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『裏切者のLOST‐No.(ロスト・ナンバーズ)』 ~ナタリア・ヴィントレスは、今日も逃げ出したい~  作者: てばさきつよし
Chapter 15:~ Good luck , Your life with Happiness (さようなら、友よ)~
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#11.Angel Fall(…そこにいたのは、一人の少女だった。)


「ミーシャ先輩っ!?」


 長い黒髪を風に靡かせながら、その先輩は静かに佇んでいた。

 ただし、その瞳に映る感情は。

 怒りと苛立ちに染まっていた。


「アーサーから、悪魔卿に注意しろって言われていたけど。まさか、こんなにも早く動き出すなんてね」


 彼女は不機嫌そうに呟いて、重々しい足取りで歩いていく。


 彼女の魔法。『断罪聖典』によって切り落とされ、燃えカスとなったものを。無造作に踏みつける。ガシュ、という木炭が砕ける音がした。


 そのまま、近くに倒れているカゲトラへと視線を向ける。完全に気を失っているのか、ミーシャ先輩の声にも反応しない。


「……勝てないとわかっていて、戦っているんじゃないわよ。この馬鹿トラが」


 少しだけ哀しそうな声になって、改めて悪魔卿の男を向かいあう。

 悪魔卿ロード、エドガー・ブラッド卿は、その様子を愉しそうに眺めている。失ったはずの右腕は、悪魔が腕を何回か振っただけで元通りになっている。その新しく生まれた右腕を見て、興味深そうに言った。


「先ほどの魔法は、人間のものではありませんね。……『天使の血』を継ぐものか。やれやれ、忌まわしき天使たちの権能ちから。現世に呼び出される度に、お前たちを相手にするのは。どうにも気乗りしませんね」


「は? 悪いけど、こっちは初対面なんだけど。勝手に人を値踏みしないでくれる?」


 足元に魔法陣を展開。

 神々しい輝きを放ちながら、ゆっくりとミーシャ先輩は歩みだす。

 そして、ふと。こちらを振り向くと―


「……ナタリアちゃん。カゲトラのこと、よろしくね?」


 いつも不機嫌そうなミーシャ先輩が、少しだけ優しそうな笑みを向けるのだった。


「ミーシャ先輩!気を付けてください! そいつ、本当にヤバいです!?」


「わかっているわよ。そこらの雑魚に、あのカゲトラが遅れをとるわけがないもの」


 私以上にカゲトラの実力を知っている先輩が、その表情を険しくさせる。

 もはや、その意識は目の前の悪魔にしか向けられていない。

 苛立ち、怒り。そして、憎悪。

 そんな負の感情を隠そうともせず、ミーシャ先輩は戦闘態勢を整えていく。


「だから、私が本気でやってやる」


 足元の魔法陣が輝いて、彼女の黒髪が逆立っていく。

 そして、右手を天へと掲げて、無感情な瞳と共に振り下ろされる。


「……『断罪聖典』。第58節、戦乙女の遊撃『God Be with You Till We Meet Again』」

 

 その直後。

 数えきれないほどの光の矢が、天から降り注ぎ、悪魔へと襲い掛かっていく。


「ふん、この程度」


 そんな無数の光の矢を前にして、悪魔卿の男は静かに反撃に出る。

 片手を無数の矢へと向けて、そっと手を握る。瞬間、空間が軋み、悪魔を襲っていた光の矢が次々とへし折られていく。


「……そこか」


 悪魔卿の男は静かに呟き、もう片方の手を空へと向ける。

 そして、先ほどと同じように手を握ると。天の彼方にいたであろう存在を、いとも簡単に握り潰した。遥か上空の空から、戦乙女たちの羽が音もなく落ちていく。


「おや、もう終わりですか? 天使ガブリエル末裔むすめともあろうものが、この程度とは」


 ちいさく、ため息をして。

 失望したかのようにミーシャ先輩を見下す。


「ですが、目障りであることには変わりありません。面倒ですが、先ほどの少年と同じように、惨めな敗北を与えてあげましょう」


 完全に興味を無くしていく、エドガー・ブラッド卿。

 彼は、目元に刻まれた星に触れながら、ミーシャ先輩のことを見る。

 そして、あの時のカゲトラと同じように。


「……では、天使の末裔よ。お前の『未来』も握りつぶしてやりましょう」


 ふふっ、と静かに嗤い。

 魔法陣に立っている彼女へと、片腕を向ける。


 そのまま、手のひらを握ろうとして―


「え?」


 悪魔の手が、ぴくりと止まった。

 握りつぶそうと手に力を入れて、小刻みに震えているというのに。ミーシャ先輩の『未来』を握ることはできなかった。


 わずかに動揺する、悪魔卿の男。

 そんな彼に向けて、ミーシャ先輩は意地悪く言った。


「あれ、どうしたの? 人間の未来なんて、ポップコーンのように脆いものなんでしょう?」


 その時、男は彼女を見た。

 輝く魔法陣の上に立っている、長い髪の少女。違うのは、……その髪色だ。

 ミーシャ先輩は銃のカタチをした手を、自分の頭に向けていた。

 指先の銃口を、こめかみに突き付けている。

 それだけだというのに、魔法陣の輝きが明らかに増して。異質な存在感を周囲へと放っている。


「……人間の可能性は簡単に握りつぶせても、天使と同格化した私は簡単にはいかないようね」


「っ!? まさか、天使化・・・?」


 ミーシャ先輩の髪が変わっていく。

 綺麗な黒髪だったのが、一瞬にして白銀へと塗り替えられる。

 背中からは白鳥のような美しい翼を広げて、瞳の奥に人間ではない輝きを秘める。


 そこにいたのは、一人の少女だった。


 血の奥底に眠る天使の力を呼び起こした、神々の奇跡。聖少女。神の代弁者。そして、悪魔を狩る天使。周囲に重さを感じさせない羽を巻き散らしながら、超越存在となった瞳が悪魔を捕らえる。

 ぞくり、と悪魔卿が恐怖した顔となる。


「……『断罪聖典』開帳。汝、己の罪を懺悔して、己の罰を受けいれるべし。……消えろ。第72節、『悪魔殺しのトール(Hark! The Herald Angels Sing)』」


 瞬間。

 天使となったミーシャ先輩の背後に、巨大な神の化身が現れて。

 悪魔卿、エドガー・ブラッド卿を叩き潰していた―



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[良い点] まさかの天使化キタコレこれでかつる
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