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♯13. GrimReaper(ナタリアさん。君、死ぬかもね)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 翌日の放課後。

 私は昨日の報告書をまとめて、アーサー会長のいる時計塔を訪れていた。主な目的は報酬おこづかいの受け取りだが、体裁は正しておくことに越したことはない。昨日の出来事をレポート用紙に書いて提出する。それを確認してもらっている間に、紅茶を楽しむことにしよう。


「そういえば、ナタリアさん。どうして今日は、そんなに長いスカートなんだい?」


「深い理由はありません。しばらくは、階段下からの視線を警戒しているだけですよ」


 私は、足首が隠れるほどのロングスカートを揺らしては、ゆっくりと紅茶を楽しむ。


 あー、こんな穏やかな気分は久しぶりだ。

 なにせ、今回の報酬が入ったら、ようやく新作のコートを買えるのだから。デパートの店員からは、「買えない場合はキャンセル料が発生しますが、よろしいですか?」などと不安そうに言われたが、今の私には何の問題もない。早速、この足でデパートに向かうとしよう。…‥ちなみに、背伸びし過ぎたあの下着たち・・・・・・は、誰にもバレないようにこっそりと捨てた。


「……えーと、ナタリアさん。ちょっと確認してもいいかな?」


 執務机についているアーサー会長に呼ばれて、私は振り向く。なぜか、その顔色は少し悪いような気がした。


「何ですか? 嘘は書いてないですよ」


「いや、疑ってはないよ。ないけども、さぁ」


「はぁ、何ですか?」


 きょとん、と私は首を傾げる。

 珍しく歯切れが悪い。アーサー会長は疲れたように眉間に手を当てながら、重々しく口を開く。


「この狙撃は、君に頼んだ。だから、『ドラグノフ狙撃銃』の入手ルートについては問わない。合計21発の銃弾の使用も、焼夷徹甲弾の使用も。この際だから、オペラ座の劇場がボヤ騒ぎになったことも不問にするよ」


「はぁ。では、いったい何が問題なんですか?」


「……その顔では、本当にわかっていないんだね」


 アーサー会長は、表情を強張らせながらこちらを見る。

 あの腹黒くて、他人をコキ使うことに、何の良心の呵責もない会長様が、表情を硬くさせている。嫌な予感しかない。


「……『協力者』の人だよ。この報告書では、狙撃手の男スナイベルと書かれているけど。この人とは、いったいどこで知り合ったんだい?」


「えーと、知り合いの、その知り合いみたいな感じですけど」


 嘘は言っていない。

 向こうは、こちらに気づいていないが。こっちとしてみれば、同じ学園に通っていた同期生だ。特別、親しかったわけではないが、全くの他人ということでもない。なんだったら、学園祭の余興であった全校生徒VSゾンビ大乱闘事件だって一緒に戦ったくらいだ。


 だが、どうにも会話の雲行きが怪しい。

 私はビクビクと怯えながら、慎重に言葉を選ぶ。そして、それを聞いた会長は、小さくため息を零して言った。


「ナタリアさん。この『シロー・スナイベル』という人はね。……とても有名な狙撃手なんだよ。過去の第二次世界大戦では、第九魔術狙撃部隊の一員として活躍。少年将校ながら様々な激戦を戦ってきた。そして、戦争終結後に復学するも、卒業後はオルランド共和国軍のエリート部隊GIGNにスカウト。超一流の狙撃手として活動していたけど、『悪魔の証明』事件をきっかけに退役。現在は、とある秘密組織で活動している」


「へぇー、その組織って?」


 私は、何の危機感もなく尋ねる。

 そして、全てを知っているアーサー会長は重々しく答えた。


「……13人の悪魔を狩る者たち。『グリム・リーパー』だよ」


「へ?」


 聞き覚えのある単語に、私の持つティーカップがぴくりと揺れる。


「君も知っている通り、13人の悪グリム魔を狩る者・リーパーは『悪魔の証明』事件で出現した悪魔を狩る、13人だけの秘密組織だ。そこにいるメンバーは、どれもこれも人間性に難ありとされた本物の化け物たち。……戦争の英雄、暗黒街のマフィアのボス、人でいることを辞めてしまった狼犬、偏屈のヴェル・ブラッド卿。僕たちなんて可愛いものさ。そんな人間をタダ働きさせようなんて」


「そ、そんなことは! 向こうから断ってきて―」


「しかも、相手が最悪だ。シロー・スナイベルといえば、彼らの中でも悪い意味で有名人だ。狙った獲物は必ず定刻通りに仕留めて、そして家族のために必ず定時に帰る。自分に残業をさせようとする奴には、悪魔だろうと、人間だろうと、絶対に容赦はしない。そんな男に、深夜のサービス残業の強制なんて……」


 さぁー、とアーサー会長の顔が青くなる。


「ナタリアさん。君、死ぬかもね」


「ちょっ、待ってください! 何とかなりませんか!?」


「ま、まぁ、誠意を見せるとすれば―」 


 ちらり、と彼が自分の机を見る。

 そこに置かれている小切手。ノイシュタン=ベルグの市長から直々に依頼されたとあって、その金額はとてつもない。


 まさか、それを。

 差し出せというのか!?


「い、嫌ですよ! そのお小遣いは私のものです! もう新作のコートも予約しちゃっているし、お財布の中も空っぽなんです。キャンセル料も払えなくなるんだから、絶対に渡しませんからね!」


「ま、まぁ、無理にとは言わないけど。……死んでも恨まないでね?」


「うっ、ぐぬぬ!」


 私は顔が真っ赤になるまで、その場で頭を抱えていた。


 数日後。

 中心街にある高級デパートで、一人の店員が注目を集めることになった。綺麗な銀髪に、丁寧な接客。小さくて可愛らしいバイトの店員には、少なくないファンが通い詰めたらしい。その中には、冴えない男子学生が一人。彼女宛の手紙を持っていた。


 ……。

 ……。

 ……遠くで、救急車のサイレンが鳴って「お、お願いですから、今日のパンツを!」と叫びながら救急搬送されていく男子生徒の悲しい姿があったとか。




『Chapter7:END』

 ~THE Phantom of the Opera。(オペラ座の悪魔と、とある少年のラブレター)~


 → to be next Number!





・次回、ラブコメの短編を予定しています。よかったら見てやってください(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] シローの略歴(と諸々)が、あの頃からさらに大変なことになっている。絶対に定時で帰るサラリーマン。 アーサー、シローの肩書、詳しいな(棒読み) ナタリアさん、バイトを始める。手紙の著者…
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