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第二十一話 不協和音(1)

「親衛隊隊長を退きたいか。」


 イルキア基地の司令官であるオズワルド・アークウィンは、ブライム・エイブラウからの言葉を反芻していた。彼が自室にいたときに珍しくブライムから話があると言われ、受けたのが辞任の申し出であった。


「パイロットとしてはお前も歳をとったからな。確かにそろそろか。」


 俺たちがパイロットだった頃に若かった世代も引退する歳かとオズワルドは感慨深い気持ちになる。


「まぁこの件については考えておく。因みにだが後任は誰がいいと思う?」

「ご息女がよろしいかと。」

「エミリアが? まだ早すぎないか?」

「はい。彼女だけなら早過ぎると思いますが、エチュード大尉もデグレア少尉も彼女の言う事でしたら従うでしょう。」


 その言葉にオズワルドはもう一度考えるように顎に手を当てる。


「そうか。まぁこれについてはまた後ほど考えるか。だが、大佐。悪いが今はそうも言ってられなくてな。先にマリノアス基地を落す。それが終わったらアクタール基地を落とす。それまでは続けてもらうぞ。」

「分かりました。」

「それでまずマリノアス基地への攻撃だが、次で確実に終わらせろ。」

「承知しました。」


 今まで明確な期限を設けなかったオズワルドがここで期限を設けたことにブライムは訝しむ。


「それと例の新型、あの防御力が高いキャスターについてだが、破壊方法が見つかった。まぁ見つかったとは言ってもかなり力技だとは思うがな。それについてはあれとエミリアにでもやらせるといい。」

「アークウィン少佐とデグレア少尉にですか?」

「あぁ。もしあいつが親衛隊の隊長につくというのならそれくらいはやってもらわないと困る。」

「分かりました。」


 それがアルバートにとってどのような意味を持つのかは分かっていたが、ブライムは従わざるを得なかった。



「来たか、少尉。」

「なんでしょうか?」


 ブライムに呼び出されたアルバートはなにに対して怒られるのだろうと内心ビクビクしていた。


「いや、実は頼みがあってな。」


 ブライムは少し言いづらそうにする。


「実は近々パイロットを引退しようと考えている。」

「引退……ですか?」

「まぁそろそろ一線を引いてもいい歳だからな。」


 それに一瞬驚くがすぐにそれもそうかと納得する。


「それで本題だが、次の親衛隊の隊長はアークウィン少佐にしようと思っている。」

「いくらなんでも若すぎませんか?」

「そうだ。今のままならなっても信頼は得られない。だから、戦果がいる。そのために少尉には手伝って欲しい。」

「少佐のために戦果を作れる環境を作ると?」

「そうだ。そしてこれは少尉にしか頼めないことだ。私やエチュード大尉ではただ単に戦果を譲っただけと思われる。その点少尉は最適だろう。」


 アルバートにはブライムの言いたいことはよくわかった。そして彼がそれを飲まなければエミリアが危険な目にあうことも分かっていた。

 だとしたら答えは一つであった。


「分かりました。」


 その一言は今までの自分がやりたかったことの全てを否定する言葉だった。エミリアの隣に立つためにトップエースになる。それはもう叶うことの無い夢になった瞬間だった。



「この作戦は危険すぎます!」


 エミリアの声がブリーフィングルームに響き渡る。


「しかし、少佐。この方法以外今のところ敵機撃破の方法は無いんだ。」


 ブライムはエミリアの意見を否定する。


「だからといってライフルの貫通力を上げるために上空から地面に向かって地面ギリギリまで加速することで弾の初速を上げるというのは!」

「大佐。これに関しては私もエミリア様と同意見です。デグレア少尉を殺す気ですか?」

「だそうだが、デグレア少尉はどうだ?」

「他に方法はないのでこの作戦案でいいと思います。」


 アルバートはそう一言、重い声で返した。

 彼もいくつか方針を考えたけど、それしか方法が思いつかなかった。


「アル!」

「他に方法がない以上仕方無いだろ。俺がやらなきゃ他の誰かがやることになるんだし仕方無い。」


 こればかりは引くことができないという形でアルバートは口を閉じた。


「よし。それじゃあ各自準備にとりかかれ。」


 アルバートはエミリアが不機嫌だろうなと思い彼女の元に向かうが、彼女が口を聞いてくれることはなかった。


「失敗したかなぁ。」

「出入り口のすぐ側で立ち止まらないでください。」


 エマソンは不機嫌そうな声でアルバートに言う。


「すみません。」

「それが何に対して言ってるのか分かりませんが、エミリア様の気持ちも分かってあげてください。」

「分かっていますよ。だけど、今回のはやらなきゃいけないんですよ。私だけじゃなく、アークウィン少佐のためにも。」


 そのアルバートの答えはいつもと違うものだった。



 出撃の少し前、格納庫でクロノスの調整をしていたアルバートはエミリアが来たことに気づくとコックピットから出た。

 彼女は彼を見ると気まずそうに顔を背ける。


「エミリア。」


 しかしアルバートは躊躇いも無く話しかけた。

 なんとなくこの辺で機嫌を直してもらわないと作戦に影響が出そうな気がしたためであった。

 だけど問題なのはどうやったら機嫌が直るか。そのために彼は一つの方法を考えていた。


「悪いんだけど、これ持っててもらってもいい?」


 アルバートはそう言うとペンダントにして持っていた空薬莢を彼女に渡す。


「なにこれ?」

「親父から貰った御守り。いつもは持ってるんだけど、今回は作戦が作戦だからなぁ。」

「そうなんだ。」


 彼女はそう言うとその薬莢の表面を白い指でなぞる。


「それなら尚更もっておくべきじゃないの?」

「御守りなんてただのジンクスだからな。それに俺にはあまり必要ないものだけど、壊れるのは嫌だし。だから悪いんだけど、持っててもらってもいい?」

「分かったわ。じゃあ、代わりにこれ、持ってなさい。」


 エミリアはそう言うと首にしていたペンダントを外し、アルバートに渡した。


「待て。これ確かエミリアのお母さんの」

「形見よ。だからこの戦闘、いやこの戦争が終わったら必ず返しなさい。無くしたらただじゃおかないから。」


 その言葉にアルバートは早まったかと思う。ただ彼女の声が少し嬉しそうなのを見てこれで良かったのだと納得する他無かった。



「大分嬉しそうですね。」

「そうなの。実はデグレア少尉がね、私に自分の父親の〜」


 エマソンはそう嬉しそうにアルバートの話をしているエミリアが羨ましかった。それ以上にアルバートが羨ましいものではあったが。

 だからこそエマソンにはアルバートの様子がいつもと違うことに引っかかる。

 しかし、今それを言っても意味ないかとエミリアののろけ話を聞き続けた。



「またこれも外れ。」


 アスピドケロンの中でヘンリッヒは若干疲れた声でアルバートの機体を探す。


『これが最後の敵襲だと思いたいですね。まぁでもこの機体に乗っていたらまだ敵が来てもいけそうな気がしますけどね。』

「油断大敵よぉ! それに今のは死亡フラグでしょぉ! 気を付けなさい!」


 だが長い戦いのせいで苛立ちがマックスに来ていたヘンリッヒはツッコミのつもりが怒鳴り声になっていた。


『すみません。』

「それより来たわよ。迎撃開始!」


 そのことにヘンリッヒは罪悪感を感じながらもブライムたちを捉えたので攻撃を始めさせる。


 アスピドケロンから放たれる無数の光をブライムとエマソンは息を合わせてあっさりと回避する。

 そのままアスピドケロンの注意を引くためライフルを撃つ。


「無駄よぉ! この機体にそんな攻撃は効かないわぁ!」


 ヘンリッヒはまだ戦いを続けた。そんな彼も戦闘を初めて二時間、その体力は割と限界に近かった。



『下の方は始まったみたいね。だとすると私達もそろそろか。』

「そうだな。」


 アルバートは作戦開始直前になって少し怖くなってきた。やはりもう少し準備は入念にしておくべきだったかと後悔するも、後には引けない。


『じゃあ、行きましょうか』

「了解。」


 速度を落とさないようにアルバートはアスピドケロンがいる座標の周囲を旋回しながら位置を合わせる。そして機体を一気に急降下させる。


「流石にこれは怖いな。」


 アルバートは数秒ブースターを真下に向かって噴かしただけで大きく振動するコックピットに恐怖を覚える。


「まぁ、流石に空中分解だけは避けてくれよ! あいつらを撃破するまで!」


 だがその恐怖を押し込んで叫ぶ。


 コクピットがアラームを鳴らしているがそれを無視して更に機体を加速させる。

 それと同時に強度を上げることに魔力を消耗しているため疲れが溜まっていく。

 だがそれでもブライムから送られた位置データを信じてアスピドケロンに突っ込んでいく。

 真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに機体を走らせた。

次話は明日の22時半頃に投稿します。

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