表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/205

#10. Screw you!(ふざけるなぁ~!)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 向かうのは、あの彫像の部屋よ。


 そう言ったミーシャ先輩の背中を、私は仕方なく追いかける。

 あー、どうしてこうなったんだろう。なんで自分から出火場所に向かうような人と、私は一緒に行動をしているのか。わざわざ危険なところに飛び込むほど、私の性格は好戦的ではないというのに。


「何か言った?」


「何も言ってませんよ」


 私は、ヴァイオリンケースを両手で持ちながら、そんな先輩を追いかける。二階への階段が駆け上がり、長い廊下へと辿りつく。


 その時だ。

 屋敷内で待ち構えていた黒スーツの男たちと遭遇してしまった。


「いたぞ! 侵入者だ!」


「絶対に捕らえろ!」


 黒服たちは、懐から拳銃を取り出す。

 ほら、言わんこっちゃない。悪魔相手でも気後れする私が、どうして人間を相手に戦うことができるだろうか。こんなに普通で可愛い女の子が、何の躊躇もなく人を撃てるわけがない。


 相手は悪魔ではなく、自分と同じ赤い血が通っている人間だ。同じ人間を相手にして。そんな。撃てるわけが―


「それが撃っちゃうんだなぁ~、これが」


 ぱこっ、とヴァイオリンケースの蓋を開ける。

 そして、黒服たちが銃を構えるよりも早く、私はケースに隠していた消音狙撃銃『ヴィントレス』を取り出して、狙いをつける。


 中腰射位、距離100メートル。

 私は狙撃スコープを覗き込み、太ももの中でも、太い血管が走っていない場所に狙いをつけて、何の躊躇もなく撃った。


 パスンッ、パスンッ、パスンッ!


 極限まで銃声を抑える性能を持つ『ヴィントレス』から、ガスが抜けるような銃声がする。その静謐を保つ銃から放たれた銃弾は。狙いを逸れることもなく。黒服たちの足を撃ち抜いた。


「(……まぁ、私も死にたくないし。痛いのも嫌だし。そもそも正当防衛だから、問題ないよね?)」


 廊下に響き渡る、男たちの悲鳴。

 何が起きたのかわからず、銃で撃たれたことさえ理解できていない。そんな動揺した彼らを狙い撃ちするのは、とても簡単なことだった。


「はいはい、ごめんなさいねー」


 パスンッ、と最後の一人を狙い撃つ。

 男が倒れて、痛みにもがいている。その手から零れ落ちた拳銃を拾って、窓から捨てる。落ちていった拳銃は、外の植木に消えていった。


「こいつが、最後だったみたいね」


「そうですね。もう外のほうも、あらかた片付いているみたいですよ?」


 窓枠に身を乗り出して、屋敷の外を確認する。

 元気に戦っていたのは、ぺぺだけで。外敵を排除するために出てきた黒服たちは、逃げ回っているか、すでに気絶していた。


「あとは、ご領主様だけですね」


「そうね。じゃあ、ナタリアちゃん。……お疲れさま」 


 とんっ、と私は背中を押される。


 ……へっ? 

 と頭に疑問符が浮かぶ。

 その頃には。私の体は、二階の窓から投げ出されていた。


「ちょっ!? せんぱいーっ!?」


 遠ざかっていくミーシャ先輩の顔。

 わずかな自由落下の後。ぼすんっ、と私の体は植木に飲み込まれる。……マジか、あの人。私のことを二階から突き落としたぞ!?


「ナタリアちゃんは、そのまま隠れていなさい。ここからは、私が一人でやるわ」


「はぁ!? このクソ先輩、ふざけんなーっ!」


 私の最大限の怒りの叫びは、ミーシャ先輩に軽くいなされてしまう。

 なぜか、その時の彼女の顔は。

 人間の悪意から私を守ろうとするような、そんな優しい顔だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ