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#2.point 95!(エクセレント! 95点!)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 その日も、夕方になれば乗客は落ち着いていた。

 男は、駅のホームで新聞を読むフリをしながら、じっくりと獲物を探していた。広げた紙面の端から、ちらちらとホームに並ぶ女子学生を盗み見みする姿は、もはや貫禄の域に達していた。


「(……ちっ。最近の学生は、質が落ちたな)」


 男は落胆しながら、カモフラージュのための新聞を折りたたむ。


 男は歪んだ感性の持ち主だった。

 路面電車という密室で、少女が困る顔が見たい。怖くて震えながら、それでも助けを呼べない姿に興奮する。男は、ろくに仕事に就くこともなく、暇があればこうして下校時刻を狙って、女子学生たちを品定めしていた。


「(……5点、2点、14点。今日も空振りか。あぁ、どこかにいねぇかな。この俺を満足させてくれる、極上の女は)」


 男は諦めて、持っていた三日前の新聞を、上着のポケットに突っ込む。


 ……が、その時だった。

 男の視線の端に、輝く宝石が見えた。視認する前に直感していた。直感する前に理解していた。そして、その感覚は正しかったと、男は改めて把握することになる。


「(……95点!? おいおいおいっ、なんていう美少女だ!)」


 今まで、この自分が見落としていたのが信じられないほどだ。

 いや、もしかしたら。この短い時間の中で、少女の中で何かあったのかもしれない。人間の成長とは、何も外見だけではない。その魂。精神面の変化であっても、その印象をがらりと変えてしまう。

 特に、成長が著しい女子学生では、それが顕著だ。この自分が見落としていたとしても、何ら不思議ではない。


「(……俺にはわかる! 数々の女たちを見てきた俺にはわかるぞ。あの子には、他の女子学生にはないスゴ味がある! さらさらの銀髪。華奢で小さな身体。あどけない表情。凡人の奴らには、そんなことに目が囚われがちだが、本当に大切なことは、もっと別にある。そう―)」


 男は、すっと目を細めて、静かに瞑想の賢者時間けんじゃタイムへと突入する。


「(……何を隠そう。彼女の可憐さの秘密は、目には見えないところにある。心の目で見れば一目瞭然だ。この境地に立つまでに、俺であっても何年もかかった。きっと、俺でなかったら見逃していたね。そう、つまり。……制服のスカートが短いことに!)」


 カッ、と男は目を見開いた。

 ふふっ、凡人にはわかるまい。そうだ。それこそが少女を、美少女へと変貌させているのだ。


 あぁ、素晴らしき。ならば、この自分も戦場へと赴かなければなるまい。男は覚悟を決めた顔になって、迷いのない足取りで歩きだす。向かう先は、その少女が乗る路面電車だ。

 そして―



「ねぇ、聞いた? また電車で痴漢だって」


「最近、多いよねぇ。今度はなに?」


「それが、よくわからないんだけど。電車が動き出したとたん、突然、男のひとりが服を脱ぎだして。上半身が裸の状態で、女の子に飛び掛かったんだって」


「やだー、こわーい」


「それでね。その襲われた女子ってのが、なぜか銃を持っていたらしくて。男の口の中に銃を突っ込んで、怯んだところをボコボコに殴っていたらしいわよ。次の駅に到着するまで」


「やだ、怖い。なにそれ」


「……で、その女子はどうなったの?」


「さぁ? なんか警察が来る前に、ささっと逃げちゃったらしいよ。きっと、とても怖かったんだね」


 楽しそうに話を続ける女子学生たちの横を。

 手錠をつけられた男が、警官たちに囲まれて歩いていく。その男の上半身は裸で、顔中に殴られた跡があった。そして、酷く怯えた様子で「もうしません、もうしません」と震える声でブツブツと呟いていた。



――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



「お疲れさま。……あれ、ナタリアちゃんは?」


「さぁ? 最近、電車に乗ると変なことばっかり会うから、今日は部屋から出ないって言っていたけど」


 時計塔の執務室で、ミーシャがファッション雑誌を読みながら答える。

 この部屋の主である会長のアーサーは、自分の執務机をつくと、その手に持っていた書類に目を落とす。


「何かあったの?」


 熱心に書類に目を通しているアーサー会長に、ミーシャが声をかける。


「いや、もう解決した事件だよ」


「なーんだ。それだったら、私たちの出番はなさそうね」


「うん。そうだね。近頃、路面電車で卑劣な犯罪が増えていたんだけど、その主犯格の男が逮捕されたんだって。何でも、この学園の女子が捕まえた、……というか再起不能になるまで叩きのめしたらしいけど」


「ふーん。……まさか、それをナタリアちゃんがやったんじゃないよね?」


「ははっ、それはないと思うよ。……たぶん」


 自信なさそうに目をそらしたアーサー会長。彼が手にしている報告書には、学生服を着た銀髪の少女が銃を所持していた、と記載されていた。


「とりあえず、この件には悪魔は関係ないんじゃないかな。何でもかんでも、彼らのせいにするのは良くない」


「そうね。悪魔よりも、悪意を持っている人間のほうが多いもの。……というか。最近、私に路面電車に乗せないようにしていたのって。もしかして、このため?」


「さぁ、どうだろうね?」


 にこりっ、とアーサー会長は優しそうな表情で答えを濁した。


 数日後、首都の路面電車に。女子専用車両が導入された。喜びの声が上がる一方、朝の通勤ラッシュが更に過酷なものになったという。そして、その女性用の車両に乗り込む、ひとりの銀髪の少女の姿があった。

 


『Chapter4:END』

 ~Danger to touch!(触るな、危険!)~


 → to be next Number!





挿絵(By みてみん)


次回は、ナタリアちゃんの相棒となる消音狙撃銃。『ヴィントレス』が登場する話です

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