第十八話 水中戦
「流石にまだクロノスは出せないか。」
『慣熟訓練も無しに水中戦は流石に無理よ。』
アルバートとエミリアは先ほど受領したクロノスではなく、水中戦が可能なゼウスに乗っていた。エミリアはまだ自分のゼウスが残っていたためそちらに乗っていたが、アルバートは隊長であるブライムのゼウスに乗っていた。
そしてブライムとエマソンはクロノスで空中からの支援を行いながら周囲の警戒をしていた。
本来こんなの立場逆だろとアルバートは思う。
しかしそんなことを愚痴ったらとんでもない目に合うのは明らかなので誰にも言うことはしなかった。
『アークウィン大尉、デグレア少尉。水中戦は初めてだったな。』
『はい。初めてです。』
エミリアがアルバートの分も答える。
『こちらも空中から支援するが、あまり深く潜りすぎるなよ。』
ブライムはそうアドバイスとも取れない言葉を告げる。
「分かりました。」
『デグレア少尉。水中に潜るわよ。』
「了解。」
エミリアの指示に合わせてアルバートは彼女より先に水中に潜る。
「水中にキャスターで潜ったのなんて数年ぶりだな。」
幼年学校で習ったことを思い出しながらゆっくりと水しぶきを立てないように海に入る。それでもどうしても発生する水泡を見ながらも周囲の警戒を怠らない。
「敵機捕捉。やっぱりエーギルか。」
エーギル。そう呼ばれるキャスターは連邦軍製の二世代前の水中戦用キャスターだった。モグラのような丸っこいフォルムと大きく太い腕部を持っていた。そしてその両手は大きな手になっており、爪の先端には高出力だが刀身が短いプラズマサーベルを搭載していた。
「大尉。攻撃許可を。」
『許可します。』
「了解。セーフティ解除。」
既にロックオンしていたエーギルの一機に向かってバズーカを撃つ。
「やっぱり当たらないか。」
エーギルの部隊は水中での高機動力を生かして軽々とバズーカの弾を躱した。
そしてお返しとばかりに多数の追尾魚雷を発射する。それをゼウスの頭部と胸部に搭載された実弾のバルカンで撃ち落とす。
そのとき機体にピーっという甲高い電子音が鳴り響く。それが味方からの支援限界の深度だという警告だった。
「これ以上潜れないな。」
今は待つときかとアルバートは適当に魚雷を撃ち落としていた。
*
「どうせ上にお仲間がいるのでしょうけど。この私を舐めてもらっちゃ困るのよ!」
エーギルの部隊の隊長であるヘンリッヒはそう舌なめずりをしながら一気に深度を上げる。
「レーダー拡散魚雷発射!」
当然のようにアルバートのゼウスはその魚雷を撃ち落とした。
しかしその魚雷は先ほどまでと違い水中に黒い液体を撒く。同時にエーギルのレーダーは使えなくなった。それでもアルバートのゼウスがいると推測される場所にヘンリッヒは突っ込む。
これで撃破だと思ったが、機体がゼウスにぶつかった感触は無かった。
「勘が鋭いわね!」
空振りしたことに苛立つ。
「まぁいいわ。もう一機の方を!」
エミリアのゼウスの元にヘンリッヒは突撃した。
*
「クソ! レーダが使えないか!」
アルバートは敵の攻撃を位置と水流から予測して更に一度深度を下げた。
そしてレーダーが使えそうな場所に来ると一旦周囲の状況を確認する。その時エミリアの下方からエーギルが接近しているのを確認した。
「エミリア! 下!」
エミリアのゼウスを追いかけていた注意を促すが間に合わずに彼女の機体が持っていた右腕のバズーカが切断される。
エーギルの攻撃はやまず、ゼウスのコクピットをその左腕のクローで貫こうとする。
「させるか!」
アルバートはバズーカをエミリアとエーギルの機体の間に向かって撃つ。エミリアもヘンリッヒもそれに対して正気かと疑うが、その弾はエミリアの機体にギリギリで当たらないところを通った。
『助かったわ。』
「けがの方は?」
『特にないわ。』
アルバートはそのままエミリアの機体から距離をとったエーギルに向かってバズーカを撃つ。
『一回このスモークから離れる!』
エミリアが苛立たし気に言う。
後手に回ってしまっているなとアルバートは感じながらも口にすることはしない。
だがその瞬間すら許さないかのように先ほどのエーギルがエミリアの機体に向かって攻撃を仕掛ける。
そのためエミリアの援護をするべく機体の深度を上げようとするが、思ったように上がらなかった。
「クソ! 潜り過ぎたか!」
そしてアルバートにも二機のエーギルが突進していた。
「鬱陶しい!」
一機目からの突進をかわし二機目の攻撃をギリギリでかわしながらその背面に捕まる。
「これで……。」
背部に実体剣をつきさそうとした時だった。
「いや、待てよ?」
アルバートはゼウスのメインスラスターをフルスロットルで噴かす。それによって現在とりついているエーギルの進路を強引に変える。そしてエミリアととどめを刺そうとしているヘンリッヒの間に割り込める線に立つ。
「今だ!」
とりついていた敵に剣を突き刺す。エーギルは水圧に負けて機体があちこちペシャンコになりながらもエミリアの機体にぶつかると、止めを刺そうとしていたヘンリッヒの機体にコックピットを深々と貫かれていた。
*
「よくも私に味方殺しをさせたわねぇぇぇ!」
ヘンリッヒはエーギルの爆発を使用して離脱をしている二機のゼウスを追いかけようとするが通信が入った。
『ウィンゲル少佐、撤退だ。こちらの方の被害が思ったよりひどい。』
そういうゲーリヒからの報告にヘンリッヒは一度舌打ちをする。
「了解したわ。」
だがこの状態では勝ち目がないことも分かっていたので、攻撃するのをやめて撤退ルートに入った。
*
エミリアのゼウスを回収したアルバートは手早く着艦し、整備兵が来るよりも先に大慌てで開けていた。
「エミリア! 大丈夫か!?」
「アル……。」
エミリアは珍しくしおらしくしていた。ただ怪我がなさそうなのを確認すると、アルバートは安堵する。
「無事ならいい。」
そしていつもより少し高い声で無愛想にそう言うとコックピットから離れた。
「少尉。先ほどまでの狼狽え具合からその切り替わりは凄いな。」
ブライムはアルバートを見て少し驚いていた。今までエミリアがアルバートにべったりなのは見てきたが、その逆は初めて見たためだった。
アルバートはそれに対してバツが悪そうな顔をして二人から距離を取った。
「確かに、そうかもしれませんね。」
エミリアはコックピットから降りるとアルバートの方を見る。そして次に自分の機体を見上げた。
「それにしても、よくこの状態で助かったな。」
ブライムもボロボロになったエミリアの機体を見上げる。四肢はもげ落ちて、胴体にもあちこち傷が入っていた。
その時にはエマソンもエミリアが無事なのを確認して、アルバートに文句を言いに向かっていた。
「少尉のお陰ですね。私はなんの力にもなれませんでしたので。」
「水中型を一機撃破してたか。よく撃破できたな。」
「敵同士に相討ちをさせていました。少尉と交戦していた一機の進路を上手いこと調整して、私と敵機の間に入ってきました。そして敵のエーギルのクローによる攻撃から護るようにその取り付いていたエーギルを潜り込ませていました。」
「つまり、あれか。敵の進路をゼウスのスラスターで強引に替えて、大尉と敵の間に突っ込んだと。そして本来だったら大尉が受けるはずの攻撃を代わりに敵のエーギルに受けてもらったと?」
「そういうことになります。」
「そんな芸当できるか? 普通。」
ブライムは素直にアルバートを賞賛する。
「そうですね。普通出来ませんね。」
*
「なんなのよ! あいつは!」
ヘンリッヒの盛大なる怒りをゲーリヒは隣でうんざりした顔で聞いていた。これがまだ可愛い女の子ならいいが、三十過ぎの男から聞かされているのは辛かった。
「親衛隊を撃退したのだから強いのは当然だろう。それとも弱い方が良かったのか?」
「そんなわけないじゃない! けどあいつの正で私の大事な子が死んだのよ!」
「やったパイロットはだれなんだ? ブライム・エイブラウか?」
「いいえ、違うわ! アルバート・デグレア!」
「聞いたこと無い名前だな。」
「私もよ!」
ゲーリヒはヘンリッヒをここまで怒らせるのだからさぞ有名ないいパイロットなのだろうと思って尋ねたが、聞いたことも無い名前だったので素直に驚く。
「次あったら絶対に殺す!」
「分かったか落ち着いてくれ。それと俺に唾を飛ばすな!」
そうヘンリッヒを黙らせるためにゲーリヒはまた苦労しなければいけなかった。
*
「今日の敵の撃墜数は一機か。」
アルバートは自室で撃墜スコアを見ていた。
「エースパイロットの既定値は超えているが、前の大戦でのトップエースのスコアには程遠いな。それに同期にも負けているこの状況では……。」
幼年学校の同期も既に入隊していた。初出撃で十機近い連邦のキャスターを落とした同期も五人程度いると聞いていた。
「エミリアの隣に立ち続けるにはもっと成果を出さなければいけないのに……。」
アルバートはそう自分の戦果を冷静に見つめていた。
申し訳ありませんが、今週土曜日はお休みさせてください。
来週の水曜日の二十二時半に投稿予定です。




