#2. NEW my name is …(新しい人生、新しい名前…)
「(……あー、これはヤバいやつだ)」
私は、なるべく懇切丁寧に、昨夜のことを説明する。
こんなときに力説しても仕方ない。
悪魔がいたんです! 本当です、信じてください! なんて必死に訴えても、信ぴょう性が薄くなっていくだけ。
なので、私は。
推測と私見を織り交ぜて、時系列ごとに順序良く説明していく。
そもそも、あれが本当に悪魔だったのか、今ではわかりようもない。ただ、確かなことは。喫茶店が爆発した後に、あの悪魔のような男が襲ってきたこと。
そして、そんな怪物を。
通りすがりの男子高校生がブチのめしてしまったこと。
何度目になるかわからない説明を繰り返してみて、ようやく主任は納得したのか。なにか考えるように思案顔になる。
「そもそも、主任は知っていたんですか? あんな悪魔、……いえ、正体不明の怪物のような存在がいることを」
「いや、こちらにも報告はない。上とも照合してみるが、たぶん無駄だろうな。……だが」
主任は黙ったまま、こちらを見て。
少しだけ声を小さくして語りだす。
「……未確認の情報だが。ここ最近で、似たような事件・事故が多発しているらしい」
「似たような事件って、喫茶店の爆発のことですか?」
「違う、そっちじゃない。『悪魔による仕業』という事だ」
「なん、ですって?」
私は驚きのあまり、ぽかんと口が開きっぱなしになってしまう。
それが本当ならば。あんな悪魔のような存在が、この街に何体も潜んでいることになる。
「詳しくはわからないが、情報の締め付けが相当に厳しいようで。東側陣営の情報部も、確かなことは何もわかっていないらしい」
「……この首都で、何が起きているんですか?」
「わからんさ。だが、貴様の報告にあった、男子高校生が気になるな。貴様の妄言でなければ、その悪魔を一撃で瞬殺してしまったのだろう?」
その意地悪な問いに、私は黙って頷く。
「ならば、調べてみる価値はあるということだ。……三日後に退院だ。それまでに支度を済ませておけよ」
「支度? 何のですか?」
首都の学校でも張り込みするのだろうか?
呑気にそんなのことを考えていると、主任はやれやれと呆れたような態度をとる。
「学生を調べるんだ。だったら、こちらも学校に潜入するのが一番だろう。そんなこともわからんのか?」
「はぁ」
いまいち話が見えない。
わからないというように首を傾げると、主任は黙ったまま。この部屋に来た時から持っていた紙袋を、私に放り投げる。
「これは?」
「制服だよ。ボロボロだったから新調してやったんだ」
主任はスーツの内ポケットから煙草を取り出して、火をつける。
そんな上司を視界の端に見ながら、紙袋に入っていたそれを取り出して。
……思考が、凍りついた。
「まっ、そういうことだ。その中には、これまで『お前』が通学していた首都の学園の資料と、お前自身の個人情報をまとめた書類が入っている」
ちゃんと目を通しておけ、と言いながら。
彼女はトドメの一撃と言わんばかりに、ポケットから学生証を取り出す。
「それじゃ、しっかり頑張ってくれよ。……ノイシュタン学院、普通科の二年生。ナタリア・ヴィントレスちゃん」
ぽんっ、と気軽に投げだされた学生証には、見覚えのある銀髪の美少女の顔写真が貼られていて。鏡を見れば、その顔と同じものが映っている。
そして、私が握りしめているものは。
ノイシュタン学院の女子生徒の制服だったー