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『裏切者のLOST‐No.(ロスト・ナンバーズ)』 ~ナタリア・ヴィントレスは、今日も逃げ出したい~  作者: てばさきつよし
Chapter 15:~ Good luck , Your life with Happiness (さようなら、友よ)~
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#16.Kokoro Odoru(悪魔は、少女との戦いに愉悦を覚える)


「……この少女、厄介だな」


 悪魔卿のエドガー・ブラッド卿は、内心の苛立ちに思わず呟いていた。 


 決して、強いわけではない。

 先ほどの少年カゲトラのような強靭な肉体に恵まれているわけでもなく、あの天使の末裔ミーシャのような糞ったれな魔法(汚い言葉ですみませんね。私は悪魔なので、神に関係するものが大嫌いなのですよ)を使えるわけでもない。


 どこにでもいるような普通の少女。

 それなのに、私と同等と戦っている。

 少しずつ、私を追い込んでいく。


「ふんっ!」


 右手に大気を圧縮させて、空間ごと薙ぎ払う。

 生身の人間が直撃すれば、それこそ肉片になるほどの威力だ。鉄骨の建造物や、鋼鉄の戦車でさえ、深々と爪痕を残すだろう。


 だが、その一撃を目の当たりにしても。


「……」


 この銀髪の少女は、止まらない。

 一歩、引き下がったと思ったら、その場で半身を逸らせる。そして、私の右手に手を伸ばすと、とんっと軽く地面から跳躍する。


 大気がうねり、少女の体が宙に浮く。

 そのまま、大気の流れに逆らわないように、器用に体を捻らせると。

 踊り子のように舞いながら、私の死角へと消えていく。

 私が慌てて、その先へと視線を送るが。

 目に映ったのは、下顎から思いっきり蹴り上げられて、上体を逸らしながら見る空の景色だった。


「……まただ。こちらが攻撃したはずなのに、いつの間にかやられている」


 悪魔卿には理解できなかった。

 自分より遥かに弱きものであるはずの少女に、何もできずに追いつめられていくなんて。

 勇者でもなく、英雄でもなく、王族でもない。なんの特別な力を持っていない平凡な少女が、この私と対等に戦っている。


 その事実に、……心が震えた。


「ふ、ふふ」


 愉しい。

 嗚呼、愉しい。

 愉悦に身を焦がすのが悪魔の性分とはいえ、これほどまでに心が躍ったことがあっただろうか。


 彼女は、どこまでできる?

 どこまで、この私を追い詰められる?


 様々な画才たちが悪魔をモチーフにした作品を残してきたが、凡庸の少女が悪魔を追いつめている光景など、誰が想像しただろうか。


 ……知りたい。

 ……この少女が、どこまでできるのか知りたい。


 私は片手間で遊ぶことをやめて、本気で遊ぶことにする。


 両手をかざして、空間を圧縮させていく。

 大気を、光を、時間を握り潰す。

 そして、私の両手に現れたものは。すべてを食らいつくす、暴食の嵐ブラックホールであった。


「ッ!?」


 判断が早い。

 勘が鋭い。

 銀髪の少女は、私の手の内にあるものの危険性がわかったのか、これまでにないほどの警戒心を向けてくる。


 だが、それも終わりだ。

 私は、彼女に向けて。その暴食の嵐を解き放った。

 建物が砕けて、地面が捲れる。

 悲鳴すらかき消されるほどの暴風に、視界は黒く塗りつぶされていく。


 ……さて、貴女ならどう対応する?

 私は心の中でほくそ笑みながら、少女との戦闘を愉しむ。

 だが、その余裕は。

 一瞬にして、打ち砕かれていた。


「甘いわよ。このバカチンが」


「なっ!?」


 銀髪の少女は、私の懐へと踏み込んでいた。

 少女が持つには無骨すぎる銃を両手で構えて、私の心臓へと銃口を突き付けている。なぜだ? どうやって、この距離を詰めた? まさか。今の攻撃を、逆に利用して―


 その疑問に答える間もなく、少女は引き金を引いて。

 悪魔は少女に向けて反撃をしていた。

 聞こえない銃声と、耳障りな風音が。二人の間を激しくせめぎ合っていく。


 勝敗が着くまで、それほど時間は掛からなかった―



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[良い点] いつもの残念が嘘のようにつよいなあ姫
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