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♯9. Dangerous Queen(ちょっとだけ危険なことが大好きな女の子)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 ……彫刻に人の心は宿るのか。

 古代ギリシアの神話では、彫像に恋をした王が人間になるように祈り、神がその祈りを聞き遂げたという。


 美しい話だが、私には少し物足りない。


 だって、そうではないか。

 現実の少女が美しいのは一瞬だけ。その一瞬を、形にしないと意味がない。


 絵画では、駄目だ。現実味がない。

 写真では、駄目だ。芸術性がない。


 彫像だけでは、駄目だ。それでは空っぽの器だ。どれだけ美しく、かつ現実に近づけようとも、中身が空っぽでは意味がない。


 中身を、……魂を入れる必要がある。


「……あれから、もう三年でしたか。月日が流れるのは早いものです」


 その初老の男は、芸術品を愛でるような目で、その彫像を見つめる。


 窓を開けた。

 部屋の空気か籠っていたから。

 部屋中に花を用意させても、溢れている『腐臭』はなくならない。定期的に部屋の空気を入れ替える必要がある。この瞬間だけが、初老の男にリアルを実感させた。


「昨日の可愛らしいお客さんたち。彼女たちも、とても美しかった」


 できることなら、あれ・・も手に入れたい。

 街の見張りから、駅近くのホテルに泊まっているという連絡は入っている。首都から来た学生が、旅行中に行方不明になる。そんなことは、別に不思議なことはない。どうにかして事故に見せかけることはできないだろうか。初老の男は、本気でそのように考えていた。


 だが、次の瞬間。

 屋敷の玄関から、激しい衝突音がした。


 何事かと窓から身を乗り出すと、暴走するレンタカーが玄関の柵をブチ破って、屋敷の庭園を自由に駆け巡っているところだった。



――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



「ひやっほーっ! いけいけーっ!」


「ちょっ、ミーシャ先輩!? いきなり乗り込むなんて聞いていませんよ!」


 助手席に座っている私は、両手で頭を押さえながら必死に抗議する。こんなことなら、私も後部座席に座ればよかった!


「ほらほらっ! まだドリフトが足りないわよ! じゃんじゃんブチ壊してやって!」


「へい、がってん承知っ!」


 運転席のペペも、にやりと笑ったまま縦横無尽に庭園を駆け巡っていく。あー、やっぱり。この人もダメだ。ミーシャ先輩と同じ、一回スイッチが入ると楽しくなってしまう戦闘狂だ!


 不自然にまで整えられた庭に、車のタイヤの跡が刻み込まれていく。そうこうしていると、屋敷の中から。わらわらと物騒な黒服たちが飛び出してきた。その手には、銃が握られている。


「おぉ、おいでなさった! どうする、ミーシャ嬢よ!?」


「適当に遊んであげなさい。間違っても、殺しちゃダメよ」


「へへっ。アイツらみたいな素人と一緒にするなって」


 そう言って、ペペは。

 後部座席からショットガンを取り出す。


 ガコンッ、とポンプアクションで送り込んだ銃弾は、訓練用のゴム弾。もちろん当たればとても痛い。


「じゃあ、ご領主様へのお仕置きは任せたぜ。……ナタリアちゃんも、姫をよろしく頼むな」


 ペペは凶悪な笑みを浮かべると、屋敷の玄関近くに車を止める。

 そして、運転席から飛び出すと、とりあえず目の前にいた黒服に飛び蹴りをかました。


「ぐはっ!?」


 綺麗に吹き飛ぶ、警備の黒服の男。


 そのまま植木に身を隠しながら、一人、また一人とショットガンで仕留めていく。ガコンッ、ガコンッ、とゴム弾を装填しては、素早く狙いをつけて撃つ。そうやって、黒服たちの注意を自分に向けていった。


「あっちに行ったぞ!」


「追え! 絶対に逃がすな、……ぐあっ!?」


 黒服たちも拳銃で応戦するが、実力の差は明らかだった。

 まるで獣のように襲い掛かるペペに、彼らはなすすべもなく蹂躙されていく。


「さて、私たちも行くわよ」


「……一度だけ、聞いてみたかったんですけど。ミーシャ先輩って、本当に何者なんですか?」


 私の呆れたような問いに、彼女は嫌味な笑みを浮かべる。


「別に。普通の女の子よ。……ただ、ちょっとだけ、危険なことが大好きなね」





本日は、2話更新します。

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