#2.Tank!②(オウガイ・モリ・ブラッド卿は、新しい玩具で遊びたくて仕方ない)
己や他者の命を火種に、黒い炎を操る。
それが悪魔卿である、ルートヴィッヒ卿の能力であった。
「ふむ。ヴィルヘルム卿も、ルードヴィヒ卿も。まるで他者の話を聞きませんなぁ。某の言葉遊びに付き合ってくれるのは、エドガー卿だけですよ」
「くくっ。私だけではなく、アラクネ女史も喜んで付き合ってくれるのでは?」
浅黒い肌の悪魔卿が嫌味な笑みを滲ませると、文学青年のようなオウガイ卿は、その顔を嫌悪感に染める。
「あー、残念ながら。足が7本以上ある生物とは仲良くするつもりはありませんねぇ」
それに彼女は。
人間たちに捕まって、厳重に監視されているのでは?
……と、他人事のように問いながら、老紳士の悪魔卿を覗き見る。悪魔たちと親睦が深いその女性は、悪魔を狩る組織、13人の悪魔を狩る者によって幽閉されている。
だが、当事者であるはずの老紳士は、嘆かわしいと言わんばかりに無視をしていた。
「……まぁ、いいでしょう。本題に入ります。結論から言いますと、皆さんとは一時的な停戦協定を提案したいのです。えぇ、ありていに言ってしまえば―」
オウガイ・モリ・ブラッド卿は。
その優しそうな文学青年の外面に隠した、ドス黒い笑みを滲ませた。
「……これから某がすることに手出しをしないよう。お願いしたいのです」
オウガイ・モリ・ブラッド卿の言葉に。
他の悪魔卿たちは、一斉に首を傾げた。
「はぁ?」
「……」
「ふん、たわけが」
手を出すな、と言われても。
元々、互いに干渉する間柄でもなければ、敵対する立場でもない。好き勝手に生きて、好き勝手に人間を弄ぶ。
それが、悪魔の本質だ。
基本的に、自分以外の悪魔に興味など持たない。不干渉を越えた、無関心である。
それなのに、邪魔をするなとは。
いったい、どういう意味だろうか。わずかに興味を持った浅黒い肌の悪魔卿、エドガー卿が尋ねる。
「ふーん。これまで文学にしか興味のなかったのに、どういう風の吹き回しですか?」
「ふふっ、別に特別なことはなにも。ただ―」
話の内容が見えてこない他の悪魔卿たちを差し置いて、オウガイ・モリ・ブラッド卿は不気味な笑みを浮かべる。
「私にとって、ささやかな趣味みたいなものです。……えぇ、そうですとも。卿たちにも、その内にわかると思います。某は、新しく手に入れた玩具で早く遊びたい。そんな童心に返ってしまっている気分なのです」
特に、ヴィルヘルム卿。
貴方が関わっている人間たちは、某にとっても脅威のなりますからねぇ。そんなことを口にする同輩に、厳格な老紳士は嘆かわしいと呟く。
他の悪魔卿たちも、面白くないというような態度を取る。そして、彼らを呼び集めた、オウガイ・モリ・ブラッド卿の本人は。
「ふふっ、あははっ。これで彼女は某のものになる。あの少女の内面に眠る物語を、何百年と掛けて読み解くとしましょうか!」
ふはははっ、と邪悪な笑みを浮かべながら。
悦楽へと、溺れていった。
身体の隅から隅まで。爪の裏から、髪の毛の一本に至るまで、彼女の物語を味わい尽くしたい。
……絶対に手放さない。
「嗚呼、愛おしのナタリア・ヴィントレス嬢! 今すぐ、お迎えに行きますよ。この世界が終わるまで、某の本棚に並べて差し上げます! あはっ、あははは!」
オウガイ・モリ・ブラッド卿は。
新しい玩具で遊びたくて仕方なかった―