#11. Wit observation(意外にも機転が利くんすよ)
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「よし、ここから反撃といこうぜ!」
「うん! ジンタ、頑張って!」
「……いやいや。あんたら二人とも、戦闘できないんでしょ? いいから後ろに下がっていなさいよ」
拳に手を当てているジンタ君と、それを無邪気に応援するアンジェちゃん。戦う気満々の二人を見て、私は呆れるように両肩を落とす。
先ほど、まるでヒーローのようにアンジェちゃんを救ったジンタ君であったが。その正体は、何の能力も持っていない一般人だったとは。
……いや~。私が出会う人間は、素手で悪魔を殴り飛ばしたり、爆炎の魔法で黒焦げにする人ばっかりだったから。何の能力も持っていない人は、逆に新鮮だなぁ。
「てか、マジで? 本当に何の能力もないの?」
「そうっすよ。魔法も使えなければ、特別な異能の力も持っていない。まったくもって健全な一般男子っす」
何も悪びれることなく、ジンタ君は腰に両手を当てて笑った。
「え、ちょっ、待って。……アンジェちゃん? 確か、ジンタ君がいれば何とかなるって、言ってなかったっけ?」
心なしか、肩身が小さくなってる蜂蜜色の美少女を見ると。彼女は、しゅんと肩を落とした。
「ごめんなさい。ジンタはね、本当に何もできない普通の男の子なの」
「……マジか」
頭の中で立てていた計画のほとんどが、音もなく崩れた。
「で、でもね! ジンタがいれば何とかしてくれる。そんな気がするんです! 実際、これまでだって何度も、わたしを助けてくれて―」
「わ、わかったから。そんなに力説しなくてもいいよ」
いくら彼のことが好きだからって、気休めみたいな言葉はいらないよ。現状が良くなるわけでもないしね。
……わかった。一度、状況を整理しよう。
夕方。市街地の広場。
遮蔽物はなく見晴らしも良い。夕陽を遮るものもない。
影の中から襲ってきた影絵のような悪魔。なぜか、あれから襲ってくる様子はないが、退いたわけでもないだろう。どこからか私たちを狙っているはずだ。
私の武装は『デリンジャー』だけ。
しかし、悪魔には一撃必殺であるはずの銀の銃弾。あれが効かないのでは、有効な攻撃方法は無いに等しい。
あとは頼りにしたいのが、この二人だけど。
アンジェちゃんは戦えるタイプではないのは明らかだし、ジンタ君は気合いだけで何の能力もない。
「(……あれ? もう詰んでね?)」
思わず溜息をつきたくなる状況に、私は慌てて頭を振る。
考えろ。考えろ。
選択肢は常に残されているはずだ。それを導き出せるのかは、自分自身に掛かっている。
「……せめて、ジンタ君がもうちょっと使える男だったら」
「いやいや、ナタリア師匠! 俺だって、ちゃんと役に立ちますって。親が放任主義だったから、料理だってできるし。掃除や洗濯だって―」
「家政婦かよ!?」
「あと、追い込まれてから本気を発揮するタイプなんで! テストは一夜漬けが基本。前日までゴロゴロと英気を養ってから、一気に追い込むのが、俺の流儀っす」
「知らねーよ!」
「あと、意外にも機転が利くんですよ。そう例えば―」
ジンタ君は目を細めて、夕暮れの広場を睨む。
わずかに背筋がピリつくほど、真剣な目だった。
彼が纏っている空気、……明らかに変わっていた。
「……さっきの悪魔。たぶん、あれは本体じゃない。あの影は悪魔の攻撃の一部なんだ。本体は別のところにいる。だから攻撃しても倒せなかったんだ」
確信しているかように、ジンタ君ははっきりと言い切った。