♯6(裏側).With l■ve fr■■ the E■st !! ~(東よ■、愛を■■て梧悄逕
……むっ。
……某の気配を感づかれたか。
男が開いている本のページが、黒い影によって飲み込まれつつあった。現世とは異なる場世から観察していたはずなのに、まさか逆に攻撃してくるとは。さすがは、稀代の魔女というべきか。
その男は、東洋の文豪といった装いだった。
男物の袴に、線の細い丸眼鏡。表情は穏やかだが、その瞳には底知れない本心を窺わせている。真っ白な何もない空間に存在する、この男は。それだけで、どこか異質な雰囲気を隠せていない。
男は、影の飲まれているページを破り捨てると、その本を丁寧に閉じた。銀色の装丁に、黄金の文字が縫い込まれている。背表紙には、ただ一言。とある少女の名前だけが記載されていた。
……ふむ、実に興味がそそられる。
絵画にしか興味を持たなかった、我が旧友。エドガー・ブラッド卿に、別の価値観を示すなど、どのような人間なのかと思ったが。ここ最近の彼女の物語を読ませてもらった。
タピオカミルクティーの恨みを晴らすべく、友人を襲ったり。
潰れかけの洋菓子店を盛り上げるために、客たちを先導するような行動をとったり。
本業であるスパイに関しては、まるっきり役に立たなかったという。そんな少女の物語を、ずっと第三者視点で見てきた。
……なんと。
……なんと、愚かで騒々しい人物なのだろう。
エドガー・ブラッド卿が手を焼くのも頷ける。
あの少女は正しく、この世界の仕組みを理解している。
この世界は、幾重にも重なった物語で成り立っている。
登場人物のひとりひとりに物語があり、それが他者の物語と交じり合って、更なる展開を広げていく。喜劇も、悲劇も、惨劇も、ハッピーエンドも、デッドエンドも。その全てが物語を構成する一因でしかない。
そんな世界が、某は心から愛おしい。
何度も何度も、読み返したい衝動を抑えられない。
自分の気に入った物語を、常に手に届く場所へ保管しておきたい。何十年後、何百年後、某が忘れかけたときに、すぐにもう一度読めるように。
故に、某は。
その人物の物語を。
世界から『忘却』させて、某の元に『記録』させる。
それこそが、この愛に溢れた世界に対する。
無償の善行であると自負している。
「……ふふっ、愉しみだ。良い物語には、良い挿絵が付きものですからな。それが美しい少女ならば、なおさら―」
皺の目立つ指を絡ませて。
あの銀髪の少女のことを想う。
彼女を自分が独占できると思うと、後ろめたい気持ちが抑えられない。きっと、彼女は素晴らしい挿絵へとなってくれるだろう。
……某の名は、オウガイ=モリ・ブラッド卿。
……『忘却』と『記録』の悪魔卿である。
『Chapter19:END?』
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