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#1.Tank!①(オウガイ・モリ・ブラッド卿は、新しい玩具で遊びたくて仕方ない)

挿絵(By みてみん)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「さて。こうして皆々が顔を合わせるのは、いつ以来でしょうか?」


 浅黒い肌の男が、嫌味な笑みを浮かべながら口を開く。

 第一印象は、異国情緒のある美青年。浅黒い肌に色気のある流し目。高級ホテルのドレスコードでも通用しそうな燕尾服を着ていて、瞳の下には逆向きになった星が刻まれている。


 どんな女性でも恋に落ちてしまいそうな、そんな悪魔のような美貌の男であった。


 否、男は悪魔・・だった。


 二年前に起きた、とある怪奇事件。『悪魔の証明事件』。その出来事により、この首都には悪魔が溢れるようになっていた。自分たちの快楽を求めて、社会の裏で暗躍する悪魔たち。人間たちを利用して、ひっそりと自分たちの欲望を満たす。そして、そんな悪魔さえ恐れているのが、この場にいる五人の悪魔卿ロードたちだった。


 人類の敵。

 あらゆる悪魔の超越存在。

 悪魔を討伐する秘密組織である、13人の悪グリム魔を狩る者・リーパーでさえ勝つことができない。


 悪魔卿ロードたちは、それぞれ相手を見下すような態度で言葉を交わしている。そして、お互いのことを嘲笑して、静かの罵倒する。


 ……彼らは、とても仲が悪かった。


「ふん、嘆かわしい。このようなことに時間を割かなくてはならんとは」


「……、……」


「ふふっ。ルートヴィッヒ卿は今日も無言ですか。聴覚を失った卿には、同類である某も胸を痛めます」


 そう言ったのは、東洋風の服装をした悪魔卿だった。

 オウガイ・モリ・ブラッド卿。

 人間の書く文学をこよなく愛し、それを貯蔵・保管することに異常な情熱を注いでいる悪魔卿ロードだ。外見は、純朴そうな文学青年。袴と呼ばれる東風の装いに、大きな円眼鏡。彼の名前も偉大な文豪から拝借している。


 それほどまでに、人の文学を愛して、文学のある世界を慈しんだ。


「皆さまも、心を落ち着けるために文学を嗜んでみてはいかがです。ちょうど、ここに『こころ』という名作がありますよ?」


 オウガイ・モリ・ブラッド卿が丸眼鏡の奥にある瞳を、優しそうに細めた。


 ……悪魔卿ロードたちは、歪んだ愛情を抱えている集まりだ。

 最初に口を開いた浅黒い肌をした男、悪魔卿のエドガー卿。絵画などの芸術に趣向を持っていて、国立美術館を襲撃しておきながら、そこの名誉鑑定員もしている。

 獣の骨を被って何も喋らない男、悪魔卿のルートヴィッヒ卿。人間の復讐心に最大限の敬意を払っていて、今も死にかけている青年に己の能力の一部を分け与えている。


 そして、もう一人。

 眉間に皺を寄せて、事あるごとに溜息をつく悪魔卿が、何度目になるかはわからない悪態をつく。


「ふん、無駄話は必要ないだろう。まったく、嘆かわしい」


 外見は、老年の紳士だった。

 厳格な顔つきに、落ち着いた物腰。人間にしては身長が高く、体格も良いが、整った身なりが、さらに厳格な雰囲気を強くさせている。

 彼の名前は、悪魔卿のヴィルヘルム卿。他の悪魔卿(ロード)とは異なり、人間と協力して活動する悪魔であった。


「さっさと要件を言え。このたわけが。儂とて暇ではないのだ」


 老紳士の悪魔卿が痺れを切らすと、彼らを招集した男が肩をすくめながら口を開く。ゆらゆらと袴の袖を揺らしながら。


「やれやれ、ご老体はせっかちで良くない。試しに、某が愛好している書物でも読んでみたら如何かな? これなぞ、オススメですよ。極東の島国でベストセラーの『吾輩は猫である』―」


 オウガイ・モリ・ブラッド卿が何もない空間から一冊の書物を取り出すと、厳格な老紳士の元へと滑らせる。


 その直後。

 黒い炎によって、本が燃え尽きた。


 瞬く間に灰になっていく書物の奥には、獣の骨を被った悪魔卿(ロード)が無言で睨んでいた―

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― 新着の感想 ―
[一言] 5人の悪魔卿が一同に介して、何が始まるんだろうか。 アンジュが危ない予感が。
[一言] こっちは久々だなあ クセがスゴいやつしかいないな
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