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#7. DEMON Battle(初戦)


「さて、久しぶりのお客さんだね」


 アーサー会長が悠然と立ち上がって、執務用のデスクに手をかける。それと同時に、……この部屋の窓ガラスが盛大に砕けていった。


「にゅああっ!?」


 私は奇妙な悲鳴を上げながら、縛られたイスごと床に倒されてる。ちょ、ちょっと待って! 私、逃げられないんだけど!?

 じたばたともがいている私に、今度は黒服たちが守るようにしゃがみこむ。


「ちっ! 向こうが本命かよ。ってことは、この嬢ちゃんは本当に無関係なのか!?」


 黒服の一人はそう言って、ポケットから取り出したナイフで縛ってある縄を切る。自由になった手足を摩りながら、私は改めて部屋の中を見渡した。


 先ほど、窓ガラスにへばりついていた異形の化け物。それが、窓ガラスを割って、部屋の中に入ってきていた。中央のガラステーブルを踏み潰しながら、愉快そうに部屋を見渡していく。


 そして、アーサー会長のことを見つけると。

 その鉤爪のような手で、彼の首を絞めた。


「ケタケタ、ケタケタケタ! ようやく見つけたぞ、『時計塔』のアーサーっ! 貴様ごとき人間がぁ、俺様のおもちゃを奪いやがって!」


「おもちゃ? マフィアの幹部を操って、大勢の人を不幸にすることが、あなたの遊びだと? ……ずいぶんと幼稚な遊びですね、『悪魔』よ」


 悪魔!?

 私は驚きながら、その目を見開かせる。


 あの夜。

 まだ、私がナタリア・ヴィントレスではなく。降り注ぐ瓦礫から彼女を守ろうとした夜。私は悪魔に追われた。そして、そこにいる顔に火傷のある男子生徒に救われた。

 あの日の出来事が、夢とか勘違いとか、そんなふうに思ったことはない。だが、こうして改めて異形の存在と対峙すると、現実であったのだと実感してしまう。


「それに、あなたの邪魔をしたつもりはありませんよ。あなたが操っていたマフィアの幹部には、法律の元で公正な裁判を受けてもらいます。まぁ、一言で片づけると、……お前のような下っ端の悪魔は引っ込んでろ、ってことですよ」


 にこっ、と首を絞められた状態のアーサー会長が笑う。

 瞳に鋭い光を宿したまま。


「……それに、『ここ・・』に乗り込んでくるなんて、いい度胸をしていますね。あなた、ここがいったい何の場所なのか、知っているのですか?」


「ケタケタケタ! 知るわけねぇだろ。こんなガキが集まっている場所になんて、興味はねぇんだよ。お前さえ、ぶっ殺せれば!」


「そうですか。それは残念」


 ふふっ、とアーサー会長が笑う。

 そして、次の瞬間。


「ケタケタケタ! このまま絞め殺して、……ゲフッぁ!?」


 めきゃっ、という音と共に。

 ……悪魔の顔が歪んでいた。


 拳の形に頬が歪んで、ごふっと黒い血のような塵を吐き出す。

 顔に火傷のある不良男子が、悪魔の顔面をぶん殴っていた。そのまま吹き飛ばされた悪魔は、本棚の壁に打ち付けられて、ずるずると床に崩れ落ちていく。


「あー、悪い。話が終わるまで待っていようと思ったんだが、五秒しか我慢できなかったぜ」


 ぼりぼりと火傷の跡のある男が、申し訳なさそうに頭をかく。

 そんな彼に礼を言うと、アーサー会長がにこやかな笑みで説明をする。


「……ここはノイシュタン学園の『時計塔』。お前たち悪魔から学生を守り、そして悪魔を打ち倒す者たちが集う場所。……ようこそ、国内の手をつけられない問題児・ろくでなしが集められた秘密組織へ。我ら『NO.ナンバーズ』が盛大に歓迎しますよ」


 何が起きたのか、よく理解できなかった。

 いや、実際に目の前で見ていたんだから、何があったのかはよくわかった。だが、あまりにも理解の範疇を越えている。


 見たものを、ありのまま言うと。

 人間よりもはるかに大きな怪物を、不良の男子生徒が一撃でぶっ飛ばしていた。何を言っているか、よくわからないかもしれない。あまりにも非現実的な展開に、頭がどうにかなりそうだ。


 そんな私の混乱などお構いなしに。

 アーサー会長は感心したような、そして呆れたような態度で言った。


「カゲトラ君。喧嘩っ早いのはいいけど、少しくらいは会話をさせてもらいたかったね」


「……む。次からは気をつけよう」


 カゲトラと呼ばれた不良男子は、ボリボリと頭をかきながら倒れている悪魔へと向かっていく。


「トドメは、刺していいんだよな?」


「うん、そうだね。相手は悪魔だから、遠慮はいらないよ」


 ニコニコと黒い星を輝かせながら、アーサー会長は床に崩れ落ちて動かない悪魔を笑顔で見る。


 ……が、その時だった。

 びくんっ、と床に倒れている悪魔が痙攣すると。その長い首を上げて、こちらを見た。


「ケ、ケタ、ケタケタケタ! やるじゃないか、人間のくせに。そうじゃなくちゃ面白くない!」


 悪魔の顔に、ピキピキとヒビが入っていく。

 そして、その顔が割られた瞬間。この部屋は、黒い影に覆われていた。


「っ、なに、これ!?」


 私が慌てて飛びのぞけるも、黒い影は床や天井を覆っていき、部屋全体を包み込んでいく。


「ケタケタケタ! これは復讐なんだよ! 貴様に邪魔をされた、俺の仲間たちが。お前の首が欲しくて手を組むことにしたんだぜ! そう、ここにいる悪魔は俺様だけじゃねぇ!」


 暗闇に包まれた床や壁、天井から。むくむくと何かが姿を見せる。その数は、一体や二体ではなかった。


「ケ、ケ、ケタタタタ! ここにいる悪魔は、総勢30体! お前に邪魔され、お前たちに娯楽を奪われた悪魔たちが、復讐に来てやったんだ!」


 フシュシュシュ。

 ケケ、ケケケケケッ!


 様々な笑い声が、部屋中に反響する。

 暗闇から姿を現せた悪魔たちは、それぞれが異形の姿であった。八本足のクモみたいな奴、両腕から翼が生えている奴、一定の形を持たないゼリー状の奴。中には、人間に近い見た目をした奴もいたが、それどれもがこの世に存在することを許されない異形の姿だった。


「……てか、アーサー会長? いったい、どんなことをすれば、ここまでの恨みを買えるんですか!?」


「ん? 知りたいかい? 別に教えてあげてもいいけど、……やっぱり、知らないままのほうがいいと思うな」


 にこっ、と黒い星を浮かべながら笑顔で答える。

 あぁ、この人。絶対に、ろくでもないことをしてきたんだろうな、と私は静かに確信していた。


「それよりも、この状況ですよ! どうするつもりですか!?」


 異形の悪魔たちに囲まれて、私はパニックになりながら問い詰める。

 だけど、アーサー会長を含めて。

 その場にいる全員は冷静で、これくらいのことは日常茶飯事だ、と言わんばかりだった。


「う~ん、そうだね。とりあえず―」


 そう言って、アーサー会長はデスクに置いてあるスクールバックを手に取る。私のスクールバックだ。それを思いのほか丁寧に投げてくると、爽やかにウインクをした。


「ここで何が起きても責任は取らないから。自分の身は、自分で守ってね♪」


 ……。

 ……は?


 ぽかん、と口を開く私。

 だが、そんな猶予はわずかだった。突然、クモの形をした悪魔が、私に襲い掛かってきた。鎌みたいな両腕を振り上げて、こっちに飛び掛かってくる。


 ちょ、ちょっと待って!

 私は部外者なんです。こんな人たちとは無関係で、戦うこともできない普通の女の子なんですぅ! だから、私だけは見逃してください!


 なんてことを心の中で叫びながら、スクールバックの底に隠していた銃を抜き取る。

 二連発式の小型拳銃『デリンジャー』。予備の銃弾をスカートのポケットに詰め込みながら、飛び掛かってくる大蜘蛛に向けて、銃を構える。


「こんにゃろっ!」


 迷いなど、もちろん。あるはずもなかったー


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