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『裏切者のLOST‐No.(ロスト・ナンバーズ)』 ~ナタリア・ヴィントレスは、今日も逃げ出したい~  作者: てばさきつよし
Chapter5:~Ms. Vintorez(ナタリア・ヴィントレスは今日も逃げ出したい)~
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#11. Shall We Dance?(銃弾の雨はいかが?)


 ダダンッ!

 二連発の銃声が、握りしめている『デリンジャー』から放たれる。


 真っすぐ眉間に向けて放たれた弾丸。

 何の前置きもない奇襲に近い射撃であった。だが、その銀色の銃弾が女悪魔に直撃する、瞬間―


「このっ、よくも!」


 その姿は、暗闇の影に溶けていった。

 いや、違う。体そのものが蛾の大群となって、銃弾を躱したのだ。先端を銀で加工した純銀弾の脅威に気がついたのか、その動作はあまりにも俊敏だった。


「ちっ、くそ!」


 私は悪態をつきながら、蛾の大群が向かう先に視線を送る。

 その間も、スカートを翻して左腿から銃弾を取り出す。再び、薬室を解放させてリロード。……やはり、この銃だけでは戦闘は辛いものがあるな。


 流れるような手裁きで、銃弾を装填。

 小さな両手で『デリンジャー』を構えて、蛾の女悪魔が姿を見せるのを注意深く待つ。


「キ、キィィ! この人間がぁ! よくも、このあたしに傷をつけたわね!」


 血走った目で、蛾の悪魔がこちらを見る。

 吹き飛ばされた右腕はそのままで、苦痛の表情を浮かべていた。銀には、悪魔を寄せ付けない力があると、誰かが言っていた。そして、それは。悪魔に対して『絶対的な一撃を与える』ということであった。


「腕の一本くらいで、ごちゃごちゃうるさい。蛾は、蛾らしく街灯にでも群がってろ」


 私は啖呵を切りながら、銃口を悪魔の頭に向ける。

 今度は、外さない。


「キ、キキ、……キヒュヒュ! 馬鹿め! 人間のくせに、このあたしと戦って勝てるつもりなの!」


 悪魔が、爪に蛾をまとわせて襲い掛かってくる。

 だが、遅い。少なくとも、あのカゲトラの動きに比べたら、蠅が止まっているようなものだ。私は首をそらして、その一撃を回避。態勢を崩すことなく、すり抜けざまに狙いをつける。


「勝てるつもり? 違うな、ブチ殺すつもりよ」


 ダダン、と銃声が響く。

 血走った眼を見開く蛾の悪魔。

 その瞳に吸い込まれるように、弾丸が飛んでいき―


「キキイィィィェ!」


 その寸前で、躱された。

 再び大量の蛾になって、部屋中を飛び回る。


 くそ、キリがないな。デリンジャーの残弾も、あと四発。チャンバーを解放させて、空薬莢を地面に落とす。焦げ臭い硝煙の匂いが、わずかに鼻につく。


「キィ、キィィ! 何よ! 何なのよ、あんたは! このあたしを、悪魔を相手にしているのに、なぜ怯えない! なんで怖がらない!」


 半狂乱になった蛾の悪魔は、黒い血が流れる額を苛立たしそうに拭う。なるほど、完全には躱しきれていなかったのか。私は『デリンジャー』を片手で構えつつ、にやりと笑う。


「どうしたの、もう終わり? この銃に使われている銃弾は、あんたたち悪魔を倒すために用意した特殊な弾。たかが人間だと、甘く見たね」


「な、なんですって。……その銃が、その銃のせいがぁ!?」


 奇声を上げて襲い掛かる女悪魔。

 全身に蛾をまとわせて、私の銃を奪いに迫る。


「それさえなければ、それさけなければ!」


「っ!?」


 私は慌てて『デリンジャー』の引き金を引くも、蛾の姿に分散した悪魔には当たらず。予備の銃弾に手を伸ばした隙をつかれて、私の右手は掴まれてしまった。


「ぐっ」


「キィィ、キヒュヒュ! 捕まえた、捕まえた! これで、もうこの銃を撃つことはできないわよ。あんたも、そこの女みたいに遊んでやろうと思っていたけど! そんなこと、もうどうでもいい! このまま、この細腕をへし折ってやる!」


 ぐりり、と私の腕を掴んだ女悪魔が力を込める。

 まるで力など入れていないような動作だが、人間と悪魔では、その腕力や能力がケタ違いなのだろう。ミシミシ、と骨が軋むような音が聞こえてくる。


「ぐ、ぐあぁ!」


「キヒュヒュヒュ、いい気味ね! これさえがなければ! あんたも、ただの小娘でしか―」


 蛾の女悪魔が高笑いをする。

 勝利を確信して、油断を見せる。


 ……あぁ、なんて。

 ……頭の悪い生き物なんだろうか。


「あ、銃が落ちちゃった」


 わざとらしい私の独り言。

 掴まれた手から、『デリンジャー』が零れ落ちていく。

 その落下していく銃に、悪魔の視線も下へと向けられる。注意も散漫となり、その銃だけを追いかける。それは、そうだろう。


 だって、この悪魔には―


 地面に落ちていくものだけが、自分への脅威だと思い込んでいて―


 私が、もうひとつの『銃』を隠し持っていることなど―


 知りようもないのだから―


「……え?」


『デリンジャー』が床に落ちた瞬間、私は悪魔から手を振り払った。


 そのまま踊り子のように舞いながら、床に置いてあるAMATIのヴァイオリンケースを掴み取る。

 優雅にダンスのステップを踏んで、ぱちんとケースのロックを解除。蓋が開き、中に納まっていたものが姿を見せる。そしてー


 ヴァイオリンケースの中から、その『銃』を引き抜いた。


 試作型の最新式消音狙撃銃。

 その名前は『ヴィントレス』。


 黒いグリップを握り、ウッドストックを肩に当てて。

 単発射撃からフルオート射撃に切り替える。綺麗な円を描くように舞いながら、銃口を悪魔へと向けた。


「ひっ―」


 悲鳴は、短かった。


 咄嗟に、大量の蛾となって姿を消そうとする女悪魔。だが、すでに遅い。遅すぎた。私は舞うように、踊るように。蛾が逃げようとする方向へと視線を向けて。


 フルオート射撃で蛾のいる空間ごと。薙ぎ払うように、弾丸の雨を降らせていった―



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― 新着の感想 ―
[一言] 数が少ない銀製の専用弾が惜しげなく消費されていく。
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