がそういったロマンあふれる兵器が好きだったので。」


 少し頭を抱えるようにしながら言うオズワルドを見てそれ以上追及することができなかった。


「ならば尚のこと放っておいてもいいんじゃないか?」

「ですが、もし敵があの三機を戦果として誇るようなことがあれば面倒なことになります。別に核積んでないですし本当に少し性能がよくて変形するクロノスなんですが。見た目だけは悔しいことにかっこいいと認めざるを得ませんが。」


 その言葉にアニクウェスは頷くと立ち上がった。


「いいだろう。ならばこの件貴候が処理すればいい。ご息女にもそろそろ戦果を積ませたいのだろう。」

「お気遣い痛みいります。」

「ところで聞いたか、あの話?」

「今回の奪取が連合国によるものだという噂ですか?」

「そうだ。」

「だとしたらどこから基地の整備状況が漏れたのでしょうか?」

「確証はないが、どうせ政府の方からだろう。」

「またですか……。」

「だが今回もまた攻撃を始めたのはやつらだしな。そうなるともう一度戦争だろうな。」


 アニクウェスはそう事も無げに言った。

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