♯48.Silent VSS(静謐のヴィントレス)
静謐の夜だった。
秒速290メートルという、音速をギリギリ超えない速度で放たれた亜音速弾が、悪魔の額を貫いていく。静寂なる消音狙撃銃『ヴィントレス』。有効射程距離は600メートル。マガジンに装填されている銃弾は10発。射出されるのは、対悪魔用に特注した純銀弾。フルオートでの射撃も可能で、空間を薙ぐように引き金を絞れば、目の前にいる悪魔たちを、まとめて一掃していく。
「はい、次っ!」
地面に落ちていたヴァイオリンケースを踏みつけて、その反動で予備のマガジンを上へと弾き出す。
銃弾の入ったマガジンが、目の前でゆっくりと回っている。悪魔が迫る。装着されている空のマガジンを外して、新しいマガジンに手を伸ばす。悪魔が迫る。迷いのない動作でマガジンを装着して、初弾を装填。薬室に悪魔を殺すための銃弾が送り込まれる。
悪魔が迫る。
悪魔が迫る。
悪魔が叫ぶ。
悪魔が叫ぶ。
銀の銃弾を撃ち込まれて、悪魔が悲鳴を上げていく。
怯む悪魔たち。襲撃しているのは銀髪の少女。驚きに動きが止まった悪魔から、順番に銃弾を撃ち込んでいく。無駄がなく、躊躇もなく、ただ粛々と。大勢の悪魔たちを相手にして、少女が次々と屠っていく。
「おらっ、次ぃっ!」
ヴァイオリンケースを蹴り上げて、次のマガジンを取り出す。それを空中で掴み、再装填。徐々に動きが鈍くなっていく悪魔たちに向かって、少女は銃口を向ける。
引き金を絞り、悪魔を撃ち倒す。
その圧倒的な戦い方に、悪魔たちが二の足を踏んでいく。
恐怖する悪魔たち。
狂喜する銀髪の少女。
闇夜に姿を隠す、人間たちの悪意の象徴。
そんな悪魔たちに対して、少女は消音狙撃銃を斜めに構えて、スコープ越しではなく肉眼で狙いをつけていく。動揺している悪魔たちの攻撃を搔い潜り、背後に回ってから後頭部に一発。黒い塵となって消えていく死体に紛れながら、左右にいた獣の悪魔たちに風穴を開ける。
銃声のしない銃声が。
わずかに排出されるガス音と、銃弾の火薬を着火するために叩かれる撃鉄の音だけが。
彼らの鎮魂歌であった。
いや、正確には。
それだけの隠密性を台無しにする行為が。今、彼らの目の前で行われいるのだが。
「はーっはっはは! やっぱり悪魔をブチのめすのは最高だぜ! これだから弱い者イジメはやめられない!」
悪魔たちが恐怖する前で。
銀髪の少女が、勝利の高笑いを上げていた。
これまでだって、いろんな悪魔と戦ってきた。人の形をしていないもの。影のように形のないもの。歌うだけで逃げてばかりの奴もいたし、憎むべき悪意をもった奴もいた。
だが、どんな逆境であっても。
活路を見出して戦ってきた。悪魔たちを倒し続けてきた。ブチのめしてきた。ブッ殺してきた。これからだってそうだ。何があっても諦めない気持ちが大切なのだ。……たぶん。
「はっはっは、どうした? もう終わりなのか?」
にやり、と少女が笑って。
悪魔たちが、脂汗を滲ませる。
こんな小さい少女が。誰かが守らなくてはいけないような華奢な少女が。何十体の悪魔を相手にして、一歩も引かない。圧倒している。その事実に、魔女に呼び出されていた悪魔たちが戦慄する。果たして自分たちは、何と戦っているのか、と。
「ほらほら、次いくよ! 死にたい奴から掛かってきなさい!」
にやっ、と強者の笑みを浮かべて。
悪魔の眉間に狙いを定める。
怯える悪魔。
それを見て笑う少女。
そして、ゆっくりと引き金の指に力をいれて。
……かたんっ、と軽い空打ちの音がした。