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第七十一話 アルバート・デグレア捕獲作戦(3)

「アル。」


 エミリアは一人で戦っているアルベルトの乗る機体に相対していた。作戦は何度もシミュレーションを重ねて練り直したもので穴は無かった。


 それでも作戦に失敗するかもしれないという緊張感があった。しかしそんなことを今更考えても仕方ないと彼女は決心を決めると顔を上げる。


「全機、作戦開始!」


 彼女の号令と共にアルバートの乗るアレースが進む。

 互いに距離を詰めるとエネルギーサーベルを引き抜き剣を交える。ただアルベルトのその攻撃は明らかに手心を加えるような少し躊躇いがある攻撃であった。ただそうは言っても並のパイロットよりもかなり厳しい攻撃ではあったが。


 それをアルバートは簡単にいなしていた。それが以前までと違うことであった。ただアルバートも下手にアルベルトに危害を加えないように慎重な攻撃をしていた。しかしアルバートのパイロットしての腕が上がったのと対策をかなりやったお陰か戦況は彼にとって有利な状態となっていた。


 その状態を察してか、アルベルトの乗る紅色の機体であるイポスは機体を強引に前に出す仕草を見せる。その様子を見せるとすぐに下がり撤退することが多いことを幼年学校の訓練でエミリアは知っていた。


「逃がすわけにはいかない。」


 エミリアはアルベルトが逃げそうな進路を予想して、彼の機体に当てないようにアレースの右腕のライフルで制圧射撃する。同時に周囲の敵が接近しないようにエマソンが威嚇射撃を行っていた。

 ここまでは出来て当たり前のことだった。彼女にとって本当に大切なのはこの後のアルベルトの行動であった。


「アルならばここまで追い込んだら正面突破をしようとする。」


 それは彼女が今までアルベルトと共に過ごした日々から想定した行動だった。


 だから彼がアルバートを突破しようとするのは分かっていた。

 そこは作戦通り彼の乗る機体が下がり、代わりにエミリアの乗るアレースが前進し、ポジションを入れ替える。

 普段はあまりしない近接格闘戦もエミリアは辞さなかった。


「なんとしても捕まえる。」


 アレースに搭載されていたエネルギーサーベルを引き抜くと一気に切りかかる。それに対してアルベルトの乗るイポスもエネルギーサーベルを引き抜くと二機は切り結ぶ。


 完全な一対一の戦いであった。



「不味いな。思ったよりも進攻が進んでいない。」


 第七艦隊の旗艦である戦艦ジェルジンスキーの艦橋でユリアは戦闘の状況を見てそう判断をした。当初の予定では既にイレスコ基地のキャスター部隊の三割ほどを撃墜している予定であった。しかし実際には完全に膠着状態となっていた。


 その原因の一つがアルベルトが思ったより戦果を出していないことだった。


「エミリア・アークウィンがいるから一筋縄ではいかないと思っていたが……。」


 しかしそれにしては対応が悪すぎると感じる。


「だとしたら機体の問題か。だがイオクは上手いことやっているが……。」


 それだけが気になることではあった。

 だがどのみち今の彼女が出来ることは一つだけであった。


「艦長、艦隊の指揮は頼めるか?」

「出撃されるのですか?」

「あぁ。部隊の指揮は参謀部に任せる。」

「分かりました。」


 ユリアは参謀将校が敬礼するのを確認すると艦橋から出る。


 扉が閉まったら悪口が始まっているのだろうなとユリアは思いながらも格納庫に急ぐ。

 なんとしても作戦は成功させ続けなければならない。それが彼女が部隊をまとめるために出した結論であった。



「反応速度が試験のときと全く違う!」


 目の前のエミリアの機体から放たれる斬撃をアルベルトの乗るイポスはギリギリで回避する。しかしそれはいつものように狙って行っていることではなく、本当にギリギリで回避する他無かった。


「なにが天使シリーズと渡り合える高性能機だ……。オレロスの方が信頼性が高いぞ。」


 悪魔シリーズという不良品を押し付けてきたアリード・アガニコフへの恨み言を言う。

 しかし実際のところは不良品でなく正常な動作であった。アガニコフがアルベルトを排除するために、強制的に彼の機体であるイポスの反応速度のみ落とさせていたことを知る由もなかった。


「しかもエミリアのこの強さ……。」


 明らかに普段と気迫が違うと感じる。

 ただエミリアが相手の以上、彼女の機体に傷をつけるわけにはいかない。その制約がアルベルトを更に劣勢へと追いやる。


「それによくよく考えたら近接格闘戦はエミリアに教わったんだったか。」


 ふと幼年学校でまだ成績が学年で最下位だったときのことを思い出す。あのときは良かったと思う。今と違ってエミリアが隣にいて、彼女の隣に立ちたいと頑張っていた。

 それが今では真意は別としてこうして彼女の敵として立ちはだかる事になっている。



「だからといってこの戦争、今ここで辞めるわけにはいかない。」


 それが彼の決意であった。例えもう二度とエミリアと会うことができないとしても負けるわけにはいかなかった。

 そうすれば全て意味が無くなるのだと。彼女自身を守るためにも進む以外に方法はないのだと。


 しかしこの劣勢を覆す手段は思いつかないまま彼は戦い続ける他無かった。


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