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#6. Semi-Auto(スナイパーライフルを探して…)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「それで、お前さんに合うスナイパーライフルを探していると?」


 首都の薄暗い住宅街。

 何本も路面電車を乗り継いで、私は馴染みの楽器屋『黒猫亭』を訪れていた。一見すると、個人経営している小さな楽器店にしか見えないが、その奥の扉を潜り抜ければ。そこにあるのは、長年使われてきた、ジョセフ爺の銃工房だ。


「そもそも、お前さん。学校はどうした?」


「サボった。気にしないで」


 私はささやかな会話を興じつつ、奥の部屋へと向かっていく。

 今や愛銃となりつつある消音狙撃銃の『ヴィントレス』も、このジョセフ爺から譲ってもらったものだ。私は、ジョセフの銃工房を勝手に歩きながら、棚に飾ってある様々な銃を見ていく。小型のハンドガンから、実戦用のアサルトライフルまで。実に多種多様な銃が置いてある。


「スナイパーライフルと簡単に言うが、お前さん。狙撃の経験はあるのか?」


「うーん。実は、あまり自信がない」


「おいおい。大丈夫か、そんなんで?」


「うん、だから。一番いい銃をちょうだい」


 にこり、と私は笑いかける。

 ブランド物のバックを欲しがる女子学生なら、まだ可愛げがあるものを。悪魔をブチ殺すためにスナイパーライフルをねだる女の子など、この首都では私しかいないだろう。


 ……請求は、あの『S』女に回しておくからな。

 そう言って、ジョセフは奥のほうの棚へと向かっていく。『S』女とは、私の上司のことだ。東側陣営の諜報員を管理している。


「……これなんて、どうだ? 『Kar98k』。1935年製のガリオン公国の狙撃銃だ。射程距離は500メートル。装填数は5発。銃弾は7.92㎜のモーゼル弾だ」


「却下。そんな世界大戦時代の銃を持ち出さないで」


「性能は悪くないぞ?」


「私を誰だと思っているの? そんな玄人向けの銃、使いこなせるわけがないでしょ?」


 こちらとて、狙撃は初心者に毛が生えた程度なのだ。

 歴戦の狙撃手でもあるまいに、そんな戦地で活躍した銃を出されても困る。


「……なら、こいつは? 最近、民間に払い下げされた最新式の銃『L96-A1』。有効射程は800メートル。装填数は、拡張マガジンで10発。銃弾は7.62㎜。銃身を固定するための二脚のバイポットが―」


「却下。……てか、それいくらするの?」


「気にするな。お前さんが、この店で二十年くらい働いたら返せる金額だ」


 おい、このクソ爺。

 人様の青春をなんだと思ってやがる。


「……じゃあ、お手頃なところで。この『M24』なんて―」


「はい却下。その銃だけは、しばらくは見たくない。……てか、なんで。どれもこれもボルトアクション式の銃なわけ?」


 私はげんなりした態度で言った。

 だが、ガンスミスのジョセフ爺は。すごく真剣で真面目な顔をしていた。


「当たり前だろう。一撃必中(ワンショット。ワンキル)は、男のロマンなんだ。銃職人として、こいつは譲れん」


 はぁ、そさいですか。

 まぁ、女の子である私には関係ない話だ。私はジョセフ爺が不機嫌になるのを承知で注文をつける。


「爺さん。私が欲しいのは、そんなロマンじゃなくて。もっと実用性のあるものなの。端的にいうと、自動装填セミオートのスナイパーライフルはないわけ?」


自動装填セミオートだぁ!? そんな軟弱な銃、俺は知らん!」


「んなこと言って、そこらにあるアサルトライフルやサブマシンガンなんて、自動装填どころか、バースト射撃からフルオート射撃ができるじゃない?」


「こいつらはいいんだよ! 実際の戦場では、生き残らなくちゃ意味がない。……だがな、スナイパーだけは違う。……一発だ。その一発に己の存在の全てをかけて、引き金を引く。なんとも切なく、美しい姿じゃねーか」


 遠くを見つめるジョセフ爺。

 気持ち悪いことに、その瞳には涙が浮かんでいた。


「はぁぁ。つまり、ないわけね。悪いけど、無駄な時間を使っている余裕はないの。……邪魔したわね」


 私が学生鞄を手に取って、工房から出ていこうとする。

 その姿を見て、ジョセフは仕方ないと言わんばかりに言い放った。


「あー、わかったよ! ちくしょうめ。出せばいいんだろう、お前さんが求めている銃を」


「え、あるの?」


「あぁ、……だが」


 ジョセフ爺は振り返り、その不穏に満ちた目をこちらに向ける。


「返品は、お断りだ」


「は?」


「絶対に持って帰れよ。何だったら、高倍率のスコープもつける! 新品のマガジンも、持ち運びできる専用のケースも、全部おまけにしてやる。だから―」


 絶対に、持って帰れよ。

 そう言って、私の反論も聞かずに、さらに奥の倉庫へと姿を消していった。



・昨日は更新できなかったので、本日は2話(18:00頃)更新の予定です。



※脚注

・一番いいのをちょうだい:「……大丈夫だ、問題ない」の対義語。そんな装備で大丈夫か?と問われたら、ちゃんとこう答えよう。


・KAR98K:こちらの世界ではドイツ製の狙撃銃。狙撃スコープもドイツ製。とても性能がいい。その性能の良さに、ソ連では鹵獲したドイツ製のスコープを、自軍のライフルに搭載していたとか。


・L96(A1):こちらの世界ではイギリスの近代狙撃銃。とある某有名配信者が買ったその日に、バレルを分解して壊してしまったことでも有名な銃。


・M24:スナイパーライフルといえば、コレ。誰もが思い浮かべるであろう、ボルトアクション方式の狙撃銃。米製。海兵隊モデルと、陸軍モデルがある。

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