♯49.Silent VSS ?(沈黙したヴィントレス?)
「うん?」
私は首を傾げながら、コッキングレバーを引く。
弾詰まりかな? ……ったく、あのジョセフ爺め。いつも整備は完璧にしておけと言っているのに。私は排莢のために、何度かコッキングレバーを引くが、薬莢が飛び出てくることはなかった。
「あれ? ちょ、ちょっとタンマ」
あれ、おかしいな?
カシャカシャとレバーを引くが、詰まっているはずの弾が出てくる様子はない。焦る私。首を傾げる悪魔。手の平に汗が滲んで、脇からも汗をかく。そこまでして、私は思い至る。
……そういえば、私。何発、撃ったんだっけ?
「ご、ごめんね~。もうちょい待ってて。あとちょっとだから!」
悪魔たちに愛想を振りまきながら、装着しているマガジンを確認。中を覗き込んでみるが、銃弾は残っていない。そういえば、予備のマガジンは全て使い果たしてしまった。汗が出る。嫌な汗が。
最後の望みをかけて、蹴り飛ばしたヴァイオリンケースにトテトテと歩いていく。そこに座り込み、中を確認するが―
……あれれ、おかしいなぁ~
……もう弾が残ってないぞ~
「……『S』主任。予備の弾とか持ってたりしませんよね?」
「当たり前だ。私は銃など使わん」
何を期待していたんだ、という呆れ顔。
そりゃ、そうですよね。顔が真っ青になる私。振り返れば、状況を理解して顔を赤くさせる悪魔たち。そりゃ、そうですよねぇ。あんなに煽っておいて、弾切れでした。なんて言われたら。悪魔じゃなくても。……ブッ飛ばしたくなるよね。
「『S』主任。一生のお願いがあります」
「おう、なんだ。言うだけならタダだぞ」
「弾が切れました。助けてください」
「断る。どこの世界に残弾数を計算しないで戦う馬鹿がいる」
本気で呆れた顔をした『S』主任が、そこにいた。
一生、私のペットになると誓うなら考えてやってもいいぞ。「私は貴女様のペットです。二度と、口答えはしません」と宣言できるなら、……いや、それでも面倒だな。と『S』主任が吐き捨てた。
「そ、そんなぁ~」
涙目になる私を見ても、『S』主任は助けてくれそうな様子はない。
気がつけば、自分の後ろには怒りで我を忘れている悪魔たちが立っていた。ゴキュ、ゴキュ、と拳を鳴らして、ぷるぷると肩を揺らしている。
「あ、あはは~」
あっ、これ死んだかも。
愛想笑いを浮かべながら、あれこれ説得してみるが反応がない。完全に頭に血が上っている。大型の悪魔も、獣みたいな悪魔も、無機物の集合体のような悪魔でさえ。瞳を真っ赤に充血させて、怒りに我を忘れている。
「は、話をきいて。……はっ、そうだ。今ならあそこに倒れているアーサー会長とミーシャ先輩を好きにしてもいいですよ。なんだったら、おまけでジンタ君もつけ―」
などという、いけない本心が漏れてしまいそうになる。
その時だった。
「……ん? 車のエンジン音?」
遠くから、甲高いエンジン音が聞こえてきた。
何事かと視線をそちらに向けていると、そのエンジン音が建物の入り口で止まった。
そして、次の瞬間には。
……大聖堂の正面玄関で、盛大な大爆発が起きていた。
なんだ? カチコミか!?
その状況に唖然としている私の目に入ってきたものは。
大量の爆薬で、ひっくり返っている高級車と。その上に立って、軍用アサルトライフルを構えている黒服の二人であった。
「殿下―っ! 生きてますか、殿下―っ! ……じゃなかった、会長! アーサー会長! 遅くなりましたが、ガリオン公国の王族護衛隊。ペペとナポリが参上しましたぜーっ!」
「お父上から、伝言を預かっているぜ。次の授業参観はお忍びでいくから、絶対にプリントを持って帰るようにってさ。ちゃんと伝えたからな?」
アーサー会長の護衛である。
黒服兄弟のペペとナポリが、国宝である大聖堂の正面玄関を爆破するという、無駄に派手な登場をしていた。