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#14. Since when did you misunderstand?(いったい、いつから。勘違いをしてたんだ?)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「ニ˝ャ、二˝ャャャ! よくぞ、この吾輩の居場所がわかったな!」


 野良猫を隠れ蓑にしていた、極小の悪魔が高笑いをする。沈みかけている夕陽が、余裕のない悪魔を顔を照らしていた。


「だ、だが! お前たちの反撃もこれまでだ。その小娘を素直に渡せ。それなら、お前たちだけは生かしておいてやる!」


 ジンタ君の摘まみ上げた野良猫。


 その猫の耳にしがみつきながら、悪魔は必死に威厳を保とうとする。野良猫にとっては、騒ぐ悪魔が煩わしいのか。ノミでも払うように体を震わせる。


「ニ˝ヤァツ!? こら、暴れるな!? 吾輩が落ちてしまうだろうが! これまで、お前のエサ取りの手伝いをしてやった恩を忘れたか!?」


 ぷんすか、ぷんすか。

 わずか数センチほどしかない悪魔は、野良猫に向かって喧嘩をしている。そんな彼らを、私たちは呆れたように見ていた。


「……自動で攻撃してくる悪魔は、本体が弱いって言っていたけど。まさか、こんなに小さな悪魔がいたなんて」


「はっはっは、俺もビックリしたぜ」


 ジンタ君が愉快そうに笑う。

 その様子では、わかっていないのか? それとも、わかっていて笑っているのか?


 この悪魔は、……アンジェちゃんだけを狙っていたんだぞ? 

 私やジンタ君は眼中にない。明確な目的をもって、アンジェちゃんを襲っていた。その意味がわかっているのか?


 ……悪魔は、自分の快楽でしか行動しない。

 つまり、この悪魔にとって。アンジェちゃんは『特別』ということだ。


「(……いや、もしかしたら。この極小の悪魔だけじゃなくて)」


 私は振り返って、アンジェちゃんのことを見る。


 自分のことを、不幸を巻き散らすと信じて疑わない少女。

 だが、『不幸体質』と呼ぶには、あまりにも呼び寄せる事象が悪意に満ちていた。そして最後には、悪魔の襲撃だ。こんなこと偶然であるわけがない。


 ……アンジェちゃんには、何かある。


 蜂蜜色の髪が、夕陽に照らされて。

 夜空の月が、わずかに彼女の暗い横顔を映そうとする。


 ……月?

 ……あぁ。もう夜に―


「しまった、この悪魔!?」


 私は慌てて、ジンタ君が摘まんでいる野良猫を見る。

 その猫の耳にしがみついている悪魔は、いまだに猫に向かって文句を言っていた。微笑ましい場面のように、悪魔が無駄な抵抗と続けている。しかし―


 なんてことだ。

 いつから私は、戦いが・・・終わっている・・・・・・と思い込んでいた!?


「ジンタ君! その悪魔から離れて!」


 私は叫びながら、銃弾の入った『デリンジャー』を構える。そして、次の瞬間―


 悪魔が。

 にやり、と笑った。


「……吾輩の、勝ちだ」


 夕陽が沈み。首都の街が、夜の暗闇に包まれる。


 そして、瞬きをした後には。

 数えきれないほどの悪魔の影絵に、周囲を取り囲まれていた。


 2メートル近い背丈に、紙切れのような体格。そして、手や足は、おかしなところから生えていて、首があるべき部分には、逆さまの顔が浮かんでいた。無機質な動きをして、姿を消したり、現れたりしながら。私と、アンジェちゃんへと狙いをつけていく。


「……ニャババ。この野良猫が捕まった時は肝を冷やしたが、夜になってしまえばこちらのもの。人間たちよ、覚悟するといいい。吾輩の能力は『悪魔卿ロード』にも匹敵するぞ」


 悪魔の影絵たちが、無機質に動き出す。


 くそっ、本体が目の前にいるというのに。

 私が引き金を引けば、それを合図に襲い掛かってくるだろう。良くて相打ち。悪ければ犬死だ。それだけは避けなくてはいけない。……この私の、ナタリア・ヴィントレスの命だけは、誰にも触れさせるわけにはいかない!


「ニャババ。形勢逆転だな、人間たちよ。大人しく、その小娘をこちらに渡して、……ぬっ!?」


 極小の悪魔が、戸惑いの声を上げた。野良猫が地面へと着地した。悪魔がしがみついていた猫を、ジンタが手放したのだ。


 そして、何の迷うこともなく。

 ゆっくりとした足取りで、アンジェちゃんの隣に立った。


「……何の真似だ、小僧?」


「見ての通りだ。俺は、守りたい大切なもののために戦う。それだけさ」


 彼の手が、少女へと差し出される。

 その手を。

 アンジェちゃんは、恐る恐る掴んだ。


「……ジンタ」


「大丈夫だ、アンジェ。何の心配もいらない。……言っただろう。俺が証明してやるんだ。お前がここにいてもいい理由を。お前が生きていてもいい理由を。俺が、証明してみせる」


 少年は少女の手を握り。

 迷いのない真っすぐな目で、彼女を見た。その彼女の手は、人間のものとは思えないほど美しかった。


「……なぁ、小さな悪魔さんよぉ。あんたは」


 にやり、とジンタが笑う。

 それは勝利を確信した笑みだった。


「いったい、いつから。……夜になれば自分のほうが有利だと、勘違いをしてたんだ?」



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― 新着の感想 ―
[良い点] かませノミ臭が凄いなこの悪魔www
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