# 13. Dinner is Pork Saute(夕食は、豚肉料理でしたよ?)
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がさごそ、がさごそ。
ミーシャ先輩が屋敷から出てきたところを見計らって、私は植木から飛び出した。
ガウガウガウ、と動物のような呻き声を出して、先輩に噛みつこうとする。だって、ありえないでしょ! 普通、二階の窓から突き落とすバカがいますか!?
「はいはい、どうどう」
そんな私を、ミーシャ先輩は片手で抑えつつ。屋敷内に置いていったヴァイオリンケースを手渡す。
庭園のほうも、もう片付いていたみたいで。ショットガンを肩にかけて噴水に座っているペペが、嬉しそうに手を振っていた。
「レンタカーが潰れちまったから、帰りは列車ですかね?」
それからホテルまで歩いて帰って、時刻表を確認。
帰りの電車まで、まだ時間があるとこだったので、私とミーシャ先輩は一度、ホテルに帰ってシャワーを浴びる。そのままお土産屋さんを回ってから、ペペが買ってくれた切符を手に、列車に乗り込む。
屋敷の騒動のことは、ペペがアーサー会長に連絡してくれたみたいで。私たちが列車に乗り込むころには、騒がしいサイレンを鳴らしたパトカーが何台も屋敷のほうへと向かっていた。私は、その様子を他人事のように見ていた。
列車に乗り、がたん、ごとん、と揺れ出す。
行きの時は、列車酔いをしてしまったけど。昨日からの疲労もあったのか、すぐに眠気がやってきたー
「結局、あの手紙は誰が出したんでしょうね?」
「さぁね。結局、わからなかったんでしょう?」
ミーシャが外の景色を見ながら答える。
アーサー会長が調べさせた報告書には、依頼人のポストに手紙を投函した人物はいなかったらしい。郵便局員も関わっていないし、近所からの目撃情報も皆無だ。これに関しては、迷宮入りと言ってしまうのが妥当だろう。
「もしかしたら、石像に閉じ込められている少女たちが、助けを呼ぶために奇跡を起こしたのかもね。手紙にも書いてあったでしょ?……『私たち』を救ってくださいって」
私たち、とは。
リーゼロッテ・ブインの家族のことではなく。殺害されてから、それでも見世物にされている少女たちのことだったのではないか。彼女たちの悲痛な叫びが、首都にまで届いていたのかもしれない。そんなことを、ミーシャが冗談めかして言った。
「なんか真相が見えないのが、逆にホラーみたいで怖いっすね」
「そう? 私は好きよ。だって、何でもかんでも解明されたら、とてもつまらないじゃない」
ミーシャが愉快そうに肩を揺らす。
そんな彼女を見て、ペペが意外そうな顔をした。
「どうしたの?」
「いえ。姫がそんなふうに笑うなんて、珍しいなって。……そういや、最近。よく笑うようになりましたよね?」
「そ、そう?」
自分ではわからない、というように髪をくるくると指先で弄る。
「きっと、ナタリアちゃんのおかげですね。彼女の純粋さには、どこか救われるものがありますから」
「……そうね」
ミーシャは、自分の肩を勝手に枕にしている彼女を見る。
だらしなく涎を垂らしていて、完全に無防備だった。
「会長の言っていた通りですね。国や、人種なんて関係ない。必要であれば、人間はまたひとつになれる」
「ふん、綺麗事ね。あいつのそういうところが嫌いなのよ」
「またまた~、そんなこと言って。本当は大好きなくせに」
ペペは、ショットガンを隠すために買った野球バット入れを振り回しながら、ミーシャをからかう。
すると、意外にも。
ミーシャは反論するわけでもなく、その代わりに嫌味な笑みを浮かべる。
「そういや、ぺぺ。あんた、昼飯を駅前の食堂で食べたの?」
「え? そうですけど?」
「何を食べた?」
「豚肉料理です」
「ふーん。ご愁傷様」
「え? どういうことですか?」
ペペが困ったような顔になるのを待ってから、ミーシャは告げる。
「今回の件。行方不明になっていた少女たちの居場所はわかったけど。他の家族たちは、どこにいったと思う?」
「どういうこと、ですか?」
何となく嫌な予感がして、彼の額に汗が浮かぶ。
その姿を楽しみながら、ミーシャは言った。
「サンメール伯は、養豚場も経営していたそうよ。豚は何でも食べるらしいから。捨てるのに困った死体を処分するのに、うってつけの場所でしょ?」
その言葉の意味がわからず。
だが、わかる頃には。ペペは窓から頭を出して、せっかく食べた昼飯をダメにしていた。
『Chapter9:END』
~CGalatia(人形に、人の魂は宿るのか)~
→ to be next Number!
今回の話が重かったので、次回は軽く笑えるライトな感じでいこうと思います。