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『裏切者のLOST‐No.(ロスト・ナンバーズ)』 ~ナタリア・ヴィントレスは、今日も逃げ出したい~  作者: てばさきつよし
Chapter10:Gambling Load(ギャンブル。それは人生と書いて過ちを読むどうしようもない奴ら)
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♯8. Gambling is not a vice, it is an expression of our humanness.


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「おいおいおい、どういうことか説明してくれるんでしょーね!? この糞バカトラ!」


 どかん、と選手控え場所で。

 壁を蹴りながら問いつける私に、カゲトラは退屈そうに耳をほじっていた。


「説明も何も。俺は、ウチの大将の指示で、ここに仕事に来ただけだぜ?」


「アーサー会長の!? どういうこと!?」


「さぁな。俺もよく知らね。なんかウチの生徒が、ここの地下賭博に関係しているから、調べてこいってさ」


「調べてこいって。それがどうして、地下闘技場に参加して、あまつさえチャンピオンを一撃でブチのめすことに繋がるわけ!?」


「落ち着けよ。お前の声は、頭に響くんだから」


 両手で耳を塞いでいるカゲトラが、ウンザリとした顔でこちらを見下ろす。


 くそっ、これは厄介なことになってしまった。

 この仕事を無事に終わらせないと、私の借金も返済できないというのに。


 目玉のチャンピオンが開始5秒で瞬殺されて、賭博の元締めである極道ファミリーの幹部、ゲンブも泡を噴いて倒れてしまった。今や観客たちにも動揺が広がっていて、このまま帰ってしまいそうな雰囲気だ。


「そもそも。お前は、なんでここにいたんだ?」


「ば、バイトよ! あんたには関係ないでしょ! それよりも、どうしてくれるの。この空気」


「さぁな。俺には関係ねぇ」


 もはや興味をなくしたように、こいつも帰りたさそうな態度だ。


 そんなことはさせない。私だけが不幸になるなんて、そんなの許せない。こうなったら、こいつも地獄まで道連れにしてやる。


 ぐぬぬ、と目の前の男を不幸にさせることに一生懸命になっていると、一人の男が近づいてきた。極道マフィアの一員。ダンディーなアフロだ。彼は深刻そうな表情で、私たちに小声で話し出す。


「……困りやしたね。ウチの看板選手を病院送りにしちまって、オジキまでショックで寝込んじまいやした。このままでは、今回の興行は大失敗。ウチらは破産。ファミリーの組員全員が路頭に迷っちまいます」


 全部、こいつの責任です。

 そう言わんばかりに、私は腕組をしてカゲトラを睨む。


「まぁ、ウチに借金をしている嬢ちゃんも、タダでは済みやせんがね。魚の餌になる覚悟くらいは、しておいたほうがよろしいかと」


「は、はぁ!? ちょっ、全部。こいつが悪いんですけど!?」


「もちろん、そちらの方にも責任を取ってもらいやす。……が、お見受けしたところ。そちらのダンナは、かなり腕が立つようで。よろしければ、相談に乗ってくれやしませんかね?」


「相談? なんのことだ?」


 極道マフィアが相手であっても、カゲトラの態度は変わらない。私は心の中で「頼むから、これ以上の問題は起こさないでくれ」と思いながらも、アフロのダンディーが話す相談事とやらに耳を傾ける。


「このままでは、せっかくお出でいただいたお客さん方が帰っちまいます。今回の件が噂となって広まるのも時間の問題。ウチらは、カジノなどの賭場だけでなく、公共事業にも手広くやらせていただいてますからね。その影響は計り知れないでしょう」


 そこで、とアフロのダンディが続ける。


「ダンナの腕を見込んで、あっしに頭を下げさせてくだせぇ。倒れちまったチャンピオンの代わりに、残っている挑戦者たちと戦ってもらいたいんでさぁ。……幸か不幸か、ダンナが初戦だったために、腕利きに挑戦者は列を成して待っていますから」


 その話を聞いて、私は納得する。


 あー、なるほど。

 本来はチャンピオンが次々と挑戦者を倒していく筋書きだったのを、今後はこのカゲトラが挑戦者たちとリングで戦っていくということか。

 それなら、賭場も成立するし、なんだったら新しく賭博レートも開かれて―


「あ」


 ……それだ。

 ……その手があったか!?


 私は、自分の中で思いついた名案に最大の称賛を贈りたい。この方法だったら、この場の混乱も治められるし、なりより。私の借金を全額返却できるかもしれないじゃないか! 


 全てを解決できる、たったひとつの冴えた方法。あとは、このバカをリングに上げるだけ。


「いや、俺は別に見世物になるつもりは―」


「やります! こいつにやらせてください!」


 カゲトラが渋るのを遮って、私はアフロのダンディーに詰め寄る。


「全て、こいつの責任なんですから、てめぇのケツを拭くのは当然ですもんね。……おらっ、カゲトラ! さっさとリングに上がりなさい!」


「はぁ!? なんで、お前の指図を受けなくちゃいけねぇんだよ。そもそも、お前。何か企んで―」


「いいから、行けっての!」


 げしげし、とカゲトラの尻を蹴り飛ばして、地下闘技場のリングへと向かわせる。面倒そうに振り返る奴に中指を立てて、今度はダンディなアフロに最高の営業スマイルを向ける。


「これで、問題解決ですねぇ~。よかった、よかった」


「あ、あぁ。そうですね。……ところで、お伺いさせてもらいやすが、あの腕の立つダンナとはご知り合いで?」


「まぁね。同じ学園の仲間って、とこですね。でも、そんなことより」


 にやり、と私は腹の中を真っ黒にさせながら、計算しつくされた笑みを浮かべる。


「賭博の元締めって、誰ですか? 賭けの内容が変わっちゃんたんだから、今から賭博に参加するのは問題ないですよね♪」





※脚注

・ Gambling is not a vice, it is an expression of our humanness.(ギャンブルってのは、悪いことじゃない。人間らしさの塊なのさ)

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― 新着の感想 ―
[良い点] こいつ全然こりてないぞw
[一言] カゲトラがメインは初かな。 ナタリアさん、それ以上はダメです(手遅れだとわかりつつも)。
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