164/205
♯16.Missing song ⓪(失われたものを求めて…)
――◇――◇――◇――◇――◇――◇――
……どこからか、声が聞こえる。
ふわふわとした浮遊感が、思考を曖昧なものにしていく。
何も感じない。何も見えない。何も思い出せない。何もー
それなのに、どこからか。
私のことを呼ぶ声がする。
本当の私など、嘘にまみれた偽りの人間だというのに。
それなのに、私のことを探している。
なぜ?
どうして?
そんな簡単な疑問にさえ、私は答えを見出すことができず。ただ、眠るように、身を委ねている。
――カラカラ、カラカラ。
――カラカラ、カラカラ。
映画館のフィルムが空回りする音が、まるで子守歌のようだった。
――◇――◇――◇――◇――◇――◇――
「アラクネ? いやー、聞いたことない名前ですね」
「そうか。君たちでも知らないのか」
窓の外で流れていく街の風景を、アーサーは片肘をつきながら答えた。
街中を走る防弾使用の高級車。助手席に座った黒服の男が、話しながら後部座席に振り返る。首都の街並みは、いつものように平和だ。
だが、それも今夜までだ。
夜になったら、この街は戦場となる。