♯21.Missing song ⑤(失われたものを求めて。ジンタの場合)
――◇――◇――◇――◇――◇――◇――
――カラカラ、カラカラ。
映画館でフィルムが空回りする。
シアターには何も映されていない。
真っ白な風景だけが、どこか他人事のように広がっていた。
……いろんな人と出会った気がする。
東側陣営のスパイとして活動して。
学園に少女として通うことになって。
悪魔との戦いの中で、様々な出会いがあった。
良い奴もいたと思う。
気の合う者もいたと思う。
中には、鼻につく嫌な仕事人間もいたかもしれない。
その全てを忘れてしまっている。
それなのに―
なぜ、彼らは。『私』のことを探しているのか。
――カラカラ、カラカラ。
映画館でフィルムが空回りする。
私の目には、何も映っていないというのに。
――◇――◇――◇――◇――◇――◇――
ジンタとは、異世界放浪者である。
別の世界から来た普通の少年。特別な力などなく、あるのは胸にある熱い信念だけ。それは、……美少女にモテたい。もっていえば、美少女に囲まれてハーレム暮らしをしながら、突然目覚めたチート能力で楽に暮らして、働くことなくダラダラと生きていたい、と。
そんな彼だったが、今は一人で。
首都の寂れた路地を歩いている。
誰かを探しているように、キョロキョロと辺りを見渡す。この首都に来て、ノリと気合いだけで乗り越えてきたが、それもたった一人の少女を救うためのものだった。それから、いつも自分の傍を離れなかった少女が、どこにもいない。
……アンジェは、どこにいった?
蜂蜜色の髪のした少女。
周りの人間を不幸にしてしまう能力のせいで、普段は一人で行動なんかしないのに。
ナタリアという友達を探しているのだろうか。
あの美人スパイの話によれば、ナタリアという女の子はなかなかの美少女であるらしいが。どうしてか、彼の気分は乗らなかった。きっと、恐らく。心のどこかで覚えているのだ。そのナタリアは、とてつもなく厄介で面倒くさい性格であったことを。
しかし、あのアンジェが一人で行動をしているということは、それだけの覚悟があってのことだ。誰よりも心が優しいあの子は、他人が傷つくことを何よりも恐れている。そんな彼女が、唯一、自分の能力を抑えられる自分から離れていったということは。
「嫌な予感がする」
ジンタは足早に首都の路地を探していく。
だが、彼女がいたような痕跡は見つからない。
遠くから鐘が鳴る。ノートルダム大聖堂の時を知らせる鐘だ。今夜の決戦となる場所だ。
……アンジェ。
……まさか、お前。
ジンタの不安が胸中に膨れ上がり、悪いほうへと考えが進んでいく。
彼は、彼のやり方で。
自分たちが再会すべき友達のことを、必死に探している。