第二十二話 不協和音(2)
「それにしてもあの機体はどこなの!? 私のかわいい部下をやったあの機体は!?」
ヘンリッヒはそう苛立たし気に周囲を見てアルバートを探す。アークウィン家の親衛隊がいるということはアルバートもいるはずだと。
ブライムとエマソンによるクロノスの攻撃が意味を成してなかったからこその余裕だった。
そのときコックピットにアラートが響く。
同時にヘンリッヒの左隣にいたアスピドケロンが撃破されていた。
「いつのまに!?」
ヘンリッヒは即座に敵がどこにいるか探る。
「よくもやってくれたわねぇ!!!!! アルバート・デグレアァァァァ!」
すぐに上空にいるアルバートとエミリアが乗る二機のクロノスに気づく。その二機はクロノスの標準装備であるプラズマライフルではなく、機体の全長を超える銃身を持つ滑空砲を装備していた。その二機に対空砲火を行う。しかし二機は既に射程圏外に上昇していた。
「とにかく上に攻撃を集中!」
そう指示を出したときには右隣にいたアスピドケロンも撃破されていた。それを見て即座に防御を機体上部に固める。その直後機体に大きな音が響くが、特に問題があるという表示はなかった。
「さぁ、来なさい! アルバート・デグレア!」
*
「最後の一機だけ極端に硬いか。」
アルバートはヘンリッヒの機体がダメージを受けていないのを見て、周囲の状況を確認する。
「なるほど、風が出てきたか。」
今までの二機は風がない状態であった。そのため終端速度を大きく超えた速度で発射した高密度のライフルは敵機の装甲にダメージを与えることが出来た。しかし風が吹き始めたことによってアスピドケロンに到達する銃弾の速さが遅くなってしまう。そしてそれだけでなく、アスピドケロンの音からも他の二機よりもヘンリッヒが乗っている機体が硬いことが分析できた。
『どうする、アル?』
エミリアの問いかけにアルバートはため息をついた。
「仕方無い。どうにかしてあいつの装甲削るから後は任せた。」
そう軽く出掛けてくるという感じでアルバートは再び機体を急降下させる。
そして当初の作戦のマージンを持った高度よりも更に下げていく。エミリアからの通信は予め切っていた。
後はギリギリのところまで突っ込むだけだと更に意識を集中させた。
*
「上から! けどそんなのただの的よ!」
ヘンリッヒは上空から接近してくるアルバートのクロノスに狙いをつける。そしてアスピドケロン各部に搭載されているプラズマライフルを撃つ。
しかしその攻撃は当たることは無かった。
クロノスの速度が速いため周囲に出来た気流がプラズマを弾く。
二機の距離はついに百メートルを切る。その瞬間にクロノスが装備していた大口径の滑空砲が火を噴く。
その弾が銃身から飛び出た直後、クロノスは水平に移動させると同時に減速のためスラスターを全開にする。しかし、姿勢制御がうまく行かず、マリノアス基地の格納庫に激突した。
それは一瞬の出来事であった。
ヘンリッヒは自分の機体がどうなったかは、機体に響いた振動と各種アラーム、そして後から来た音から理解した。
「まだまだぁ……。」
コックピット内部があちこち火花を吹いていた。それでもヘンリッヒは近くに転がっているであろうクロノスを探す。
「見つけた……。」
アルバートの乗るクロノスに狙いをつける。
「今度こそ……。」
ロックオンをし、コックピットのトリガーに指をかけたときだった。
エミリアが装甲が薄くなったアスピドケロンを撃破していた。
*
「うーん。やばいなこれ。」
アルバートは暗くなったクロノスのコックピットで周囲がどうなっているか分からなかった。かなりの高速度から進路を変更したことで機体の腕とか足がもげたのは分かっていたが、その後の状況はなにも分からなかった。
そう思っているとコックピットハッチが開く。恐らくエミリアだろうと思うが一応拳銃を用意する。
ただある程度開くとエミリアのパイロットスーツの色だと言うことは分かったので、拳銃を下ろすとため息をついた。
「エミリア。」
「大丈夫?」
そう聞いてくるエミリアの声はかなり不機嫌そうな物だった。
ただそんな不機嫌ながらも手を出してくる彼女の手を取る。
「あぁ。悪いな。」
それに対して彼女は何も言わずにアルバートを引っ張り上げた。
「戦闘はどうなった?」
「基地の方はある程度抑えた。詳しいことは後で話すから早く私のクロノスのコックピットに移って。」
エミリアの言葉に頷くと彼女の機体に乗り込む。そしてすぐに機体を上昇させる。そのときにアルバートはマリノアス基地の様子を初めて確認することができた。まだ基地各部で散発的な戦闘が起こっていた。しかし戦闘機や戦車のドローン部隊が基地を制圧していく。
それが基地の陥落がすぐそこまで来ていることを物語っていた。
*
「よくやった、少佐、少尉。」
イルキア基地に戻りエミリアと一緒にクロノスを降りたアルバートはブライムからそう褒められる。
「今回の成果を持ってアークウィン少佐には勲章が与えられることになった。」
その言葉にエミリアはアルバートも貰えるだろうと次の言葉を待った。
「戦時中だから大きな式典は無いが、授与のために簡易的な儀式があるからな。少佐にはそちらに参加してもらわなければな。」
しかし次の言葉は、彼女の予想とは違った。
「デグレア少尉には無いのですか?」
「無いな。」
ブライムは一言そう返す。
だからすぐにアルバートの方を向く。あれだけ戦果を挙げたがっていたのだから彼も怒るだろうと思っていた。しかしその彼の反応は薄いものだった。
「アルも変だと思わないの?」
「いや、別に? だって撃墜したのエミリアだし。」
彼はいつも通りの声で事実を述べる。それがエミリアには堪らなく腹立たしかった。同時にアルバートはなにか隠しているとそういう確信もあった。
だからこれ以上詮索をしなかった。
そしてこの絵を描いたのはブライムか自分の父親であるオズワルドであろうということも予想できた。それはまだいい。だがそこにアルバートを巻き込んだことだけが許せなかった。
彼女は気に入らなそうに格納庫から大きな足音を立てて出ていく。
全ての原因であるブライムも彼女の様子を見て一度だけため息をつくと、格納庫を後にした。
残ったアルバートはエマソンに話しかける。
「エチュード大尉。」
「どうしました?」
「うまいこと演技できてました?」
そう確認をするアルバートの声は色々なものを内包しているのを彼女はすぐに感じ取る。
「はい。」
一言そう告げるとエマソンはアルバートの頭をポンポンと優しく叩いた。
次は土曜日の二十二時半頃に投稿します。




