表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/205

#8. Welcome to …(ようこそ。問題児ばかりの秘密組織へ)


 襲ってくる悪魔の大蜘蛛に向けて、引き金を引く。

 パンパンッ、と軽い銃声がして、蜘蛛の頭は大きくのけぞった。


 だが、やはりというべきか。

 この程度の威力では、この悪魔を倒すことはできなかった。頭を撃たれたはずの大蜘蛛は、わずかに態勢を崩しただけで、すぐに起き上がってくる。


「ちっ、やっぱりダメか!」


 私は慣れた手つきで、銃弾を再装填。

 周囲の危険に視線を配りながら、再び大蜘蛛に向けて銃を構える。そんな私に、さっきの黒服たちが両脇から援護につく。


「ひゅー、やるな。なかなかいい腕をしてるじゃねーか」


「だが、残念だったな。そんな威力では、奴らを倒すことはできない。悪魔を倒すには大口径の銃火器か、もしくは『銀』の銃弾が必要だ」


 そう言って、黒服たちは口笛を吹きながら。彼らが手にしていた物騒な銃を悪魔たちに向ける。そのまま息を合わせて、次々と銃弾を放っていった。ダンッ、ダンッ、ダンッ、と無駄撃ちもせず、正確にヘッドショットしていく。


「ケタケタケタ、無駄だ! ガキ共め。俺様たち悪魔に歯向かったことを後悔しながら死んでいけ!」


 最初に窓から入ってきた悪魔が、耳障りな声で笑っている。

 だが、そちらへと見るほどの余裕もない。私は自分の身の安全のために、必死になって『デリンジャー』を撃ち続ける。


「(……くそぅ! こんなことなら、『S』主任に、もっと強力な武器を申請しておくべきだった!)」


 私が心の中で悪態をつくと、今度はゼリー状の悪魔が身震いをさせて、こちらへと襲い掛かってくる


 ……やばっ、これは避けられない。

 私は思わず身構えてしまう。だが、その直前。予期せぬ方向から声をかけられていた。


「あー、うるさい」


 声の主は、ソファーでくつろいでいた黒髪の少女だった。彼女は不機嫌そうに呟きながらも、ゆっくりとこちらに歩いてくる。そして、ブツブツと呪文のようなものを口にすると、……足元に、淡い輝きをまとわせた。

 

 それは、円形の幾何学模様。

 この国では珍しくはない特別な才能、……『魔法』だ。彼女が足元に展開させているのは、魔法を使う前に発現する魔法陣であった。


「消えなさい、このクズ悪魔が」


 そして、黒髪の美女が、淡く輝く手で、そっと悪魔をひと撫ですると。ゼリー状の悪魔は、奇声のような声を上げて消滅していった。


「……は」


 また、理解が追い付かない。

 さっきの不良の男子生徒といい、この黒髪の少女といい。常識の斜め上を、軽々と越えていく。ぽかん、と口を開いたままの私に、アーサー会長が微笑みながら声をかけてくる。


「あぁ、まだ君には紹介していなかったね。彼女の名前は、ミーシャ。皆からは、ミーシャ姫と呼ばれて親しまれているよ」


 アーサー会長の軽妙な声に、ミーシャと紹介された美女は彼を睨む。


「ミーシャは、この学園の三年生だから、君の先輩だね。少し前までは進学科の優等生だったんだけど、セクハラ教師を病院送りにしちゃってね。今は普通科でのんびりやっている。……あぁ、特技は悪魔をブチ殺すこと。性格以外は完璧な『悪魔殺しシンデレラ』だよ」


「……は?」


「そして、最初に悪魔を殴り飛ばしたのが、カゲトラ・ウォーナックル。君と同じ普通科の二年生だね。『スレッジハンマー流喧嘩術』の使い手で、素手で悪魔をぶっ飛ばすことができる。まぁ、この間まで警察の留置所にいたけど、あまり気にしないであげてね」」


「はぁ!?」


 なんだ、こいつら!?

 まともな人間が、ひとりもいないじゃないか!? てか、この黒髪の美女さん。廊下でぶつかりそうになって、パンを落とした人じゃないか。まさか、こんな危険人物だったなんて!


「くっ、だとしても! この状況を何とかできるわけが―」


 この場に呼び出された悪魔の数は30体。

 特殊な能力を持っている人間がいたとしても、とてもじゃないが、どうにかできるわけがない。何とかして悪魔を退ける方法を、……いや、最悪の場合は、全員が逃げられるように逃走経路を確保しなくちゃ。


 そんなことを、考えていた。

 人間では悪魔に勝てない。そんな常識が私にはあった。

 当然だろう。相手は悪魔だ。異形の怪物。常識から外れた存在。人間が戦っても勝てるわけがない


 ……そのはずだった。

 ……そう、あるべきだった。

 ……否。そうでなくてはいけないのだ。


 異形の悪魔たちに囲まれて、まともに生き残れる人間など、どれほどいるだろうか。


 アーサー会長も、あの火傷の跡のある不良男子も、黒髪の美女先輩も。やたら冷静だったけど、どんな苦戦をしいられているのか。私は恐る恐る、そちらのほうを見る。



 ……見てから、すごく後悔してしまった。



「おら、おら、おら! 悪魔だか何だか知らねーが、ウチの大将に手を出そうなんて。良い度胸じゃねーか。あん?」


「ぎゃぶっ! ごふっ! あぎゃぱ! ……す、すみませんでした。二度とこんな真似をしないんで、許してくれませんか? いや、ほんとマジで」


 最初に窓から飛び込んできた、四本足の異形の悪魔。

 その悪魔が、床に倒されたまま、ボコボコに殴られていた。あの顔に火傷の跡がある不良男子が、悪魔に馬乗りになって、無表情のまま見下ろす。


「あ? よく聞こえねぇな? もっとハッキリと言えや」


 ああ、無情。

 私の目の前に広がっている光景は、命乞いをしている悪魔の姿だった。


 よくよく見渡せば。他の悪魔たちも、見るも無残な姿になっていた。上半身が壁にめり込んでいる奴。天井から白目になってぶら下がってる奴。部屋の片隅でぶるぶると震えている奴。両手を胸に当てて昇天しかかっている奴。


「(……あれ? あれれー、おかしいなぁ。悪魔との戦いって、もっと違うものを想像してたんだけどなぁ」」


 呆然としている私を見かねてか。

 黒髪のミーシャ先輩は、気だるそうに言った。


「まぁ、何の計画もなく。ここを襲撃したところで、結果はわかりきっていたけどね。この『時計塔』に所属している『No.ナンバーズ』は、それこそ常識の通じない問題児ばかりだからさ」


 そうやって話している片手間に、割れた窓から逃げようとする悪魔にトドメを刺す。彼女の手に触れた途端、悪魔は悲しそうな悲鳴を上げて塵へと変わっていく。


 逃げ道を探して慌てている悪魔たち。だが、逃げ場などない。ここにいる彼らの視線が、それを物語っていた。


 ……この国に実在した『悪魔』の存在。

 ……そして、そんな悪魔と戦う。時計塔の『No.ナンバーズ』と呼ばれる学園の生徒たち。


 悪魔たちが泣きながら逃げている姿を見て、上司の『S』主任になんて説明すればいいのか、私は頭を悩ませてしまう。うーん、ありのままを報告したところで、絶対に信じてもらえないだろうしなぁ。自分の置かれた状況。少女になってしまったスパイとして、果たして何をするべきか。


 もっとも、本当の意味で。

 自分の置かれた状況を知るのは、このすぐ後のことなのだが。


「やれやれ、礼儀のないお客さんたちで困ったものだよ。怪我はないかい、ナタリアさん?」


「え、えぇ。大丈夫です」


 そう言って、私は。

 無警戒にも、この王子様のようなアーサー会長が差し出した手を取る。


 そして、ぎゅっと手を握られた。

 もう、離さない。と言わんばかりに。


「ふふふ、君も災難な人間だね。僕も同情してしまうよ」


 にこっ、と黒光りする微笑みを浮かべながら、アーサー会長は続ける。


「でも、知ってしまったからには仕方ない。君には、僕たちの手伝いをしてもらうからね。もちろん、拒否権はないよ。逃げ出そうとしたなら、地獄の果てまで追いかけて、ここに連れ戻しにいくから」


「へ?」


 さぁぁ、と私の顔から血の気がなくなっていく。

 悪魔たちの泣く声が、遠くに聞こえるほど。


「ふふ、ようこそ。ろくでなしの問題児をかき集めた、時計塔の『No.ナンバーズ』へ。銃の扱いには慣れているみたいだし、歓迎するよ。君のことは奴隷、……いや、大切な仲間としてコキ使ってあげるから」


 放課後は、必ずここに顔に出すように。いいね?

 そんなお願い(という名の脅迫)と突きつけられて、ぺたんと地面に座り込む。こんな化け物みたいな人たちと、一緒に行動しろと!?


 黒い微笑みを浮かべている、王子様のようなアーサー会長。

 逃げる悪魔を執拗に追いかけている、火傷の跡のあるカゲトラ。

 もはや、何事もなかったようにファッション雑誌を広げている、長い黒髪のミーシャ先輩。


 そんな部屋の中でも、清掃班とやらと無線で連絡を取り合っている、二人の黒服たち。


「(……あ、これ。絶対にダメなやつだ)」


 その日、私はめでたく。

 悪魔と戦う組織、『 No.ナンバーズ 』の下っ端として、無理やり協力させられることになった。

 さようなら、私の平凡な日常。

 そして、こんにちは。狂ったような騒がしい非日常。


「(……ぐすん。泣いてもいいよね。だって、女の子だもん!)」



Chapter 2:~NO.(ナンバーズ。問題児ばかりの秘密組織)~


 ―了―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 殆ど役に立っていないまま、巻き添えでメンバー入り決定。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ