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#6. Pork Saute(豚肉料理と尾行の男たち)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「どうしたの? 食欲ないの?」


「……どうして、先輩は食欲があるんですか?」


 ホテルで部屋を取って、荷物を置いてから。駅前の食堂へと向かっていた。

 もうすぐディナーの時間だということもあり、なかなかの盛況ぶりだ。あのご領主様が言っていた通り、豚肉料理が有名らしく。ほとんどの客が、ローストポークなどを注文している。


 そんな中で、私は。 

 とりあえず水だけを注文して、ちびちびと飲んでいる。


「お客さん、何にしますか?」


 食堂のウェイターが注文を取りに来る。

 メニュー表すら見ようとはしない私に、ミーシャ先輩はため息を溢しながら、ウェイターに注文をする。


「そうね。まず、この子はあまり食欲がないみたいだから、何か消化のよいものを」


「それでしたら、スープ料理なんてどうでしょう? 今日のおすすめでしたら、ベーコンとポテトのコンソメスープになりますが」


「じゃあ、それで。私は鶏肉のハーブ焼きを。パンをつけてね」


「鶏肉ですか? 別に構いませんが、この街なら豚肉をおすすめしますが」


 不思議そうに首を傾げるウェイターに、ミーシャ先輩は視線を窓に向けながら答える。


「いいのよ。鶏は穀物しか食べない・・・・・・・・から」


「は?」


 何だか納得できないといった様子で、ウェイターは厨房へと姿を消していく。


 しばらくすると、料理が運ばれてきた。

 食欲はないと思いつつも、目の前に暖かいスープが出されると、体が正直なもので。ぐぐぅ~、と腹の虫が盛大に鳴く。


「お食べ。明日も忙しいわよ」


 いつになく、ミーシャ先輩が優しい。

 何か裏がなければいいけど、と思いつつもスプーンによそったスープを口に入れる。……あっ、やばっ。めっちゃ美味いんだけど。


 ミーシャ先輩も、周囲の客が豚肉料理を食べているなかで、一人だけ焼いた鶏肉を食べている。


「……先輩、おいしいですか?」


「最悪ね。鶏肉はカピカピだし、ハーブの風味も飛んでいる。これじゃ、パンだけ食べているほうがマシってくらい」


 よほど、鶏肉に需要がないのか。素材からしてダメ出しを食らってしまっている。

 私はコンソメスープを飲み干して、お腹が落ち着いたころになって、ようやくいつもの調子を取り戻す。


「それで、これからどうするんです?」


「どうするって? ホテルに戻るに決まっているじゃない」


「アーサー会長に言われていた、失踪した家族が住んでいたところを調べなくても?」


「どうせ、何も出てこないわよ。……それに」


 ちらり、と視線を店内に向ける。


「『監視』されてる。今夜、人気のないところにいったら、消息不明になるのは私たちよ」


「それは、そうかもですけど」


 はぁ、とため息をついて、窓の外を見る。

 正確には、窓に反射した店内を見る。素人なのか、バレても構わないと思っているのか。タクシーを降りた時から後をつけてきた男たちが、じっとこちらを見ていた。彼らが食べているのも、豚肉料理だった。


「……あ、私も注文しようかな」


「やめときなさい。お腹の調子が悪いんだから」


 そして、ミーシャ先輩は食事を楽しむ素振りもなく、無理やりお腹の中に書き込むと、コップの水で流し込む。


「行儀悪いですよ」


「あんたに言われたくないわよ。今日のこと、学園中に言いふらして、お嫁にいけなくさせてやろうか?」


 いや、すみません。

 それだけはマジで勘弁してください。


「それに。……今夜、ホテルに電話がかかってくることになっているの」


「電話? 誰から?」


 唐突なことに、私はぽかんと口を開く。

 すると、ミーシャ先輩から意外な人物の名前が出てきた。


「黒服のペペよ。あいつには、別件で調べさせていることがあるから」


「あー、そういえば。そんなことを言ってましたね。いったい、何を調べさせていたんですか?」


「……それを知りたくて、調べさせたのよ」


「ん?」


 よくわからない返答に、私も混乱してしまう。

 アーサー会長の護衛を使ってまで、何を調べさせていたのだろう? 私は目の前に転がってる大きな問題に、どう関わっているのか。


 そんなことを考えながら、駅前の食堂を出ていった―



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