♯51.Let's Session②!(ナタリア・ヴィントレスと、悪魔の魔女…))
――◇――◇――◇――◇――◇――◇――
……戦いが終わる。
……朝日が昇り、今日という一日が始まる前に。
首都に住んでいる人々が、何事もなかったのように。平凡で、いつも通りで、ちょっとだけ辛いことのある日常が始まる。その前に、この戦いが終わるだろう。それを悪魔卿のエドガーは静かに見守る。
カラカラ、カラカラ。
カラカラ、カラカラ。
映画館で上映されている外の風景を、『彼女』の隣に座って。
――◇――◇――◇――◇――◇――◇――
……さて、やろうか。
私は静かに呟くと、手にしていた消音狙撃銃を地面に置いた。
もう会話は必要ないだろう。
もう対話は意味がないだろう。
もう結末は変わらないだろう。
それでも、こいつだけは私が倒さなくてはいけない。
ナタリア・ヴィントレスという少女の幸せにとって、この女だけは、何があっても倒さなくてはいけない。私は制服の土埃を払って、スカートの下に隠してあるものに触れて確認する。
「ペペ。銃を貸して」
「いいけどよ、こいつは軍用だぜ? ナタリアちゃんの小さな体じゃあ、ちとキツいかもしれないぞ」
そう言って、黒服の男が手に持っていた銃を渡す。
軍用アサルトライフル『M16』。西側陣営が作った現時点で最高傑作のライフルだ。5.56㎜の銃弾、フルオート射撃、バースト機能付き、性能から有効射程距離まで全て頭の中に入っている。
「問題ない。でも、壊したらごめんね」
「構わないさ。どうせ、こっちでも経費で落ちるからな」
黒服のぺぺは肩をすくめながら、私に銃を手渡す。
ずっしりとした重量感に、女子の手では扱いにくい太いグリップ。銃の全長も大きく、取り回しが悪い。それに引き金までが遠い。やっぱり、この手に持たせるのは銃ではなく、花や恋愛小説が相応しいのだろう。
薬室を確認。
初弾は装填済み。安全装置を解除する。
……いつでも、やれる。
「……朝食は、ベーコンエッグサンドがいいなぁ。駅前で人気のやつ」
「かかっ。じゃあ、会長が目を覚ましたら伝えておくよ」
黒服のペペが笑って、肩を叩き去っていく。
振り返ると、そこには様々な人がいた。ようやく目を覚ましたNo.の仲間たち。いつも影から支えていた黒服兄弟。大聖堂の両側には、カゲトラとシロー・スナイベルが立っていて。視界の隅では、支柱に背を預けている『S』主任がいた。
皆、黙って私のことを見ている。信頼するように、頼りにするように、大切な友達でいるように。
「さぁ、いってこい」
誰かが言った。
その言葉が、私の背中を押す。
足を踏み出し、地面を強く蹴って。
制服のスカートを翻させる。進む先にいるのは、大量の悪魔たちと、それを従える魔女の姿。
……さぁ、終わりにしよう。
私はライフルを構えながら疾走すると、それを待っていたかのように悪魔たちが奇声を上げる。その奥で控えている魔女が、憎らしそうに言い放った。
「……Amen。貴女みたいに周りから好かれている女が一番嫌いなのよ。今すぐ、ここで死になさい」