表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/205

#9. JINTA(このジンタ様が助けに来てやったぜ、迷子のお姫様!)


「それで!? そのジンタ君は頼りになるの!?」


「はい! すごく頼りになります。ジンタがいてくれるだけで、わたしも勇気をもらえるみたいで」


「はいはい、ごちろうさま。ノロケはもういいから。……で、そのジンタ君と合流とかできないの?」


 アンジェちゃんが頼りにしている人なら、もしかしたらこの状況を打開できるかもしれない。この国には、魔法の才能を持つ人間も少なくない。アンジェちゃんを安全な場所まで逃がすことができたら、まだ打つ手はある。


 そこまで思考を巡らせていたが、彼女からの返答は芳しくはなかった。


「……わかりません。ジンタがどこにいるのか、わたしも知りません。今日だって、陽が暮れるまでには帰るつもりだったし」


「そっか」


 私は顔に出さないように落胆する。

 都合よく、アンジェちゃんを探しに来た彼と合流できるかもしれない、と思っていたけど。さすがに虫が良すぎるか。


「とにかく、走ろう! また追い付かれちゃう!」


「は、はい!」


 私はアンジェちゃんの手を引っ張って、住宅街の石畳を駆け抜ける。


 時々、通行人とすれ違うけど、悪魔は標的を変える様子はなく。絶えず、こちらを狙って追いかけてくる。


「(……他の人間には興味がないのか? それとも、これがアンジェちゃんの言っていた『不幸体質』の影響なのか?)」


 悪魔が人を襲う理由は、快楽を得るためである。

 だが、無差別に襲うのではなく、私たちを執拗に追いかけているとなると。その理由は、まだわかりそうにない。


「広場だ! アンジェちゃん、あそこまで走ろう!」


「はぁはぁ、……はい」


 小柄な彼女が肩で息をしながら、苦しそうに答える。

 見かけ通りに体力がないのか。額には汗を滲ませて、足取りもどんどんおぼつかなくなっていく。


 そして、広場の入り口に入ろうとした。

 その時―


「あっ―」


 彼女の、小さな悲鳴が聞こえた。

 足をもつらせて、前のめりに倒れていく。


 握っていたはずの手が離れて、私の背後で彼女が地面に倒れる。


 そのすぐ後ろには。

 影絵の悪魔が、その不気味な両腕を振り上げていた。


「アンジェちゃん!?」


 まずい!

 間に合わないか!?


 私は思考を巡らせながら、彼女の元へと飛び出した。

 効果がないとわかっていても、『デリンジャー』を構えて。その悪魔の片腕を撃ち抜く。


 だが、先ほどと同じように実体がないように通り過ぎていった。


 そして、その無機質な凶器が。

 倒れている蜂蜜色の少女へと振り下ろされた。


「ッ!?」


 私は、表情を険しくさせた。


 ……だが、それは一瞬だけのことだった。

 視界の端で。

 誰かが飛び込んでくるのが見えて。


 少年の声が聞こえた。

 それは、とても必死で。それでいて何故か安心されてくれるような声だった。


「手を伸ばせ、アンジェ!」


「っ! じん―」


 その人物は、間一髪のところで少女を抱えると。

 颯爽と彼女を救ってみせたのだ。


「あぶねーっ! ギリギリセーフだったぜ! 銃声が聞こえたから、もしかしてとは思ったけど―」


 見たことのない少年だった。


 短い黒髪に、ちょっと痩せ型の体格。

 どこにでもいるような普通の顔立ちに、どこにでもいるような普通の雰囲気。あえて特徴を挙げるなら、ちょっと頼りなさそうな印象のモヤシっ子。なんというか気持ちとノリだけで壁にぶつかって、気合と根性だけで強敵を倒してしまうような。だけど、胸に秘めた想いだけは誰にも負けない。そんな、どこにでもいるような少年が。


 ……私の大好きなアンジェちゃんを、お姫様抱っこしていたのだ。


「大丈夫か、アンジェ?」


「じ、ジンタ? じんたぁ~」


 ぎゅっ、とアンジェちゃんが震える手で彼を抱きしめる。恐怖で今にも心が折れそうだったのだろう。涙をにじませながら、彼の腕の中で安堵の微笑みを浮かべる。


「おうよ。このジンタ様が助けに来てやったぜ、迷子のお姫様!」


 少年もどこか得意げな表情で、彼女に笑いかける。

 そんな二人を見て、私は―


「(……あぁ、爆死しろ。私のアンジェちゃんを奪うリア充なんて、爆死すればいいのに)」


 カタッ、と手に持っている銃が揺れる。

 一発なら誤射かもしれない。あいつの頭を吹き飛ばしてしまえば、アンジェちゃんは私のものになるだろう。やっちまうか。……やっちまおうか。という感情の臨界点を、私に残されたわずかばかりの理性が押し留める。これでキスでもしようものなら、容赦なくブッ飛ばしていただろう。


 目が血走り、殺意が込み上げてくる。


 ぶつぶつと呪怨のような独り言を漏らして、すぐに離れろよという視線を向ける。震える手が、いつでも彼に銃口を向けられるように震えている。


 それは、見ているものを全てを悲しくさせる。


 あまりにも哀れな、嫉妬の末路であった―



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お姫様を助けに来た王子様に嫉妬で銃口を向けようとするナタリアさん。残念度が加算されていく。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ