#5. Lady's dormitory (女子寮にて…)
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週末の朝。
私は女子寮の自分の部屋で、準備を進めていた。
まず初めに、私は二人用の部屋をひとりで使わせてもらっている。
学園側の説明通り、女子寮を使用する生徒が少ないせいか。それとも諜報機関の保安員が余計な気を回したのか。どちらにせよ、私はありがたくプライベート空間として活用させてもらっている。
部屋に、物は少ない。
棚に置かれているのは数冊の本だけ。クローゼットを開いても、学校の制服と学園指定のジャージ。そして、諜報機関から支給された糞ダサい作業着のみ。これで、どこに遊びに行けというのか。『S』主任の言葉じゃないが、華の女子学生にしては、あまりにも悲しい。
私はため息を吐きながら、いやいやと首を振る。
こんなしょぼくれた生活もここまでだ。アーサー会長の言うことを信じれば、『No.』の活動にはお小遣いが出るらしい。なにせ命を張った仕事だ。きっと、使いきれないくらいの金額に違いない!
「とりあえず、今は手元にある装備でなんとかするかぁ」
私は、クローゼットにある下着用の引き出しを開ける。見事に味気ない。白色で統一された下着たちにげんなりとしながらも、その下に隠してあるものを取り出す。
二連発式の小型拳銃『デリンジャー』だ。
その大きさは、今の私の手でも簡単に隠せるくらい。全長は12.4㎝、重さは300g程度。銃弾は小口径の22口径。レミントン社が開発された銃の中でも、最も小さい銃だ。
その用途は、小型で軽量のため女性でも扱えることから、表向きは護身用と販売されている。だが、もっぱら暗殺用として使われることも多い銃だ。私がスパイの駆け出しの頃から使っている相棒で、過去には何度もピンチを救ってくれた。
その銃をベッドの上に置いて、下着の奥から予備の弾が入った箱を取り出す。
「問題は、……相手が人間じゃないってことなんだよね」
これまでの戦いで分かったことがある。
悪魔は、銃にビビらない。
なにより、悪魔に銃弾を当てても致命傷にならない。それも『デリンジャー』のような小口径の銃弾では、ヘッドショットをしても怯ませるのが限界だ。
そんなことを、上司の『S』主任に相談すると。あのサディスティックな女上司は、実に愉快そうに笑っていた。『そんなことを言われると思ってたから、銃弾だけは先に用意してやったぞ。はっはっは、ありがたく使えよ』
そう言われて、手渡された小さな木箱に入っていたのは。これまで使用していた通常の銃弾とは、まったく異なるものだった。
純銀で覆われた銃弾。
同じ銀色の薬莢に、無煙火薬の匂い。
そして、ご丁寧なことに。先端が丸いホローポイント弾ではなく、貫通力の高いフルメタルジャケット弾の仕様だ。戦時中というわけでもないのに、そんなものを選ぶという変なこだわりっぷり。えっ、こんな危ない銃弾を使えと? 貫通した流れ弾に、誰かが当たっても知らないよ?
「(……対悪魔用の純銀弾か)」
私は純銀の銃弾をひとつ摘まみ、デリンジャーに装填していく。
まぁ、考えようによっては、相手は悪魔だ。遠慮も手加減もいらない。それに、人ではないのだから、どんな汚い手を使っても面倒なことにならないのは気分が楽だ。
なんだか、上司の『S』主任にうまく使われている気もするけど(なにせ、今回ばかりは準備が良すぎる)。だけど、大切なのは我が身だ。この際、使えるものは何でも使おう。
そして、次の週末には。
もらったお小遣いで豪遊といこうじゃないか! 可愛い洋服を買って、甘いスイーツも食べ放題だ!
私は、るんるん気分で銃弾を装填したデリンジャーを構える。
安全装置がない代わりに、引き金がとても固い。という理不尽な構造をした愛銃を、私は太ももに巻き付けたベルト付きのホルスターに収める。
スクールバックの中に入れて持ち歩くことも考えたけど、やはり初動は大切にしたい。反対側の太ももにも専用のベルトを巻いて、予備の銃弾を収納していく。これで最後に制服のスカートで隠せば。うん、完璧だ!
「うんうん。目立たないし、バレない!」
試しに、鏡の前でくるくると回ってみるけど、ひらひらとしたスカートの裾からは、わずかにベルトが見えるだけで、まさか銃を隠しているなんて誰も思わないだろう。
……ただ、問題は。
「あー、でも。制服のスカートが長いから、ちょっと銃を取り出しにくいなぁ」
学園のパンフレットにも書いてあったが、この学園の基準としては、スカートの丈は膝が隠れる程度が好ましい。だが、そんなことを守っている生徒は少なく、おおらかな校風のせいか、生徒たちは好き勝手に学校の制服を着ている。
「しょうがないか。これも、お仕事だもんね」
私は、ふんふ〜んと鼻歌を歌いながら。
すすっ、と制服のスカートを折り込んで、その丈を短くする。ひらひらと短くなったスカートの折り目から、肌白の可愛らしい太ももが覗いていたー