第十七話 新型機受領
「これが新型機ですか?」
自室でゆっくりしていたアルバート・デグレアは自分の小隊の隊長であるブライム・エイブラウに格納庫に呼び出されていた。
定刻の五分前に到着すると同じ小隊の隊員であるエミリアとエマソンもいた。
「これで全員そろったか。」
ブライムが格納庫の中に進むので、アルバート達も後ろについていく。
そしてある程度進むと立ち止まる。
アルバートもそれに倣って止まると目の前の機体を見上げた。
「こちらですか? 新たに配備された新型というのは?」
隊長であるブライム・エイブラウが小隊全員の気持ちを代弁して整備班長に尋ねる。
「そうです。これがクロノスです。この一号機がアークウィン大尉向け、二号機がエイブラウ大佐向け、三号機がエチュード少佐用、四号機がデグレア少尉用になります。大佐用と少尉用は機動力を高めにしています。」
グレー色の機体は前世代のゼウスのような直線的な機体から変わり連邦製のように曲線的な機体となっていた。
(今更被弾経始を重視した機体、というわけでもないか。そうなると連邦の次世代機がプラズマライフルを搭載するから表面積を増やして熱の放射性を上げるのが目的か。)
この辺は後でエミリアと確認をすればいいかとアルバートは思う。そうこうしているうちに機体の受領は終わった。
その後機体をイルキア基地が保有している戦艦コンゴウに移し機体の能力を確認した。
それから二時間くらいアルバートは機体の調整をしていた。
「どう? そろそろ終わりそう?」
先に機体の調整を終えたエミリアが暇そうな声でアルバートに尋ねる。
「いやもうちょっとやらせて。」
「もう今日の勤務時間超えているわよ。」
「そうだけど。別にいいだろ。」
そう答えるアルバートの頭をエミリアはいじる。なぜ人の髪をいじるんだ、禿げたらどうするつもりだと思いながらアルバートは機体の調整を続ける。しかしやはり頭が気になって調整に集中できなかった。
「気が散るんだけど……。」
実際アルバートの手の速度は明かに落ちていた。
「そう。それは悪かったわね。」
エミリアもそれに気づき、つまらなそうにコクピットから出ようとする。
「少し待てエミリア。後十分で設定が終わる。どうせ今日は終わりだし。だったらたまには紅茶が飲みたい。」
「分かったわ。用意して待ってる!」
そういって嬉しそうにコクピットから出ていくエミリアを見送りながらアルバートはマニュアルに目を通しながら調整を進めていく。
「少尉は少佐の扱いに相当慣れているようだな。」
隣で同じように機体の調整をしていたブライムがアルバートに話しかける。
「まぁ、長い付き合いですからね。」
アルバートはブライムの方を見ずに設定をするほど二人の仲は良くなっていた。
「確か付き合って二年目だったか。」
「そういえばそんなもんでしたね。アークウィン大尉から聞いたんですか?」
「あぁ。前に本人が嬉しそうに話していた。そういう記念日は覚えていた方がいいぞ。」
そう付き合った年数に無頓着なアルバートに対してブライムは今まで何回か失敗している恋愛経験からそう忠告する。
「別に付き合って何年目かは気にしていませんよ。ただ付き合い始めた日は忘れないですね。彼女の誕生日なので。もし忘れてたりしたら、消されますよ。」
アルバートはそう軽口をたたいた後にふと思ったことがあり、一旦機体の調整する手を止める。
「そういえば隊長は結婚とかされないんですか?」
「少尉。一度その口をつぐんだ方がいい。」
だがその問いに対するブライムの答えは冷たいものだった。
アルバートはその空気を感じ取ってあえて何も見ないように目の前のコンソールをいじる。
暗くなった自分の上官に心の中でため息をつきながらも目の前にある機体の設定を進める。
「大体な、少尉。世の中そんなに相性が合う人間なんていないんだ。なんで告白しても優しいだけの人だから無理とか付き合ってもあなたの優しさが分からなくて怖いとかいう理不尽な理由で振られ続けた俺の気持ちがお前に分かるわけ……。」
そういいながら暗い雰囲気を出すブライムにアルバートは早く出て行ってくれないかなと思いながらキーボードを打ち続けていた。
*
「まさかこんなところでアークウィン家の戦艦を捕捉するとはなぁ。司令部はなんだって?」
「攻撃しろとのことです。奇襲であれば成功すると。」
「親衛隊を撃退した部隊を相手にするのか。面倒だな。」
潜水艦ヴィーヘルムの艦長であるゲーリヒ・ヘムンツェルはため息をつく。
「そういわないでよぉ、艦長。こちらとてそれほど貧弱なわけではないし、敵艦隊も多数ではなく最低編成単位の三隻のみよぉ。それに場合によっては増援も来るんでしょぉ。勝ち目は十分にあるじゃない。」
そうおねぇ口調の男であるキャスター小隊隊長であるヘンリッヒ・ウィンゲルが楽観的に言う。
「取り合えずこのまま慣性航行を行い敵艦の真下についたら魚雷を発射する。少佐たちもアグワに乗って待機していろ。」
「分かったわ。じゃあ後はよろしく。」
ウィンクしながら去っていくヘンリッヒをゲーリヒは本当にいやそうな顔をしながら見送る。
(何故あいつがまたこの部隊に来てしまったのだろうか。)
そう心の底から思う。
だからゲーリヒはその指名相手がヘンリッヒ本人であることを知らなかった。
「それではこれより作戦を開始する! 轟沈できなくともそれなりにダメージを与えればいいだろう。」
*
「そういえばたまに疑問に思うんだが、お前の紅茶って士官用に支給されている紅茶とかと違うよな。」
エミリアの部屋で紅茶を飲んでいたアルバートはふと思ったことを口にする。
「よく分かったじゃない。アークウィン家が農園と直接取引している茶葉を使用しているのよ。あなたに出しているのはその中でも特にいいやつ。」
「そうなのか。」
そう言われてもどうにも実感が湧かない。
その辺は平民と貴族の差というやつかと思いながら紅茶を飲む。
「にしてもよく分かったわね?」
「あぁ。前に自分で淹れたときに気づいた。」
その言葉にエミリアがジトっとした目でアルバートを見る。
「それよりも今度の記念日どうする?」
これは間違えたら殺されるなと思いながらも少し間を置く。
「記念日ってあれか。付き合いだしてからのか。」
「なにか不満でもあるの?」
エミリアはポットをもってカップに紅茶を入れる。しかしその優しさとは裏腹に声は低く怖いものだった。
「いや、特に不満は無いが。後2ヶ月くらい先だろ。それに戦争真っ只中だし前みたいに遊びに行くなんてできないだろ……。」
「まぁ、そうなんだけどね。」
エミリアはアルバートの言葉にどうするかと考える。
「二人で休暇でももらって部屋で休むか? 最近疲れてきたし。どうせならケーキでも一緒に作らない?」
エミリアは顎に手を当ててアルバートの提案を飲み込んでいた。
「確かにたまには二人でゆっくりするのもいいかもね。最近二人でゆっくりしていることも無かったし。」
そういうエミリアを見ながらアルバートは紅茶を少しづつゆっくり飲む。
その瞬間艦に衝撃が走る。
それによって紅茶が跳ねアルバートの顔にかかる。
「あっつ!」
アルバートはすぐにカップをトレーサに置く。
「ちょっと、大丈夫!?」
エミリアがそういってハンカチを出そうとするとまた船体に衝撃が、そしてその衝撃はより大きい振動が奔った。
「きゃ!」
そういってエミリアが体勢を崩すのでアルバートはすぐに体を支える。同時に敵襲のアラームが室内に鳴り響く。
「第二種警戒態勢! パイロットは機体にて待機せよ!」
そうアナウンスが流れるので二人はお互いにうなづくと格納庫に向かった。
次は来週の水曜日に投稿します。




