♯45.Re:JAZZ & Silver GIRL①(ナタリア・ヴィントレスは再び舞い踊る)
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切っても切れない、それが人の縁だろう。
だから、自分から消えようとしていた。
それなのに探してくれる人たちがいた。守ろうとした少女がいた。それを現実と繋いでくれやがった悪魔卿がいた。
こんな自分には、居場所なんかないと思っていたのに。
覚えてくれた人たちがいた。
必要だと言ってくれた。
それだけでー
「ほんと、余計なことを。私なんて、いなくなってしまえば良かったのに」
魔女アラクネが目を見開いている
そのすぐ隣を。通り越すように、ゆっくりと歩いていく。
透き通る銀色の髪。華奢な体。足取りは軽く、歩くたびに学園の制服が揺れる。スカートの裾からは、太ももに隠してある小型の銃『デリンジャー』がちらりと見えた。その少女は、倒れている者たちを見て、静かに呟いた。
「……よくわからないんだけど。本当に、わからないんだけどさ」
傷だらけで倒れている、アーサー会長。
大好きな少女を守ろうとして倒れた、ジンタ君。
そんな彼に守られながらも倒れている、アンジェちゃん。
かつての威圧感がなくなり、その身体までも利用されそうになっていた、ミーシャ先輩。
その光景を見れば、胸の内に火が宿るのも当然だ。
言葉も名前もいらない、身を焦がすような情動。
「あれ? カゲトラは?」
「顔に火傷がある坊やなら、外にいたぞ。なんかアパートの屋上から飛び降りて、足を捻ったとか」
「あー、相変わらず無茶苦茶ですね。それにしても『S』主任までいるなんて予想外ですよ」
なんだ。可愛い部下を迎えに来てはいけないのか。そう言って、『S』主任が火をつけていない煙草を噛む。手にしたヴァイオリンケースを見せつけるように掲げると、その少女は嬉しそうに微笑んだ。
「……手出しは無用ですからね」
「当たり前だ。お前は私の部下だ。あんな半端者に負けるわけがない」
その少女は。
そのどこにでもいるような銀髪の少女は。
ようやく、魔女アラクネのことを見た。
「わからないけどさ、今の私はとても不機嫌だ。腹の底から煮えくり返っていて、どうにかなってしまいそうなほどに」
たぶん、許せないんだ。
お前がいることに。
お前が存在することに。
お前が当然のようにそこに立っていることに。
お前が仲間たちを傷つけて何も感じていないことに。お前がこれまでに何人もの人を殺めてきたことに。お前が悪魔を呼び出した犯人であることに。お前が原因で『彼女』を巻き込んでしまったことに。
お前が。
お前が。
お前が、ナタリア・ヴィントレスという普通の少女を。その人生を無茶苦茶にしたことに。
私は何があっても。
許せないんだ。
「……私の名前は、ナタリア・ヴィントレス。東側陣営の諜報員であり、悪魔を狩る組織『No.』の下っ端。私を必要としてくれた仲間のために、私を送り出してくれた彼女のために、私を繋ぎとめてくれたお節介な奴らのために。……お前をぶっ飛ばす」
瞬間。
魔女アラクネは彼女のことを見失い。そして、気が付いたときには。
……懐から、強烈な蹴りが下顎へと炸裂していた。