表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/205

#11. Scopophobia(写真屋のオヤジの視線)


「ギエェェェッ!」


 ごろごろごろっ、と悪魔が悲鳴を上げながら床を転がっていく。


 気がついたら、元の撮影スタジオに戻っていた。ミーシャ先輩が魔法を放った後から、眩しくて何も見えなかったけど。きっと、この性格の悪い先輩のことだから、何か酷いことをしたのだろう。


 だって、性格。超悪いもの。


 そのミーシャ先輩は、長い黒髪をわずらわしそうにかきわけながら、床に転がっている悪魔を見下ろす。まるで、死にかけの虫けらを見るみたいに。


「さぁ。写真に捕らわれている学生たちを解放しなさい」


 高圧的な態度。

 ミーシャ先輩。やっぱり、あなたはマフィアとか暗黒街とかのほうが似合っていますよ。そんな彼女を前にして、悪魔もビビりながら反論する。


「……お、おっと、儂に手を出さないほうがいいぞ? そいつらを写真から解放できるのは、儂だけなのだからな。……キ、キヒヒ」


 視線をキョロキョロさせながら、悪魔は必死に笑い続ける。

 だが、この性格の悪いミーシャ先輩は、悪魔と同じような笑みを浮かべる。


「あら、そう。それは残念ね?」


 そう言って、悪魔へと手を伸ばすと。

 ……その小柄な頭を鷲掴みにして、魔法陣を展開させる。淡い光に包まれて、悪魔は悲鳴を上げた。


「ぎゃああああっ! な、なぜだっ! あの写真のガキたちを助けられるのは、儂だけなんだぞ! それなのに、なぜ手を緩めない!?」


 じたばたと暴れる悪魔。

 ぶすぶすと焦げるように黒い塵が漂っていく。そこに、さっきまでの虚勢はない。


「ふーん、だから? 写真の学生たちを救えないんじゃ仕方ない。このまま、あの世に送ってあげるわ。た〜っぷりと、痛めつけてからね?」


「ぎゃあ、やめろ! 頭が、頭が割れる!」


「さぁ、ここで選択肢よ。写真の学生たちを解放するか。それとも、このまま死ぬまで苦しみ続けるか?」


 ……ねぇ、どっちにする?

 ぐぎぎ、と指先の爪を立てて、悪魔を拷問をしていく。そして、悪魔の心が折れるのは、思っていたよりも早かった。


「ぎゃ、ぎゃああ。……わかった! わかったから、その手を離してくれぇ!」


 パチン、と悪魔が指を鳴らす。

 壁に掛けられていた写真たちが、次々に床に落ちていく。すると、捕らわれていた学生たちが解放されていった。床に転がっているのは、意識を失っている学生たちと、誰も映っていない写真だけだ。


「まったく、手間取らせて」


 ミーシャ先輩は舌打ちをすると、その悪魔から手を離す。そして、写真の中に捕らわれていた学生に近寄って、ひとりずつ安否を確認していく。どうやら大丈夫なようだ。ミーシャ先輩の表情に、私は安心した様子で肩の力を抜く。


 ……が、その時だった。


「キキィ、油断しおったな!」


 突然、床に膝をついていた悪魔が起き上がって、ミーシャ先輩へと襲い掛かった。鋭く尖った爪で、その喉を切り裂こうとする。


 だけど、させない。

 私が、させない。


「ミーシャ先輩、伏せて!」


 私は迷うことなく、手にしていた『デリンジャー』を悪魔に向ける。そして、狙いをつけて引き金を引いた。


 パパンッ!

 二連式の22口径、対悪魔用に加工された純銀製の銃弾。その銃弾が、悪魔の頭部を貫通していた。


「――ギャ」


 小さな悲鳴を上げて、そのまま壁へと激突する。

 目の焦点を失って、ぴくりとも動かなくなった小柄な悪魔は。そのまま黒い塵となって、跡形もなく消えていった。


「……ふぅ」


 やったのか、そんな実感も覚える余裕もなく。

 ミーシャ先輩が優しい声をかけていた。


「ひゅー、ナイスショット。良い腕ね」


「ははは、たまたまですよ」


 私は、『デリンジャー』を太もものホルスターに戻してから、制服のスカートで隠す。

 それと同時に。今度は隣の部屋にいた写真屋の中年オヤジが、扉を開けて顔を覗かせた。


「……あ、あの、何かありましたか?」


 悪魔を相手に戦って、銃声までしたのだ。さすがのこの中年オヤジも、何かあったのか気になったに違いない。


「あぁ、別に気にしなくてもいいわよ。ここに転がっている学生たちも、こっちで対処するから問題ないわ」


 そのほうが、そっちも都合がいいでしょ? と言わんばかりに言い方に、店の中年オヤジも曖昧な返事をするしかなかった。


「それじゃ、ナタリアちゃん。こっちは私にまかせて、学園にいるアーサーに電話してくれない? 病院の手配も忘れないようにね」


「あ、はい。……あの、お店の電話を借りてもいいですか?」


「ど、どうぞ」


 なぜか、おどおどしている写真館のオヤジ。

 私は、何かを見落としている気持ちになりながらも、その部屋を後にした。やっぱり、写真屋のオヤジの視線が気になっていた―


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ