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#12. Guilty Judgement(貴公を極刑に処す。)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 断罪聖典、開廷。

 被告人、ドナヴァール・ドゥ・サンメール。

 罪状、殺人の疑い。


 一人目の被害者、キャロル・ブライズ。今から20年前。道端の花を摘む姿を見て、初めての殺人を起こす。誘拐事件として扱われて、その家族も不審な事故死を遂げる。警察当局が捜査するも、犯人に繋がる証拠は見つからず。未解決事件として捜査は打ち切られた。……有罪。


 二人目の被害者、パティ・リリック。歌が好きで、よく家の中で歌っていた。そんな彼女のことを、家族はとても大好きだった。ひとりで買い物に出たところを狙って誘拐。殺害後にエバーリング処理して、石像に封入する。その後、家族も行方不明。……有罪。


 三人目の被害者、デイジー・ケネット。パン屋を手伝っていた女の子。いつも、買いもの客に幸せそうな笑顔を向けていた。閉店後に店内にて衝動的に殺害。その後、経営悪化を理由に、家族は他の街へと転居とされている。……有罪。


 四人目の被害者、エリザベス・ホリー。この街に観光に来ていた女子学生。恋人との旅行だったが、レストランからホテルに向かう途中に行方不明となる。恋人は、遠い山奥にて右腕だけが見つかった。……有罪。


 五人目の被害者、ヘレン・ニクソン。発展途上国に旅行中にて声をかけて、そのまま養女として引き取る。翌日に殺害を決行。激しく抵抗したため、両腕と脚を切断。その後、エバーリング処理をして、体の破損を接着。石像へと封入する。……有罪。


 六人目の被害者、……リーゼロッテ・ブイン。芸術に興味があり、たびたびサンメール伯の私設美術館を訪れていた。その際、彼女たちの死体が押し込められてる彫像を見て、「私もこんな美人になりたい」と発言。その数年後、彫像と同じ年齢になった彼女を誘拐。家族全員をその場で処理して、計画的に外の街に引っ越したように偽装する。誘拐した彼女を、被告自身の手によって殺害して、エバーリングを施す。その後、六体目の彫像として保管するに至る。……有罪。


 判決を言い渡す。

 被告人、ドナヴァール・ドゥ・サンメール。

 ……貴公を、極刑に処す。



――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



 サンメール伯の持っている拳銃。

 そこから放たれた銃弾は、真っすぐと私の額へと突き進み。そして、魔法陣の境域に触れた瞬間。ありえない角度で事象が捻じ曲がり、銃弾が頬の外側へと飛んでいく。


 銃弾が、私を避けていった。


「っ!?」


 サンメール伯の顔が驚きのものに変わる。

 だが、それでは終わらない。そこまででは済まさない。わずかな動揺を挟んで、彼はようやく気がつく。


 私に向けて放たれた銃弾が、……自分の右足を貫いていることに。


「がっ!? な、何が起きた!?」


 傷口を認識したことにより、痛覚が追い付く。

 サンメール伯は、自分の足を庇うように血の染みができている傷口を押さえる。


 私は答えない。

 沈黙を保ったまま、彼の罪へと向き合っていく。淡い輝きが部屋に満ちて、神聖なる領域を展開していく。そうなって、ようやく。


 ……罪人は、私の背後の存在を知覚した。


「な、なんだ、それは魔法か!?」


 サンメール伯が驚きのあまり目を見開いている。

 その目が向く先は、私ではない。私の背後に立っている存在だ。麻のローブだけを身にまとった美しい女性。その美貌は、もはや人間のものではなかった。どんな絵画よりも、どんな彫刻よりも、そしてサンメール伯の執着したものよりも。その存在は美しかった。


 そんな彼女が持つのは、ひとつの秤。

 最初は水平に保たれていた天秤だったが。ひとつ、ふたつと罪状が増えるにつれて、秤の天秤が一方へと傾いていく。


「これが私の魔法『断罪聖典』。人の罪を暴き、人に罰を与える。法律なんて関係ない。これは、……神が与えるべき罰だ」


 私は、魔法の奔流で逆立つ髪をなびかせて、サンメール伯を追い詰める。


 一歩、踏み出すたびに。神聖な淡い輝きが増していく。

 そして、私の背中から広がる天使の翼が、少しずつ明確になっていき。髪の毛の先が、ちりちりと燃えるように色が変わっていく。


「判決は、言い渡された。お前は有罪だ」


「……く、くはは! 何を言っている。お前みたいな小娘が、この私を裁けるわけが―」


 そこまでだった。

 サンメール伯が手にした銃の引き金を絞る。


 そして、銃弾は放たれて私に当たることはなく。弾は逸れて、跳弾となり。まるで、狙いすまされたかのようにサンメール伯の肩を撃ち抜いた。


「がはっ!? ば、馬鹿な」


 二度、三度とサンメール伯は、私に向けて引き金を引く。

 もはや、外すことなどありえない距離。それでも銃弾は私に当たらず、不自然に捻じ曲げられた銃弾の軌道は、拳銃を持っているサンメール伯へと襲い掛かる。腹を、膝を、首筋を、もの言わぬ弾丸が襲い掛かる。


「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!?」


 銃声が鳴るたびに、サンメール伯の手傷は増えていき。

 私の後ろに立っている存在の天秤が、傾きを増していく。彼の罪状は、増えていくばかりであった。


「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁっ!?」


 体中が傷だらけになっているサンメール伯。

 それでも解せないという表情で、私に拳銃を向けていた。


 理解不能わからない

 認識拒否わかりたくない


 サンメール伯の顔には、相反する感情がありありと浮き出ていた。そして、その全てが。たったひとつの感情から生まれていることに気がつく。


 ……畏れ。

 自分より遥かに尊い存在に、神聖な現象に、淡い輝きを放つ天使を前にして。彼は、とうとう。……理性を捨てた。人間であることを放棄したのだ。


「この、小娘がぁ!? 貴様に、何がわかるというのだぁ!?」


 瞳に宿る、ドス黒い感情。

 人間だけが有していて、人間だけが理性を持って振りかざす狂気。それは殺意。サンメール伯は確かな殺意を持って、私に向けて引き金を引いた。


 そして、全てが終わった。


 パキンッ、とサンメール伯の持つ拳銃が、金属疲労を引き起こしたかのように折れ曲がっていた。銃身は折れ曲がり、薬室は解放されたまま、銃弾は不自然な形で収まっている。そこに撃鉄が振り下ろされて、銃弾は。弾かれるように、銃を持っているはずのサンメール伯へと目掛けて飛んでいく。


「……そんな、なん」


 額を貫かれて、脳をぐちゃぐちゃにかき混ぜられて。

 罪人は、最後の言葉を零す。

 銃弾は貫通していなかった。その代わりに、額の銃創からは、血液と一緒に液状になったものが零れていく。


 男は死んだ。

 自分の持っている銃によって。


「最後の罪状は、殺人未遂か。残念ね。私に殺意を向けなければ、あと数秒は生きていられたのに」


 私は手を振りかざして、『断罪聖典』を引っ込める。背中に出現していた天使の羽も、光の粒となって消えていく。

 そして、静かになった彫像の間で呟く。

 花々の甘い香りが、こんなにも苛立たしく思えたことはなかった。


「……もうちょっとだけ待っててね。絶対に、皆を解放させてあげるから」


 何も言わぬ彫刻。

 動くことを許されない彫像。


 人形に、人の魂は宿るのか?

 その答えは単純だ。


 ……そんなのクソ食らえだ、この野郎!



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― 新着の感想 ―
[一言] 前作使用した時には罪人だった会長を殺さなかったが、今回は流石に殺したようですね。
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