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『裏切者のLOST‐No.(ロスト・ナンバーズ)』 ~ナタリア・ヴィントレスは、今日も逃げ出したい~  作者: てばさきつよし
Chapter 15:~ Good luck , Your life with Happiness (さようなら、友よ)~
124/205

#15.VS LORD(悪魔卿との戦い)


 圧縮させた空気の壁か、それとも激しく捻じれる暴風雨の塊か。

 どちらにせよ、真正面からの銃撃が届かないのは、すでに分かっていることだった。


「ちっ!」


 私は空になったマガジンを投げ捨てて、ヴァイオリンケースから新しいマガジンを取り出す。


 再装着、初弾装填、射撃体勢。その一連の流れに迷いはない。

 熟練された、といってもよい。

 引き金に指をかけたまま、狙いを定める。腹立たしいことに、悪魔卿はそこから動こうとしなかった。やれやれと肩をすくめながら、呆れたような態度をとる。


「まったく理解できませんね。貴女ほどの人間が、どうして私と敵対するのですか? この場にいる人間の中で、最も思慮深い方だというのに」


「うっさい! 目の前で仲間がやられているのに、黙っていられるかっ!」


「勝てないと、わかっていても?」


「人間にはな。頭で考えるよりも、行動することが大切な瞬間があるんだよ!」


 勝てないからといって、この場から逃げ出して何になる?

 人間が独りでは生きていけないように、私も一人では生きていけないんだ。


 それくらい。

 こいつらが、大切なんだ。


「っ」


 私の背後で倒れている仲間たちを見る。

 全身から血を噴き出して気絶しているカゲトラに、顔面が蒼白になったまま気を失っているミーシャ先輩。他人だからといって、ここから逃げ出せるほど、私は非情になれなかった。

 自分ナタリアの命だけを最優先にしてきたはずなのに、いつの間にか。私にも、大切なものができてしまた。


「……重いよな、仲間って」


 私は『ヴィントレス』を構えなおして、再び銃口を悪魔卿へと向けた。

 覚悟を決めて、その視線に気迫を込める。

 銃口の先の悪魔が、訝しむように口を開く。


「わかりませんね。貴女にとって、私は無関係な存在でしょう。貴女は悪魔を狩ることを命じられているわけでもなく、恨みや復讐のために戦うタイプでもない。貴女は、何のために戦うつもりですか?」


「そんなこと、決まっている」


 引き金にかけた指に力を込めながら、私は大声で叫んだ。


「生きるだめだ! ナタリア・ヴィントレスとして、生きていくために!」


 パパパパッ!

 銃声のしない銃弾が、悪魔卿を襲う。

 だが、先ほどと同じように銃弾は何もない壁に撃ち落とされていく。銃弾は悪魔には届かない。


 違うのは、その悪魔卿の懐に。

 私が音もなく潜り込んでいたことだった。


「ほぅ」


 感心したような顔になる、悪魔卿のエドガー・ブラッド卿。

 その顔面に向かって、再び『ヴィントレス』を構えなおす。ゼロ距離からの射撃。これならば防ぎようがない。


「でも、甘いですね」


 悪魔卿は首を逸らしながら、私の持っている銃の先を片手で弾いた。

 銃弾は、誰もいない上空へと放たれる。

 余裕の表情を浮かべる悪魔。


 その顔面を、私は。

 ……力の限り、蹴り上げていた。


「は?」


 呆けた声が聞こえた。


 しかし、私は止まらない。

 蹴り上げた反動をそのままに、薙ぎ払うように『ヴィントレス』をフルオートでぶっ放す。2,3発だけ、悪魔卿へと迫り。その体をかすめていく。ブシュッ、と黒い血のようなものが吹き出た。


「むっ!?」


 悪魔は痛みに顔を歪めながらも、私へと右手を突き出す。

 大気の嵐をまとった、暴風のような一撃を。私は身体を逸らすだけで回避して、その悪魔の腕に逆らわず、舞うように回転して距離を詰める。そして、銃口を悪魔の腹に密着させると、マガジンに残っている銃弾を全て叩き込んだ。


「ぐぬぬっ!?」


 パスパスパスッ!

 銃弾は悪魔卿を貫いて、口から黒い血を吐く。

 それでも、私は止まらない。

 この程度では倒せないことを知っているのなら、ここで止まる理由はない。


「っ!」


 銃撃の反動をそのままに、悪魔卿の背後を取るように回る。まるで、ダンスのステップのように優雅に舞いながら、空のマガジンを外して新しいものを装填。残るマガジンは、あと一本だ。

 背中越しに悪魔の背後を取ると、わずかな隙もなく。『ヴィントレス』で悪魔の両足を撃ち抜く。がくっ、と態勢を崩した悪魔に、その脳髄に向かって引き金を絞る。


「この、調子に乗るなっ!!」


 悪魔が虫を振り払うように、大気を圧縮させた右腕を振り払う。

 大気がうなり、激しい衝撃が体を包む。

 その勢いに逆らうことなく、私は地面を蹴った。

 そして、そのまま空中で反転しながら悪魔の頭上を取ると。


「くたばれ」


 その驚愕している顔に向かって、引き金を絞った。


 音のない銃声がして。

 悪魔卿の絶叫が響いた―


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― 新着の感想 ―
[良い点] 流れるような動きだプロの本領発揮かな 早くきてくれ援軍
[一言] ナタリアさん快進撃、最後は眼にでも当たったかな。
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