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♯5.Milk-Tea Revenge(タピオカミルクティーの逆襲)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 その少女は、憎しみに燃えていた。


 だいたい一時間くらい前のこと。

 少女の鼻に、タピオカミルクティーのストローを突っ込んだ馬鹿野郎がいた。ミルクティーの入った紙コップを握り潰して、ストローを通って逆流。もぎゅもぎゅと音を立てて、少女の小さな鼻に、タピオカが流し込まれていく。


 ……むせた。

 ……盛大にむせた。


 時計塔の執務室でごろごろと転がりながら悶絶する。やがて、激痛に耐えながらテッシュで鼻をかむと、その男は既に姿を消していたことに気がつく。


 カゲトラ君なら、不審火の悪魔を退治しにいったよ。

 ご丁寧に行く先を教えてくれた会長様に礼を言って、少女は執務室から出ていった。怒りにはらわたが煮えたぎっている。ぐつぐつ、ぐつぐつ。あぁ、この怒り。どうしてくれようものか。よりによって、この私に。誰もが認める超絶美少女(妄想)である私に、このような醜態をさらさせるとは。


 あぁ、許すまじ。

 カゲトラ、お前だけは。


 絶対に、許さん。

 タピオカを、その鼻に突っ込むまで。

 どこまでも追いかけてやるからな。


 そして、ナタリア・ヴィントレスという少女は。行きつけの喫茶店でタピオカミルクティーをテイクアウトすると、カゲトラを探して彷徨っていたのだ。


 そして、とうとう。

 その馬鹿野郎を見つけた。

 誰かと話している様子だった。その人物の背中に悪魔が憑りついていた。なんだかシリアスな雰囲気だった。

 だけど、まったく興味ないね! 

 例え、命のやり取りをしている深刻な状況であっても、少女が歩みを止めることはない。


 あの馬鹿野郎に、タピオカを突っ込むまでは!


「……ケケ、ケケケケケケ」


 銀髪の少女が、ふらふらと近寄ってくる。

 その手に握られた、喫茶店のロゴが入った紙コップが。何やら異様なオーラを放っていた。


「誰だい、あの子は? なんか、悪魔も裸足で逃げちゃいそうな危ない目をしているけど」


「知らん。赤の他人だ」


 カゲトラは即答した。

 例え、悪魔に魂を売った親友であろうとも、あんな人物と知り合いだと知られたくなかった。


「でも、君の名前を呼んでいたけど」


「知らんものは知らん。あんな危ない奴の仲間でいるくらいなら、お前の親友でいたほうがマシだ」


「うーん。喜んでいいのか微妙な発言だねぇ」


「ほらっ。さっさと喧嘩の続きを―、ん?」


 カゲトラが口を閉じる。

 ぞわり、と冷や汗が滲んだ。


「……あの女、どこにいった?」


「は? 何を言っているんだい? 銀髪の女の子なら、今も目の前に―、あれ?」


 シリウスが首を傾げる。

 二人の視線の先にあるのは、爆破されたガレージの光景だけだった。どこに行ったのかと、周囲を確認していると―



「あーそーぼー」



 足元から、声がした。

 慌ててカゲトラが下を見ると、少女が手に持ったストローつきの紙コップを突き上げているところだった。


「ケケケケッ!」


「ぬわっ! こいつ、いつの間に!?」


 カゲトラが慌てた声を上げる。

 そんな彼を見て、親友のシリウスも咄嗟に身構える。


「離れて、カゲトラ!」


 シリウスが持ち前の俊足で少女に迫る。

 そのまま、彼女の制服の襟首を掴もうとするが。……その寸前に、ひらりと躱されて。


「え」


 気がついたら、彼は空中に放り投げられていた。

 相手の腕力や勢いを利用する戦いは、少女ナタリアの得意とするところだった。そして、彼女は焦点を失った瞳で、にやりと笑うと。


「ケケケ、じゃま」


 もう片方で握っていたヴァイオリンケースから何かを取り出すと、無防備なシリウスに向かって投げる。

 まさか、爆弾か?

 危機感を覚えて、咄嗟に防御の態勢に入る。だが、その直後。少女の投げたものから、尋常ではない量の白煙が噴出していった。


 視界が全て、煙に覆われる。


「これは、……発煙手榴弾スモークグレネード?」


 着地したシリウスが、訝しげに呟く。

 どうして、こんな目つぶしのようなことを。そんなことを考えていると、煙の向こうから少女が飛び出して、ストローのついた紙コップで襲い掛かってきた。


「ケケケ! お前も、タピオカにしてやろうか!」



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― 新着の感想 ―
[一言] 悪魔すら引く復讐w
[一言] 前話で悪魔に取り憑かれたのかと思ったらまさか素だったとは ある意味タピオカの悪魔に取り憑かれてはいるが
[一言] 悪魔も引く逆襲(笑)
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