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第十四話 新しい立場

思ったよりも書き進めたので投稿します。

 アルバートは一人施設内にあった広場のベンチに座っていた。アインが裏切ってから半年、季節は寒い冬を超え、温かい春の陽気が目に見えて来た。

 士官学校の短期の課程を修了したアルバートは親衛隊に本日付けで復帰となっていた。しかし、勤務時間に入るまではもう少し時間があった。


「約束した時間まではもう少しあるし、少し寝るか。」


 腕時計で時間を確認すると目を閉じる。

 丁度心地よい陽気で後もう少しで眠りにつけそうかなと思った時だった。


「新型機のテストパイロット様がこんなところで油を売っていらしゃっていいんでしょうか?」


 背後から聞きなれた声がするが、アルバートは無視した。


「ちょっとアル。起きてよ。」


エミリアがそう背中をトントン叩く。


「んぁ? エミリアか。どうした?」

「寝てなかった癖に。」


 アルバートの演技をエミリアはすぐに見破った。この状態の彼女に下手に言葉をかけるととても不機嫌になって面倒だった。


「よくわかったな。」

「そりゃ分かるわよ。だってアルって寝起きのとき凄い不機嫌そうだもん。」

「低血圧だからな。それに眠いのは本当だ。昨日遅くまでどこかの誰かさんが引っ張り回されたし。」

「別にいいじゃない。そうでもしないと取られそうだったし。それよりもデグレア少尉。階級上の人には敬語使おうね。」


 エミリアは自分の階級章をアルバートに見せつける。士官学校の課程を修了した時にアルバートは准尉から少尉に、エミリアは少尉から大尉に昇進をしていた。


「別に今勤務時間じゃないからいいんだよ。それでどうしたんだ?」

「エイブラウ大佐が早く来いって。」

「そうか。」


面倒だなぁという形でアルバートは立ち上がると頭を掻く。


「多分新型機の件よ。」

「やっぱりそうだよなぁ。」

「そんなに嫌そうな顔をしない。凄いことなのよ。士官学校卒業してすぐに専用機を与えられるなんて。」

「専用機というか実験機だけどな。」


 アルバートはそう捕捉する。


「でもそれでも凄いことよ。」

「まさか自分が書いた論文のせいで実験機に乗る羽目になるとは思わなかった。あんな機体扱いこなせるか不安なんだが。」


 そう過去の自分を呪う。ブライムの動きを見て思いついた論文を書いたのが彼の間違いだった。その論文を出し結果、アルバートに与えられたのは全身のバランスが滅茶苦茶にされた帝国軍主力機ゼウスのカスタムタイプだった。


「全身に各部にスラスターを付ければ、機動力と応答性があがるんじゃないかみたいなやつだっけ? 機体を見る限りかなりバランスが悪そうよね。」

「シミュレーションでやったみたら十分で単独事故起こして撃墜したなぁ。」


 アルバートの言葉にエミリアは黙ってしまう。


「まぁ、なんとかなるでしょ。」

「それ俺が言う言葉。」


そう馬鹿な話をしていると、格納庫についた。


「エイブラウ大佐。今日からまたお世話になります。」

「おぉ。戻ったか。どうだ? 少しは楽しめたか?」


 その言葉に場の雰囲気が少し固まる。


「はい。まぁ。」


 アルバートはそう濁った返しをする。

 とてもではないが、士官学校でアルバートがモテたなんていう話は出来なかった。

 隣ではエミリアが凄い形相でアルバートを睨んでいた。


「それならよかった。それでデグレア少尉。あの例の新型機のセットアップをやってくれ。」

「承知しました。」

「よし。じゃあ明後日までに終わらせろよ。その後すぐに作戦があるから。」


 ブライムはそれだけ言うと格納庫から去っていった。

 少しだけエミリアに視線を向ける。

 すると彼女は不機嫌そうにそっぽを向いて基地から出ていった。


「どうしようかな、これ。」


 アルバートは途方に暮れながら自身の新しい乗機を見上げた。



「ダール少尉。」

「アース少尉ですか。」


 いつも通り上機嫌なアズリトをアインは一瞥するとまた海に視線を戻す。


「私に会いたくないといった感じね。」

「そんなことは無いですよ。」


 アインは笑いながら立ち上がる。


「なにか呼び出しでもありましたか?」

「えぇ。ベロワ隊長が全員を呼び出せって。」

「そうですか。」


 アインはそういって歩き出そうとした足を止めた。


「どうしたの?」


 アインが急に動きを止めたのでアズリトも周囲を警戒する。


「いえ、遠くの方からキャスターにしては少し変な、しかし戦闘機ではない音が聞こえたので。」


 アインがそういって音が聞こえた方を指さすのでアズリトもそれに合わせてその方向を剥く。


「あれは……。」


 二人は遠くの方にキャスターでも、そして戦闘機でもなさそうな機体を捉えた。


「新型機でしょうか?」

「でもあれって戦闘機?」


 空を飛んでいる機体はキャスターとしてはかなり平面的な形をしていた。そして近くなるにつれ、機体の形はより三角形に近い形をしていた。

 するとその機体は変形を始めた。


「噂にあった可変機構を搭載した機体ですね。」

「でも見た感じあの機体凄い燃費悪そうだけど。」

「そればかりは乗ってみなければわかりませんけど速度は出そうですよね。まぁ、自分はカストルで十分に満足していますが。」

「私もポルックスで十分だわ。」


 新しい機構というのはいつの時代も否定されるものである。


「とりあえず中に入りましょうか。冷えてきましたし。」

「そうね。」


 アズリトが小さいくしゃみをしたためアインはその機体を見るのを辞めて基地の中にもどった。



「本日より親衛隊に配属となりました、ヴィエント・バラノフ少佐であります!」


 ロマンの集合というのはこれかと、アインは新しいパイロットを見る。

 茶色を少し濃くしたような色の髪を肩より少し下に伸ばしたスレンダーな女性将校であった。だがそれ以上に名前で驚く。


「名前から分かる通り少佐は司令のご令嬢だ。それと今回少佐が乗っていた新型機、ドライエントであるが世界初の可変型キャスターだ。」


 そういいながらロマンはそのままドライエントのスペック、そしてそのために隊列を変えるという話を続ける。

 しかしアインの心を占めていたのは別のものだった。


(何故、こちらの方を見ているんだ……。)


 先程からヴィエントの茶色い瞳からどうにも視線を感じ、居心地が悪かった。流石に自分の勘違いだろうと最初は思っていた。だがアズリトもその様子に気付いてかアインには分かる程度にそわそわしていた。


「というわけだ。ダール少尉、聞いていたか。」

「もちろんであります!」

「よし。ならば言ってみろ。」

「ヴィエント・バラノフ少佐、乗機は連邦初めての可変機であるドライエントです。そして少佐の着任とともに分隊の構成の変更しますがこれは一時的なものです。理由としては少佐が一年後には離隊するからであります。」


 ロマンはアインが話を聞いていないと思い質問したのだが、しっかり答えたため聞いていないように見えたことに特に意見することはしなかった。


「ではアース少尉、少佐の案内を頼む。」


 アズリトが分かりましたと言ってヴィエントを案内しようとしたときである。


「大佐。私は彼に案内してももらいたいのですが。」


 彼女はアインを指名した。

 そしてその言葉に反応したのはロマンでも、ましてやアインでもなくアズリトだった。


「お言葉ですが、少佐。私では何か不満が?」


 表面上は百点満点の笑顔だったがアインはその笑顔に恐怖を隠せなかった。


「いえ、そういうわけではないのだけれど。私としてはあなたよりも彼の方がいいと希望を述べたまでですよ。」


 だがそれに淡々とヴィエントは返す。

 そしてロマンも相手が直属の上官の娘であるので強く言うことどころか反論すら許されない状況であるためアズリトのセリフを聞こえないとばかりに頭を振る。


「では、ダール少尉。少佐の案内を頼む。」

「え? あ、はい。」


 この状況に押されていたアインは上官からの命令は断れないのでそう返事をした。

 そしてアズリトからの視線が怖すぎてアインは恐る恐るといった感じで前に出る。


「では少佐、こちらの方へ。」

「えぇ。お願いするわ。」


 そういって二人は室内から出ていく。その様子をアズリトはまるで番犬のように呻りながら見ていた。



「どうして自分なのですか?」


 アインは先程のことを思い出しながら、ニコニコしているヴィエントに尋ねる。


「そうね。なんとなく興味があったから?」


(興味ってなににたいしてなんだろう……。)


 そう思いながらもとりあえず歩く。


(というか待て。このポジション、下手をすると、エミリアに対してのアルバートと同じなのでは?)


 そう考えると体を一瞬だけ震わせる。

 このときになってアインは初めてアルバートの気持ちが分かる。


 昔アルバートにふときいたことを思い出す。


《お前、その馬鹿っぽさは演技だろ。》

《確かに最初は少し芝居も入っていたけど、段々とこれがデフォルトになっていって、最近自分でも自分がどういう性格だったか分からなくなってきた。ただエミリアといるときはこの性格のが楽なんだよなぁ。》


 今ならその気持ちが痛いほどわかった。確かにこの隣にたつプレッシャーは凄まじいものだ。それがエミリアのように伯爵の令嬢ならまだしも、辺境伯の娘であればそのプレッシャーは更なるものだと感じた。

 このときのアインはエミリアが辺境伯の令嬢だということを知らないため、そこは勘違いしていた。


「その興味ってなんですか?」


 頭の中で色々と悪い予想を立てながらも話を続ける。


「そうね。強いて言うならば大佐があなたを親衛隊に推薦したからといったところかしら。そういえばあなたたちは知らないんでしょうけど最初大佐に渡された親衛隊候補者リストにはあちこちの精鋭パイロットとかもいたのよ。私も含め結構な人数がそれを疑問に思ったものよ。だけどそれに対する大佐の意見はこれが最善だと自分は思っていますって言い切っていたから。」


 それを聞いてアインは少し驚きを隠せなかった。


「だから少し話をしてみたかったのよ。」

「そうですか。」

「それに面白いことも分かったし。」


 面白いことって何なんだろうとアインは思いながらも歩みを進めた。

 ヴィエントは急にアインの手を握った。


「どうされたんですか?」


 アインは若干驚くものの冷静さは崩さない。なんとなくエミリアと同じ匂いがしたので下手に会話の主導権を握らせない方がいいと判断したからであった。


「特に反応はしないのね。」

「スパイやっていたころにまぁ色々とあったので。」

「じゃあ彼女とかいたの?」

「いえ、自分には必要なかったので作る気もありませんね。」


 アインの答えにヴィエントは笑い出す。そしてひとしきり笑った後ヴィエントはアインに更に身を寄せほぼ腕に抱き着くようになる。


「で、少尉さん。君はどこに案内してくれるのかな。」

「とりあえずは少佐の部屋からですね。」


 アインは彼女の部屋に案内をしようと歩き出した時だった。基地内に警報が鳴り響く。


「敵襲?」


アインがそう言って振り返ると、二人を遠くから見張っていたアズリトが同じように緊張感を体に張り巡らせていた。

次の投稿は土曜日の22時半ごろの予定です。

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